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第九話

 全く面倒臭い。

 不機嫌さを隠しもせず溜息を吐く総真の足元には、いかにもチンピラというような風体をした三人組の男達が転がっている。

 おまけに、此処は人の多い都心部の一角であり、周囲には無駄に騒がしいギャラリーの壁が出来上がっていた。人並みの承認欲求はあるものの過ぎた注目は好まない自身からすれば、非常に厄介な状況である。


「大丈夫か? アルトリーナ」

「はい。総真様に、守っていただきましたから」


 隣の女性がぺこりと翡翠色の頭を下げる。

 とりあえず守れた。その事実に喜ぶ事で周囲の状況から意識的に思考を外し、総真はもう一度重い溜息を吐いたのであった。


 ~~~~~~


 そもそもの切欠は、二人が街をぶらぶらと見て周り、そこそこ高いビルの並ぶ都心部に差し掛かった時の事である。

 街を見て回るのならば此処からが本番だが、生憎と一歩一歩に時間を掛けすぎたせいか、既に空は茜色に染まり始めていた。家までの距離も考えるとそろそろデートも終了の頃合だろう。

 本音を言えば、こんなにもゆったりとしたペースになるとは思っていなかったのだ。ただ、予想以上の好奇心を発揮したアルトリーナが、その涼やかな顔を崩さないままに様々なものに興味を示した事で、歩みが遅々として進まなかっただけの話で。

 とにかく、そんなこんなで二人は飽きもせず雑談を繰り返しながらも、街を抜けて家に帰るルートを辿っていたのだが。


「それじゃあ、俺とのデートはアルトリーナの成長を促進させる為だってことか?」

「はい。博士曰く、『恋愛こそが最も人の心を成長させる』そうです」

「それでデートかい。何と言うか、いかにも幼女らしい未成熟な考えと言うか。頭は成長してんのに心はまだまだお子様――「おいっ」え?」


 思わず立ち止まった。立ち止まらざるを得なかった。

 何故ならチンピラ染みた男達が三人、目の前に立ちはだかり進路を妨害していたからだ。


「あー……何か用ですかね?」


 とりあえず無難に受け答えしてみる総真。

 非常に、ひっじょ~に悪い予感しかしないが、或いは落し物を届けてくれた気の良い人たちなのかもしれない。見た目だけで人を判断するのはあまりにも早計だ、どんな相手でもまずは丁寧に対応してみるべきだろう。


「あ? 用はあるがお前じゃねぇんだよ。おい、そっちの姉ちゃん!」

「ちょっと付いて来てもらおうか、ふへへへへへ」


 前言撤回、間違いなく敵だ。それも即座に排除した方が良いような、唾棄すべき敵だ。

 アルトリーナへと怪しい目を向ける、恐らくは二十歳前後だろうデブ・ノッポ・デブノッポという無駄にスペースばかりとる屑の三連星みたいな連中への警戒度が一気に上昇。そっと気付かれない程度に、彼女を庇う為に前に出る。


「私、ですか? 何の用でしょうか、心当たりは無いのですが……」

「え~とその、兄貴が呼んでるんだ。だから、えっと、付いて来てくれると助かるんだ……」

「おいおい、用件も言わずに付いて来い何て、まともな人間の言う事じゃないだろ。大体誰なんだよ、その兄貴ってのは」


 対人経験の薄いアルトリーナ一人に任せていては、話がどんな方向に飛ぶか分かったものでは無い。だからこそ直ぐに口を挟んだ総真だが、敵意が漏れていたのもあるのか、途端に男達の態度が(元々酷かったが)酷くなる。

 ノッポの男がわざとらしく顔を厳つくして詰め寄ってきて……どうもそこに、若干の違和感を感じた。


「へえあ? お前、兄貴を知らないってのか? 一体どんな田舎者だ、ふへへへへへ」

「いや、兄貴ってだけで分かる訳無いだろ。名前位教えろよ」

「と、とにかく来て欲しいんだ。ほら、直ぐそこだから……」


 真顔で出した反論は無視された。

 アルトリーナを連行しようと伸ばされたノッポデブの手を思いっきり力を籠めて叩き落し……そこで、違和感の正体に気付く。


(こいつら、焦ってる?)


 まるで吐き気を我慢しながらトイレに向かうサラリーマンのようだ。何て、録に見た事も無いのに思いながら、総真は今度こそぐっと前に出る。

 アルトリーナは博士謹製のロボットであり、相応の武装も施されている事は聞いているが、それでも此処で彼女を庇えなければ男失格である。少々古臭い、総真の感性での話ではあるが。

 加えて言えば、『理想の女性』である所のアルトリーナに良いところを見せたい、という思春期の男の子らしい見栄も入っているだろう。そういう所がどこぞの少女から馬鹿と言われる所以でもあるのだが、本人は気付いていない。


「何だ、邪魔するのか? はっ、痛い目見る前に退散した方が良いぜ。何せ俺達、三人揃って時流者だからな!」

「三人共……!?」


 これには流石に総真も驚き、急いで己に内蔵されたシステムの一部を起動させた。

 左目が赤く染まり、つらつらと文字が流れていく。目の前の三人の時粒子保有量をこっそりと調べ、出た結果は黒。確かに全員、時流者であった。

 ただのナンパだと思い軽い気持ちで居た総真だが、一気に表情が真剣になる。それもそうだろう、彼の持つシステムを使えば一般人など百人居ても敵では無いが、時流者となればそうはいかない。

 ほんの一息、瞬き程の隙を晒しただけで、アルトリーナを浚われてもおかしくないのだ。そう考えると、初めからその手で来られなかったのは幸いと言うべきか。


(今後は常に、警戒用のレーダーと思考の緊急加速だけはONにしておいた方が良いな)


 反省しながら臨戦体勢を取る総真に、男達が訝しげな顔を作る。

 時流者三人を相手にして抵抗の構えを見せるなど、明らかに常人では無い。普通なら警察にでも連絡を取ろうとするものだ、戦おうと考えること事態がこの世界の一般人の常識から外れている。

 が、それを嘘を言っていると思われたか、単なる虚飾か、或いは相手も時流者かと判断した男達は、露骨に強気に出た。例え自分達と同じ時流者だったとしても、三対一ならば負けるはずが無いと考えたのだ。


「おうおう、抵抗するってのか? 馬鹿なのか? お前は」

「ふへへへ、そうだそうだ。痛い目見るだけだぜ~?」

「お、大人しく従って欲しいんだ……傷つけたくは無いんだ……」


 じわり、距離を詰めてくる男達の警告を、しかし総真は一蹴する。


「お前らこそ、本気か? 時流者がその力を盾にして人を浚った、何て事になったら間違いなく逮捕、それも重罪だぞ」

「う……それは……」

「おい、今更躊躇ってる場合か! 連れて行かなきゃ兄貴にお仕置きされちまうんだぞっ!」


 しり込みしかけたデブノッポを、デブが一喝。

 その言葉で総真は、彼等の焦りの原因を悟った。


「お前らも辛い立場なんだなぁ。まあ、だからって譲る訳も無いんだが」

「うるせえ! 同情されたって嬉しかねんだよ!」

「やるぜー、お前らっ」

「ぼ、暴力は良くないんだけど……仕方ないんだ……」


 男達が此方を囲むように散らばり、それらしい構えを取る。

 素人丸出しのその姿にこいつ等喧嘩慣れしてないな、と当たりを付けながら、総真もまた腰を落として構えを取った。


「「「クロック・ロック!」」」

「トーレン・ライド!」

 ――Data Set Ready,Go!――


 ~~~~~~


 そうして、現在の――男達を打ちのめし無駄な注目を浴びる、という――状況が出来上がった訳である。

 はっきり言って、男達は弱かった。確かに時流者であり、遮断時流も展開出来ていたが、その性能は飲まず喰わずで絶不調だった狂三郎にも遥かに劣る。

 更には総真の感じた通り喧嘩慣れもしておらず、憎きあん畜生を倒す為に身体を鍛え、博士謹製のシミュレーションシステムで擬似的な戦闘訓練を重ねてきた彼からすれば、子供と喧嘩するのと大差は無かったのだ。


(トーレン・ライドにも大きな問題は無い。戦える……この力なら間違いなく、あいつとも戦えるっ)


 長年の夢、その達成の時が確実に近づいている事を確信し、高揚する気持ちを表すように拳を握る。

 先日の狂三郎との戦いの時には冷夏を助ける事ばかり考えて頭から抜け落ちていたが、自分は戦えているのだ。世界中の誰もが絶対的な力と認識し、届かないと諦めた、あの時流者と。


(とはいえ、こんな雑魚を倒した位で息巻いてたんじゃ、あいつには届かないか)


 何せあん畜生は現役時流者の頂点、世界一。こいつらどころか冷夏や狂三郎とも比較にならない程の実力を備えているはずなのだ。

 奴を倒す為にはやはり、今だ不完全なトーレン・ライドの真なる完成が――


「ふ、ふへへ……。調子に乗っていられるのも、今の内だぜ」

「何だ、もう目覚めたのか。もっと強くぶん殴っとくべきだったか?」

「やめてっ! 勘弁してくれ、痛いのが嫌だから兄貴に従ってるってのに!」


 目覚めたノッポがむくりと体を起こし悲鳴を上げる。

 その叫びが響いたのか、残りの二人もまた意識を取り戻すと、一斉に抗議の声を上げてきた。

 何故か揃って正座している為、迫力は皆無であったが。


「第一おかしいんだよ、何で時流者でもないのに遮断時流に対応出来んだ!」

「は、速くて追いきれないんだ……それに手足から何か出てたし……」

「へへーん、いい加減時流者がでかい顔していられる時代も終わりって事さ」


 実際の所、世界の戦力状況を一変させかねないこのシステムを公表するつもりは欠片も無いのだが、とりあえず煽っておいた。アルトリーナを浚おうとした罪は重いのだ。


「はっ、どんな絡繰かしらねぇが、今に見てろ。兄貴に掛かればお前なんてなぁ……」

「良いのか? その兄貴が来たら、お前らお仕置きを受けるんじゃあ」

「はっ!? そ、そうだ、しまった!」


 どうにも抜けた連中である。

 三人顔を突き合わせてどうしよう、どうしようと相談し合う彼等を見ていると、案外悪い人間では無いのかもしれないと思えてしまう程に。最も、だからといって許す訳も無いのだが。

 とりあえず警察に突き出すか――いやでもあまり大事にするのもどうなんだ――。

 そう能天気に悩んでいた総真はしかし、次の瞬間心の底から凍りつく事になる。


「――簡単なお使いも出来ないのか、お前ら」


 群集を掻き分け――否、群集の方が自らその道を空け、出来た一本の道。そこから現れた一人の男の発した低い声に、総真やチンピラ達が一斉に振り向く。

 聞き覚えなど無い。だがそれでも思わず反応せざるを得ない程に、意識を引き付ける重みのある声だった。

 そうして現れた男の姿にまた一つ、深く意識を持っていかれる。


「だから、三流」


 鋭い鷹のような目を怯えるチンピラ達へと向ける男の容姿、格好は、非常に人の目を引くものであった。

 年の頃は総真よりも幾分か上、恐らくは二十代中盤。灰色の短い髪を後ろに倒すように逆立たせ、身長は百八十センチを超えているだろう。

 その身に纏うはぴっちりとしたハーフパンツとタンクトップという、猛暑を考えても流石に都市部に出てくるにはどうかと思うものだったが――しかしそれも、彼の肉体と雰囲気が合わされば十分な魅力と化す。

 日に焼けた小麦色の肌。六つに割れた腹筋。図太く筋肉の付いた手足。服越しに浮き上がる、鍛え上げられた完璧な肉体――。

 ボディービルのような『魅せる』為の肉体とは違う、重量級のボクサーのような、それは正に戦う為の肉体だった。加えて男からはその周囲の空間が歪んで見えてしまいそうな程強力な存在感が、極自然に溢れ出しているのだから始末に終えない。

 誰だって、彼を見る。そして誰だって、彼の前に立とうとは思わない。

 本能が一目で理解する。あれは、自身とは違う。『強者』という存在だ、と。


「あ、兄貴!? ど、どどどどどうして此処に!?」


 デブが慌てた様子で近寄ってくる男へと問う。

 なる程、やはりあの男が彼等の言っていた兄貴か。そう理解して、出来れば理解したくなかったとも思う。あんな男がアルトリーナを狙っているという事実など。


「遅い。だから、来た」

「い、いやいやいや、そんな時間経ってませんぜ!?」

「遅い」

「いや、確かに遮断時流からしてみれば随分時間が経ってるかもしれませんがね、一般的な時間じゃ全然……」

「遅い」

「……はい。すいません」


 しょんぼりと顔を俯かせるチンピラ三人衆へと、めっ、とまるでおかんのような態度で言葉短に叱りつける存在感の塊のような青年。

 その光景に、総真は僅かばかり毒気を抜かれ。しかし彼こそがアルトリーナを連れ去ろうとした黒幕だ、と思い返し固い顔で会話に割り込む。


 ――そもそもこの隙に逃走すれば良かったのだが、男の存在に気圧されて頭が混乱していたんだろう。後に総真はこの時を思い返し、そう述懐する事になる。


「なあ、おい。お~い?」

「……む。何か、用か」

「いや、用があるのはそっちじゃないのか?」


 振り向き首を傾げる男に眉を顰めてそう返せば、彼は数秒黙って考え込んだ後、


「お前には、無い。だが彼女には、ある」


 後方で佇むアルトリーナへと、そのまま視線をスライドさせた。

 その視線と言葉を受け、前に出て総真の隣へと並んだガイノイドは、丁寧に腰を折り曲げ深深とお辞儀。


「初めまして、アルトリーナと申します。それで、一体何の御用でしょうか?」

「これはご丁寧に。丹羽にわ 鹿野比呂かのひろ、です」


 応えるようにお辞儀を返す男――丹羽の姿に、総真はまた一つ気が抜ける思いを感じていた。

 先程のチンピラ達とのやりとりといい、どうも素手で虎を殴り殺しそうな見た目のわりに、生真面目というか変に真っ直ぐというか。


(こいつが本当に、アルトリーナを連れて来るように指示を出したのか?)


 つい疑ってしまう。が、丹羽の態度からしてもアルトリーナに用があるというのは本当のようである。

 ただのナンパ目的かと思っていたが、もしかして何か事情でもあるのか――? そう考え何時でも動ける体勢を取りながらも、二人の様子を観察していた総真の目の前で、丹羽は幾らか虚空に視線を彷徨わせ。


「単刀直入。俺と、恋人として付き合って下さい」

「却下ああああああああーーーーーーーーー!!」


 言うが早いか、トーレン・ライドまで使って加速した総真は、素早くアルトリーナを引き寄せ腕の内に抱え込む。

 その顔には先程までの思案気な表情はもう無い、あるのは威嚇する猫のような面だけである。実際何かフシャーフシャー言ってるし。


「……どうしてお前が邪魔をする?」

「邪魔したいからっ! っていうか何だ、いきなり愛の告白って。まだ名乗っただけで初対面だろ!?」


 アルトリーナは博士謹製の人型ロボットである。しかも正式な稼動は今日が初めての。

 これまでにも何度か試験稼動自体は行っていたらしいが、それもあくまでも研究所内での話であり、外に出した事は無かったらしい。

 要するに、彼――丹羽 鹿野比呂が以前アルトリーナに会った事がある、という可能性は皆無なのである。研究の協力者だというのなら、流石に総真が気付いていないはずもないので、間違いなく二人は初対面のはずなのだ。

 にも関わらず、自己紹介の直後に唐突な告白。訳が分からず疑問を呈した彼は悪く無い、多分。


「私としても気になります。もしかしたら何か、複雑な事情がお有りなのでしょうか?」


 動揺も見せず、アルトリーナもまた問い掛けた。

 そこで改めて総真は思い至る。そうか、あくまでも彼が言ったのは恋人として付き合って欲しいという旨のみ、もしかしたら漫画や小説に良くあるような『偽の恋人』を作る必要があって――


「複雑な事情は、無い。ただ……貴女に一目惚れした」

「とっとと消えて新しい恋でも探しな! しっしっ!」


 理由を聞いた途端、手で追い払うような仕草をする総真。

 その態度を受け、これまで大人しかった丹羽も流石に顔をむっとした。


「さっきから何だと言うんだ。お前は彼女の恋人か?」

「うっ……! いや、そういう訳じゃないが」


 痛いところを突かれた。

 此処まで口を出しておいて何だか、そもそも総真はアルトリーナと付き合っている訳ではないのだ。丹羽が彼女に告白した所で、それを止める理由など持ち合わせていないのである。

 むしろ、どちらかと言えば邪魔者は総真の方。彼の好きになった理由にもおかしな所は無いし、その想いを伝えるも伝えないも本人の自由なのだから。


(しかしだからといって、まだ生まれたばかりのアルトリーナに判断の全てを任せるのは危険過ぎるっ)


 若干の親心のようなものも籠めて、総真は事態の静観を拒否する。

 今日一日デートして分かった事だが、アルトリーナは非常に純粋だ。生まれたばかりなので当たり前といえば当たり前なのだが、その落ち着いた見た目や態度とは裏腹に、心はまだまだ未成熟なのである。

 そしてなにより、彼女はもう自分達の家族なのだ。録でもない男の魔手から守らなければならない、これは最早使命なのだっ!

 息巻く総真。その間にするりと腕の中から抜けたアルトリーナは、やおらその口を開くと、


「総真様は、私の主です」


 特大の爆弾を、容赦なく投下した。

 カチン。周囲の空気が冷え、固まる。数秒経って最初に起動したのは、誰であろう丹羽だった。


「まさか……そういう趣味が……」

「ちょっと待て、お前は何か勘違いしている!」


 何が悪かったのか分からず無垢な瞳のまま首を傾げるアルトリーナを一瞥した後、此方へと非難の目を向けてくる彼に、慌てて弁明しようとする。

 が、それよりも早く、ギャラリーの声が耳を叩いた。


「おいおい、主だってよ……」「最近の若いのは変な趣味を持ってるんだねぇ」「いやいや、もしかしたら本当に良いとこの坊ちゃんなのかも」「あんなのが? 無い無い」

「今あんなのって言ったの誰だぁ!」


 つい、抗議の声を上げる。その時間が命取り。


「おい」

「はっ!」


 気付いた時には、肩に手を掛けられていた。

 急いで振り向けば、当然の如く鷹のような双眸と目が合って。


「どうやらお前は、倒さなければならない『敵』らしいな」

「あーいや、それは誤解――」


 言葉はそこで止まった。


(もしかして、好都合じゃね?)


 総真としては、何とかしてこの男を排除したい。あんなチンピラ達を従え、挙句の果てに無理矢理アルトリーナを連れてこさせようとした奴など、どう考えたって碌な人間ではないのだから。

 だが、これまでは彼の告白を堂々と阻害出来るだけの理由が此方に無かった。しかし今はどうだ、あちらから喧嘩を売ってくれるというのなら、


(容赦なく、ぶちのめせる!)

「総真様、お顔が……」


 邪悪な表情を浮かべる総真に、思わず声を掛けるアルトリーナ。しかし最早その声も彼の耳には届いていない。

 目の前の男を見据え、戦意を顕す。


「はっ、そんなに俺と戦いたいのか? ……どうせお前も時流者なんだろうが、だから勝てるって訳じゃないぜ?」


 正座したままのチンピラ達を顎で指す。

 しかしそちらには目もくれず、丹羽は真っ直ぐに、


「俺が勝ったら、彼女を解放しろ」

「別に縛ってる訳でも無いんだが……まあ、俺が負けたら彼女を解放する。約束しよう」


 ――アルトリーナが勝手に仕えて来る場合は知らんがな!

 ――ついでに俺に勝ったからって、お前が付き合える訳じゃないがな!


 内心で嗤いながら、総真は勝負を快諾する。

 彼とて馬鹿では無い、いや大馬鹿者ではあるのだが。とにかく、もしこれで負ければアルトリーナを奪われる、というのであれば決して受ける事はなかっただろう。

 相手の実力も判然としない状態でそんな勝負を受けるなど、愚かの極みだ。しかし今回相手の提示してきた条件はアルトリーナを解放しろという一点のみ、仮に負けた所で此方に不都合など何も無い。

 だからこそ、受ける。意外と狡猾なのだ、総真は。


「それじゃあ勝負だ。俺が勝ったら、もう二度とアルトリーナに関わるなよ!」

「構わない。勝つのは、俺だ」


 バチバチと、男達の間で散る決戦の火花。


「あの、総真様……」

「アルトリーナは下がっててくれ。……行くぞ筋肉男!」

「五秒と掛けず、のす」


 アルトリーナの静止ももう届かない。

 愛する人(?)への想いを掛けて、今男達の戦いの火蓋は切られた。


「トーレン・ライド!」「クロック・ロック」

「丹羽さんは……ああ、始まってしまいました……」


 ――どうしたら良いか分からず、おろおろとうろたえるアルトリーナを残して。

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