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第七話

 綺麗だ――熱に浮かされたようにぼやけた頭に浮かんだのは、そんなありふれた言葉だけだった。

 半透明の白色の液体に包まれその肢体の全てを惜しげもなく晒す彼女の姿は、それ程までの衝撃を総真の脳細胞の一片に至るまで刻みつけたのだ。

 静かに閉じられた切れ長の目、長く整った眉、鮮やかな紅に染まった瑞々しさと色気の同居する唇。その白い肌には手足の先に至るまで染み一つ見当たらず、黄金比と言える程に整ったその肉体には弛み一つ存在しない。

 頭部から伸びる長い緑髪は周囲からの光を受けてエメラルドよりも美しく輝き、それら全てを統合した彼女という存在は、そう……女神と言われても即座に信じてしまいそうな程に、浮世ばなれしたものであったのだ。

 要するに。四速総真という人間は、一目で彼女――アルトリーナという人間にしか見えないロボットに、その心を奪われたという訳だった。


「これが、ロボット……? というか何ガン見しているんですか、ロボットだろうと何だろうと女性の裸を凝視するなど変態の所業ですよ。あ、変態でしたね。ってあの? おーい?」


 いつものように毒を吐く冷夏も、まるで気にならなかった。意識の全てが、今はただ目の前に浮かぶ女性へと注がれている。

 手を伸ばす。彼女という存在を求めるように、無意識の中ゆっくりと己の右手を前に出し――


「総真っ! いい加減反応しろ、総真ああああああああああああああああ!」


 ぽこん、と腰を叩く小さな衝撃と耳を劈く豪声に、水を掛けられたように意識を取り戻す。

 まだ判然としない思考のまま視線を下げれば、ぷんすかと怒気を発する博士が頬を膨らませて己を見上げていた。


「博士……彼女は?」


 試験官の中に浮かぶ女性を震える指で差し、問う。


「言ったろう、彼女こそ私の大発明。心を持ったロボット……或いはガイノイド、と言っても良いか。MN―11483・アルトリーナだ。ちょっと待っていろ、今整備槽から出す」


 小走りで試験官のような整備槽に駆け寄った博士がその下部に付いている装置を操作すれば、ゴポゴポと音を立て、繋がっている太い管から中の液体が排出されていく。

 けれど如何なる力か、中の彼女はその場に浮いたままであった。その事に驚く間もなく更に博士が装置を操作すると、機械的な音を鳴らしながらゆっくりと整備槽の前面部が解放され、その内部を外気に晒す。

 そうして、入り込んだ空気の僅かな流れに反応するように。彼女はゆらりと双眸を開け放つ。

 髪と同じ、エメラルドグリーンの瞳だった。その輝きを以って彼女という存在は、その美は完成を迎えた。そう、総真は感じた。


「MN11483―アルトリーナ。起動、完了。自己チェック……問題は見つかりません」


 否、まだだった。どんな楽器の音色よりも流麗で心地好い声。それこそが、彼女に真なる完成を齎す最後のピース。

 全てに文句のつけようが無い――それが、総真の正直な感想。偽らざる本音。

 一見すれば無機質に思えるその表情すら、美貌の一端だと思え――


「どこぞの毒舌少女とはまるで違う……」

「誰のことですか? 誰であっても許しませんが」

「あばばばばばあばばばばばばばば!」


 電撃が、彼の身を打った。物理的に。


「な、何、を……」

「それは此方の台詞です。ぼーっと間抜け面を晒して貴方は何がしたいんですか? アホ面世界チャンピオンにでも成りたいんですか? 良いですね、相応しいと思います。という訳で今すぐ外に出て皆さんにその顔を見せてきて下さい」

「おいおい、そんな事をしたら皆俺に惚れちゃうぞ?」

「…………」

「やめろっ! ちょっとした冗談だろっ、だからその『うわぁ、こいつ存在の芯から腐ってんな』って目でマジ引きしながら一歩下がるのをやめろぉ!」


 お願いします、と総真は頭を下げて頼みこんだ。その見事な土下座っぷりに博士は腹を抱えて笑い転げている。

 ややあって。しょうがない、という風に頭を振った冷夏は、無言でスタンガンをぶっ放した。


「あばばばばばばばばばばば!? な、何故……」

「とりあえず撃っておくべきかな、と思いまして」


 そんな不祥事を起こした不真面目警官みたいな言葉を吐きつつ凶器を懐に仕舞いこんだ冷夏は、改めて博士と一連の行動に小さく首を傾げているロボット(らしい)の間で視線を往復させる。


「それで、彼女は本当にロボットなんですか? とてもそうは見えませんが……」

「本当だともっ。彼女は百パーセント人工物、完全無欠の人造人間だ。最も、これから成長する心の分だけは人工物ではなくなるがなっ」


 もう一度、冷夏は彼女――アルトリーナを見る。

 自信満々に力説された所で、やはりどうにも信じ難い。何せ彼女の何処を見てもそれらしいところは見当たらず、むしろ同じ女性として羨望と嫉妬を抱くような見事な容姿だけが網膜に残るのだ。

 強いて言えばエメラルドグリーンの頭部、その前面部にちょこんと機械的なパーツがくっ付いている事だが……それだけならば、普通の人間に適当に外装を取り付けるだけでも同じになる。

 結論、彼女をロボットだと断定する要素は何一つとして見つからず。しかし同時に、彼女がロボットでは無いと否定する要素も無い事に、冷夏は気が付いた。

 常識で考えれば、こんな人間と遜色ない見た目のロボットなど現代の技術力で作成出来るはずが無い、と胸を張って言えるだろう。だがよく考えてみて欲しい、既に我々は見ているはずだ。人と遜色無い見た目の機械、というものを。

 そう――総真の義肢である。言われるまで、いや言われても全く生身との違いが分からなかったあの義肢が造れる博士ならば、確かに人と変わらぬ人工の肉体を造りだす事も可能なのではないか。

 そして同時に。あの小さく優秀な博士が、こと発明に関して虚飾を吼えるような人間では無いことを、ここ数日の交流で朧げながらも冷夏は悟っていた。


「本当に、彼女はロボット……」

「その通りです、冷夏様。私はまごうことなき機械人形、博士によって製造されたロボットです。お疑いならば、証明いたしますか?」


 誰にともなく零した呟きに言葉を返され、冷夏は目を見開いた。

 彼女のその反応にも特に表情を変えぬまま、整備槽から歩み出た機械女性は徐に自らの豊かな胸、その片方に手を掛けると、冷蔵庫の扉でも開くような気軽さで開け放つ。

 そう、開けたのだ。自らの肉体を。

 ぽっかりと空いたその穴から覗くのは、冷夏にはまるで理解出来ぬ複雑なコードや機械類。そしてその奥、本来ならば心臓があるはずの場所で輝く、手の平大の小さな球体。


「これで、信じて頂けましたか?」


 呆然と、冷夏は頷くしかなかった。まさか此処まで来て手の込んだ手品という事はあるまい、彼女が機械の身体である事は確定事項だ。


「……そうですね。非現実的ではありますが、そんな現実離れした技術を博士が持っていることは私も知っています。信じましょう、貴女がロボットだと。その上で一つ、言わせてもらいますが」

「? 何でしょうか」

「とりあえず、服を着て下さい。そこの変態が見ています」

「またかぁああああばばばばばばばばばばばば!」


 倒れたふりをしてこっそりアルトリーナの裸体を目に焼き付けていた総真を貫く、一陣の雷撃。

 哀れ、青少年の欲望は少女にはバレバレであった。


「む、無念。綺麗なロボット淑女と一緒のベッドで、昇る朝日を眺めたい人生だった……」

「本当に終わらせます? 人生」

「御免なさい。最大出力は本当に死ぬので止めて下さい、お願いします」


 恥も外聞も無く二度目の土下座を決める総真には最早目もくれず、冷夏は博士達を促すと羞恥心の欠落した人造人間に服を着せる為、メイン研究室を出て行ってしまう。


「お言葉ですが、私にも羞恥心というものは存在しています。ただ、この場に居る皆様には隠す必要が無いというだけであり……」

「はいはい、分かりました。恐らくは博士にそう教えられたんでしょうが、それは明確な間違いです。あの性欲改造人間には一平方センチメートルの肌を見せる事でさえ躊躇うべきです、それが宇宙の真理ですし」

「そう、なのですか? 主記憶装置に書き込んでおきます」

「ええ、そうして下さい。ぜひ」


 間違った知識を世界に齎しながら姿を消した三人を横目で見送り。総真は感電し震える右手で、かろうじてガッツポーズ。


「改造人間は伊達じゃない、ぜ」


 左目の義眼と直結した補助メモリには、撮影されたアルトリーナの裸と床に伏せた事で一瞬だけ見えた、それこそ常人では認識すら困難であったろう冷夏のスカートの奥の写真が、厳重なロック付きで収められていた。

 執念此処に極まれり、である。


 ~~~~~~


「それで結局どういう事なんですか? 詳しく説明して下さい、博士」


 アルトリーナの目覚めから十分後。しっかりと彼女に服を着せ終えた女性陣と復活した少年は、研究室の一角にある丸テーブルを囲み、それぞれ四方を陣取るように椅子に腰掛けていた。

 本来ならば一番に説明を求める声を上げるべきだろう少年は、先程からずっと向かいに座るドレスアップした人造人間に目を奪われている。

 確かにクリーム色のカーディガンの上に薄手のストールを着け、紺色のロングスカートを履いたその姿は図書館で本を読んでいる光景がばっちり似合いそうな落ち着き具合であり、同時に腰まで伸びる緩く広がった翠色の髪が神秘的な雰囲気を醸し出し、女性である冷夏から見ても溜息の一つも出そうな位魅力的だったが。

 だからと言って幾ら何でも見蕩れすぎだと思うのは、おかしいのだろうか?

 そんな自分でも良く分からない疑問をこっそりと心の奥に抱きながら、冷夏は対面に座る少女へと説明を求めた。


「説明か。そうだな、何から説明したものか……まずは彼女、アルトリーナを造った動機からにするか。昔から人型のロボットというのはロマンの塊であり、人の夢だった。事実人そっくりに近づけたロボットの開発は、今も世界中で行われておる」


 確かにそれは、事実だろう。だが同時に、その技術レベルばまだまだ低いというのが現状のはずだ。

 今の世界の科学力ではせいぜいが二足歩行の金属の塊、或いは人形を無理矢理動かしたようなロボットが精一杯。人と変わらぬ、どころか一目見ただけで人間では無いと直ぐに分かってしまうようなロボットしか造り出せないのである。

 それを鑑みれば、幾ら天才とは言え彼女の生み出したこの人造人間は、オーバーテクノロジーにも程があった。しかも、それだけでは終わらない。


「私も例に漏れず、人間そっくりのロボットの開発には興味を持った。そうして実際に情熱を傾け、研究に取り組んだ。ただ一つ、市井に溢れる他の研究者達と違ったのは、そのロボットに心を与えようとした事だ」

「幾ら博士とはいえ、そんな事が可能なんですか? 心という不定形で未だ判然としないものを、無機物に与えるなんて……」

「苦戦したさ、私もな。身体の方は総真の義肢を開発した経験もあって割りと簡単に出来たのだが、心に関してだけがそうはいかなかった。何度も失敗しながら、何度も研究を重ねて……最後の決め手は結局、偶然だったよ」

「偶然? 運という事ですか?」

「まあ、似たようなものだな。詳しく言っても分からんだろうから省くが、研究中にミスをしたせいで軽い事故が起こってな。気付けば、組み上げてあった素体に心が宿っていたのだ」


 冷夏は、ほんの少しだけほっとした。流石にこの大天才といえど、自由自在に心を生み出せる訳ではないようである。

 勿論偶然であれそれが出来た事は天を突くような驚愕ではあるのだが、もしこれが偶然ですらなければ、本当に同じ人間かと疑っていた所だ。


「後は単純だ。トーレン・ライドと並行して、彼女の開発を進めていった。最大の問題点である心が解決した訳だからな、そう難しくはなかったよ。で、先日トーレン・ライドの方が一端の完成を見た事で、此方も完成させてしまおうと思い立ち……」

「今日、遂に起動の時を迎えた、と」

「そうだっ。見事なものだろう、見た目では一切人間と区別がつかない。さっき触れて分かっただろうが、感触も人間と全く同じだ。汗こそ掻かないが匂いもある、擬似的な呼吸もする、体温もある。胸に手を当てれば、心臓の鼓動そっくりなαレンド機関の振動が伝わるはずだ」

「αレンド機関?」


 聞いた事の無い名前に、思わず反芻。


「おっと、そうかそこの説明がまだだったか。αレンド機関は私の開発した特殊なエネルギー生成装置でな、総真にも搭載されておる」

「あの馬鹿にも……?」

「うむ。そのαレンド機関から生み出されるリージェネレイト・エネルギーこそが、トーレン・ライドというシステムを支える要。また、過不足無く義肢やアルトリーナの身体を動かす為の源にもなっておる」


 彼女の説明によれば、リージェネレイト・エネルギーは干渉に干渉するエネルギーなのだという。

 それだけ聞けば何のこっちゃという話だが、要するにあらゆる物理的な現象に対して任意的な操作を可能とする力なのだ。

 例えば噴射口からエネルギーを発した時、それだけならばある程度の風を起こして終わるだろう。だが干渉に干渉する事で、そよ風のような勢いにも関わらず大きな推力を生み出し、人間の身体を超高速の領域で飛ばすような真似が出来るようになる。

 更に身体に浸透させたリージェネレイト・エネルギーの干渉力を利用すれば、その体に掛かる様々な干渉――超高速で動く事により発生するGや衝撃――を大きく緩和する事が可能である。当然、その状態で何かに激突した(殴った、殴られた)場合に受けるダメージも、大幅に軽減する事が可能だ。


「この力の良い所は、そうした『大きな領域』だけでは無い、もっと小さな領域においても万能に働くという点だ」

「小さな領域?」

「うむ。例えば、義肢の指先を動かす際の各種稼動。例えば、歩行の際の一歩一歩の動きや重み。そういった部分においてもこのエネルギーを使う事で、生身にも劣らず、区別出来ぬ程の自然な動きを実現しているのだ」


 なる程、通りで手足の動きが妙に生々しく厭らしい訳だ。

 などと同居人の挙動を思い出しながらずれた事を考える冷夏は、とりあえず先程から一言も発さず見詰め合う二人(?)に突っ込みの言葉を入れた。


「で、貴方達は何をしているんですか」

「邪魔をするな冷夏、今俺はにらめっこという名目で彼女と見詰め合う甘いひと時を――ちょっと待てスタンガンを出すな、流石に流れと気配で分かるぞっ!」

「少しは学習したようですね。ですがそもそも口を噤めなかった時点で三流芸能人以下です、という訳で罰ゲーム」

「やめっ――あばばばばばばばぁ! ……って、あれ?」


 何とも無かった。総真の優れた動体視力は確実に冷夏がスタンガンを自らに向けその引き金を引いた瞬間を捉えていたし、待機状態のトーレン・ライドの効果によって加速された感覚は雷撃が一直線に飛来する様子を微かにその双眸に映していた。

 だが、今彼は無事である。いつものように乾電池になって床に倒れる事もなく、無傷で椅子に座っているのである。

 そんな自分の現状が信じられず二・三度目を瞬かせれば、視界の端で彼女がその可憐な唇を動かした。


「お怪我はありませんか? 総真様」

「アルトリーナ、さん? もしかして貴女が……?」

「はい。博士から、総真様のサポートを行うよう命令を受けていますので。少々、粒子結合式円状障壁――所謂バリアを展開させていただきました。それとどうぞ私の事はアルトリーナ、とお呼び捨て下さい。貴方と博士に仕える事こそが、私の使命ですから」

「アルトリーナ……ってちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待て博士、これどういう事!?」


 慌てて問いただす。横では冷夏も、同じような目を博士へと向けていた。


「どうもこうも、昔から人手不足に悩んでいたものでな、優秀な助手が欲しかったのだっ。あるいはバリアの事か? それなら自衛や私の防衛の為に取り付けただけだ。他にも色々と武装を隠し持っているぞっ!」

「違う! そんな事はお前の性格を鑑みれば直ぐに分かる、そうじゃなくてだな!」

「なんだ、何をそんなに騒いでいるのだ?」

「いやだって、俺に仕えるって……! どこぞのちんちくりんな偏屈毒舌少女とは違って、心も身体も本物美人なアルトリーナが、俺に仕えるって!」

「誰の事ですか? 後、まだ大して話してもいないのに性格なんて分からないでしょう?」

「うるせえ! 俺には分かる、彼女は清らかな心の持ち主だっ! 罵声とスタンガンしか出てこないような誰かさんとは違うんだよ!」

「かっち~ん。最大出力です、えい」

「だからそういう所が駄目だって――おわっ!?」


 目の前でばちりと弾けた雷に、思わず慄く。が、やはり雷撃は身体まで届く事無く、そのまま空中で霧散した。


「冷夏様。貴女の事は、博士から信頼出来る友人として教えられています。ですが――これ以上総真様に危害を加えるのならば、私としても断固とした態度を取らなければなりません」


 ギチリと、鉄を擦り合わせたような音がした。

 途端、驚く間も無く彼女の右手が形を変えていく。刹那の間に変形を終えたその姿は、人の腕程もある鈍色の片刃剣。

 明らか過ぎる位に元の手よりも長いその凶器に、質量保存の法則も何もあったものじゃねぇな、と無意識の内に総真は頬を引く付かせた。これも博士の超科学のおかげなのだろうか。

 ぐっと、その巨大な威圧感に冷夏は僅かに身を引く。そうして刃にリージェネレイト・エネルギーを通しながら、アルトリーナは、


「スタンガンは一日二発まで。出力も死なない程度に抑えて下さい」

「いえ、十発でお願いします」

「駄目です」

「ならせめて五……いや、六発」

「駄目です」

「仕方ありません。三発で妥協します」

「……承認しましょう」

「では早速、残り一発を……」

「狂ってんじゃねぇぞ! 一日三発もスタンガンを喰らってたら、普通の人間なら頭が天に昇っていくわっ!」


 勘違いしてはいけない。総真は時流者とも戦えるシステムを宿してはいるものの、あくまでそれだけの人間である。電撃を喰らえば当然痛いし辛いし苦しいし痺れるのだ。


「別に構わないでしょう? 貴方の頭は生まれた時から沸いてますし」

「俺だって生まれた時は皆と同じ無垢な子供だよ!」

「今は?」

「…………」


 黙った。つい先程盗撮を働いていた自分では、嘘でも無垢とは主張出来ない。


「そ、それで博士! 博士だけならともかく、俺にも仕えるってのはどういう事なんだ?」

「誤魔化しましたね」


 じと~と見詰めてくる冷夏にはあえて反応しない。したら撃たれる、間違いなく。


「どういうも何も当然だろう。私と総真は家族だ、私に仕えるのならば総真にも仕える、これは常識だ。それとも嫌だったか?」

「そう、なのですか?」

「いやいやいや、まっさか!」


 不安そうなアルトリーナに、慌てて否定する。ほっとした様子の彼女に、此方も同じくほっとした。

 すると博士が、


「はっはっは、まあそうだろうな。綿密な調査を元に『総真の理想の女性』をモチーフにしたかいがあったというものだっ!」

「え……? はっ、そういえば以前そんなアンケートを取られた気が……!」


 もう何年も前の事だ。にこにこ笑顔の博士が、一枚のアンケート用紙を手渡してきた事があった。

 その時は何の意味があるのかと疑問に思いながらも、勢いに押されて書いてしまったが、まさかこの為だったのか。


(通りで俺の好みど真ん中に来る容姿だった訳だ。そりゃ一目で心が奪われるはずだよ)

「見事な仕事ぶりだろう? アンケートだけでなく、総真の部屋にあったエッチな本も参考にしたからな、抜かりは無いっ!」

「色々言いたい事はあるが、とりあえずグッジョブだ博士! 特別に説教は無しにしてやる!」


 何処かに隠しておくべきだっただろうか。いや、そんな真似をした所でこの幼女の事、へんてこな発明品で無理矢理にでも見つけるか。

 そう諦めながらも、冷夏にだけは見つからないようにしておこう、と密かに決意。もし見つかれば、何も悪くないのに電撃を喰らった上、纏めて燃やされる未来が見え見えである。


「そしてだ総真。此処からが午後の予定も空けてもらった理由なのだが」


 そうして、何でも無いようにこの幼女は、


「お主にはアルトリーナと、デートして貰う!」


 そんな爆弾をキャンプファイヤーに放りこむような事を、のたまったのであった。

 また一悶着、起きそうである。

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