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第五話

「さーてそれで、問題はあの男だが」


 がらりと音を立て、破砕されたビルの破片を吹っ飛ばし顕れ出でた全裸の男に、総真は半身になって身構えた。

 ぎちりと灰色の拳を握り締める。初の実戦、当然緊張もあるが今はそれ以上に完成したシステムに対する興奮の方が大きかった。

 さあ、行くぞ――そう気合を入れる彼の後ろで、すっと冷夏が右手を上げる。


「一つ、質問なのですが」

「何だ、大した事じゃないなら後にしてくれ。まずあの男をぶっ飛ばさなきゃならんしな」

「いえ、結構重大な質問です。遮断時流を展開していた私達時流者の戦いに、どうやって割って入って来たんですか? まさか貴方も時流者だったんですか? 騙してたんですね、最低です」

「違うわっ。こいつのおかげだよ、俺と博士で造り上げた『時流者に対抗する為のシステム』――名を、トーレン・ライド」


 四肢から覗く噴射口、そしてそこからエネルギーを吹き出す様子を軽く見せてやる。すると元から怪訝だった冷夏の表情は、胡散臭い詐欺師でも見るように更に深まり、


「そんなつまらない冗談は良いんですよ」

「冗談じゃねぇんだけどなぁ……」

「いえ、だって常識的に考えてありえないでしょう? そんなものでどうやって時流者に対抗するというんです?」

「ああ、それは――「何なんだお前はあああああああ!」!」


 響く絶叫に会話を一時中断、顔を正面に戻せば髪を振り乱した男が命一杯に見開かれた不気味な双眸で此方を睨んできていた。


「また僕と冷夏の邪魔をするのかぁ!? そうかお前か、お前が僕の冷夏を誑かしたんだな!」

「誑かすとはまた、人聞きの悪い。お前と冷夏がどんな関係なのかは知らないけどよ、しつこい所かその気持ち悪さじゃあ、拒絶されるのは当たり前だと思うぜ?」


 ぶちり。男の血管がはち切れる音が聞こえた、気がした。


「許さない許さない許さない! お前は絶対に許さないいいいいいい! 僕と冷夏の行く道を邪魔するのなら、誰であろうと潰してやるぞぉおお! ――クロック・ロック!」

「! トップ・ワン!」

 ――Top One!――


 瞬間、世界の流れが遅くなる。常人では追えぬ領域、時間の流れで以って総真に襲い掛かった男を、しかし彼の目は捉えていた。

 伝わる情報、超高速で交わされる指示。加速された脳より発せられた意思はそのまま右脚へと伝わると、噴射口を急速稼動。刹那の間でスピードに乗った右脚が振り上げられ、男の拳とぶつかり合う。


「なに!?」

「お返しだぜっ!」


 更にその拳を弾くと同時、今度は左腕の噴射口が急速稼動、吐き出されたリージェネレイト・エネルギーによって加速した拳が勢い良く男の身体に突き刺さった。


「ごおっっ」

「と、まあこんな風に対抗してる訳だ」


 短い悲鳴と共に吹き飛んで行く男には目もくれず、背後の少女に答えを返す。


「いや、意味が分からないのですが」

「別に、難しく考える必要は無いさ。幾ら時流者が遮断時流なんて反則すれすれの力を使えるといっても、所詮は時間の流れが違うだけ。全く違う次元に居るわけじゃない。なら後は単純だ、仮に時流者が周囲の時間の流れを千分の一にするのなら、こっちは千倍の速度で動けば良い。だろ?」


 不敵に笑ってみせる総真の理論に、頬をひくひくと引きつらせる冷夏。

 なにせ、ありえない。確かに理論上はそれで対抗出来るだろう、だが。


「正気ですか? まずそんな速度を出す事が不可能ですし、出せても制御出来ませんし、出来ても人体が耐えられませんよ」

「そう、そうやって誰もが思いついても決して実行には移さなかった、移せなかった。けどその馬鹿を本気で考えた大馬鹿者が此処に居て、その無茶な理論を実現出来ちまう無茶苦茶な大天才が偶々その近くに居た、ってそれだけの話さ」


 あっけらかんと言ってみせる総真に、冷夏は唇を歪めて押し黙る。

 多分、何を言っても無駄だ。この馬鹿とそのアホな天才にはきっと常識というものが無いのだろう。そして何より実物を目の前に出されては、幾ら考えた所でぐうの音も出ないというものだった。

 何せ実現出来てしまっているのだ。これでもまだ出来る訳が無い、と主張する人間が居たとしたらそいつはただの現実逃避者である。


「ぐううぅぅぅうううう。何も知らない人間が、僕と冷夏の邪魔を……」

「ま、詳しい話は後にしようや。今はまず、あの変質者を――」

「するなああああああああああああああああああああああああああ!」

「速攻で、ぶっ飛ばすっ!」


 叫び、両者は加速した。

 男は、周囲の時流を遅くする事で相対的に。

 総真は、自身が速くなる事で絶対的に。

 結果、二つの速度は釣り合い競り合い、互いの間でぶつかり合う。


「邪魔者が邪魔者が邪魔者がっ! 冷夏は僕が幸せにしてみせるんだ、出来るんだ! お前のような何処の馬の骨とも分からない男の出る幕なんて、無いんだよぉ!」

「そりゃ大層な自信だことで! けどなあ、真昼間から全裸で市内を闊歩するような変態が言っても、説得力の欠片も無いんだよ!」

「別に、夜でも駄目ですけどね」


 冷静な冷夏に見守られながら、総真は建設途中のビル街を飛び回る。高層ビルの谷間を跳ね回る男と幾度無くぶつかり合い、その度に吹き飛ばされ、或いは吹き飛ばす。

 その速度たるや、通常時間で言えば音速の比では無い。けれど総真の体に浸透しているリージェネレイト・エネルギーは、そんな過ぎた速度によってかかる身体へのあらゆる負担を、そして外部への衝撃波を防いでくれる。

 大天才足る博士が自身最大の発明だと自負する、奇跡のエネルギーの力こそが、総真の考案した対時流者高速機動戦闘システム――トーレン・ライドを支えていた。


「煩い、お前のような男に冷夏の事が分かってたまるかああああああ!」

「俺だって知るかあんな毒舌女! けどなぁ、此処で見捨てたら俺はただの屑だろうが! 後ついでに言えば、俺だってお前に追い回されて鬱憤が溜まってんだよ、だから大人しく殴られろっ!」


 両者録に防御もせず、感情のままに殴りあう。傍からみれば馬鹿な光景で、実際冷夏はどっちも馬鹿だと思っていたが、本人達にとっては大真面目だ。

 ただ興奮のあまり、ちょっとばかしガードが疎かになっているだけである。加えて、痛覚も若干鈍っている気もする。


「るろろろろろろろろろろろろろろろ!」

「うおっ!?」


 最早人間のものとは思えぬ奇声を上げながら、男がその長い髪を鞭の様に振り回す。辛うじて避ける総真だが、その瞬間拡がった髪が彼の体を絡め取った。


「ひはは、捕らえたぞ!」

「うっそだろおい、もう時流者じゃなくて完全に化け物じゃねぇかっ」


 力を籠めてみるものの、髪は解けず離れない。

 どんなキューティクルしてやがる、と内心焦りながらも、総真は素早くシステムに働きかけた。

 舌なめずりしながら此方に迫る男、その光景の端に浮かび上がる文字。使用不可項目と書かれたその下に流れ出る文字列にざっと素早く目を通し、今使える手を把握する。


「ふひひひゅははは、お前は蜘蛛の糸に掛かった哀れな蜻蛉だ! 止めを刺してやるから、大人しく力尽きていろ!」

「残念だがそうはいかねえっ。トップ・ツー!」

 ――Top Two!――


 電子音声によるコールが脳内に鳴り響き、四肢から噴射されるエネルギーが勢いを増す。

 更なる速さを得た総真は、速度任せに絡みつく髪を引きちぎる。


「うぎぃぃああああああああああ!」

「ざまあないな、そのまま禿げちまいな!」


 何百という髪を頭皮から引き抜かれ悶絶する男に、更なる追撃。男へと繋がる髪を掴んだ総真は、そのまま振り回すとハンマー投げのように斜め上空へと放り投げる。


「最速で決める!」


 打ち上がる裸体を追いかけるように真っ直ぐ飛翔、遮断時流の中にあってなお高速と形容されるに相応しい速度で駆けた彼は、そのまま男に拳を当てると突き抜ける。


「まだまだぁ!」


 速度を落とさず、反転。角度を変え再度男に突撃した総真は、再び突き抜けると更に反転して男へと突っ込んで行った。

 寸瞬の間に繰り返される何十という突撃が、男の体を傷つける。薄く血の帯を引いて翔ける総真は、止めとばかりに一度浮き上がると、真下の男に向かって垂直落下。


「ぼ、僕は……」

「こいつで終わりだ――『彼岸花』!」


 真っ赤な大花が、停滞する時流に咲き誇る。

 総真の蹴りに打ち抜かれた男は、そのまま地上へと一直線。抵抗する事も出来ずコンクリートの道路に激しいキスをして、もうもうと粉塵を巻き上げた。

 同時、空に咲いていた花が散り消える。遮断時流が、解除された証であった。


「ふー。ぶっつけ本番でも案外上手くいくもんだ」

「何ですか、今の。格好付け過ぎです、痛い中学生ですか?」

「お、小学生から上がったのか?」

「……(ふい)」


 ゆっくりと地上に降りて待っていた冷夏に笑いかければ、不機嫌そうに顔を逸らされた。

 全く素直じゃない。捻くれた奴。


「ま、そこがお前の良い所かもな」

「こっちをじっと見ないで下さい、気持ち悪い。視線にだって人を犯す力はあるんですよ、知りませんか? 知ってますよね、知っててわざとやってるんですから。変態ですね」

「違うと言ってるっ! 変態ってのはあの男みたいな奴を言うもんだ!」


 びしりと指差し教えてやる。そうだ俺は変態なんかじゃない、今正に土煙の中から出てきたあの男こそ、真、の……?

 そこで、総真は漸く気付いた。


「嘘だろ。あれ喰らってもまだ気絶しないのかよ、どんな生命力だ」

「一応言って置きますけど、時流者が皆あの人のようにゴキブリ染みたしぶとさを持っている訳ではありませんからね。念の為」

「分かってらあ、それ位。それよりどうする、もう戦う力は無いみたいだが。適当に殴って気絶させて、警察に突き出すか?」

「いえ、その必要はありません」


 そう言うと冷夏は、全裸に血化粧の格好でふらつく男へと、すたすたと歩み寄って行く。


「お、おい!?」


 慌ててその背を追いかける総真。だが冷夏は止まらず、男の目の前、それこそほんの少し手を伸ばすだけで届く距離まで近づくと目を細めた。


「れ、れい、かぁあぁぁあぁぁ」

「危険だ。こいつまだ、諦めてないぞ」

「れい、か。れいかああぁぁあああ」


 まるでゾンビのようだ。一体何が、男にそうまでこの少女の事を思わせるのか。

 やはり愛か!? と脳内で考える総真を余所に、大きく溜息を吐いた冷夏はその右手を振り上げると、


「てい」


 パァン、と小気味良い音が寂しいビル街に響き渡った。発生源は冷夏の手、そして男の頬。

 目をぱちくりと瞬かせる総真と男の前、冷夏はもう一度溜息。


「いい加減にして下さい。私にも皆にも迷惑です、兄さん」

「は……? え、兄さん? ……誰が? これが?」

「これが、です」


 冷夏の言葉が効いたのか、諦めたように崩れ落ちる男を指差し問う。そうして返って来た答えに、総真は大きく息を吸い込むと、


「はぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 天に届くような、大絶叫を上げたのであった。


 ~~~~~~


「はっはっはっはっはっ! それじゃ何か、総真はただの兄妹喧嘩に命まで懸けて割って入っていた訳か! 馬鹿だ、馬鹿の極みだ!」

「うるせーぞ糞幼女! 知らなかったんだから仕方ねぇだろ!」


 あの戦いから、一夜明け。無事変質者こと冷夏の兄、名残狂三郎(と、いうらしい)を警察に引き渡した総真は、たっぷりと疲れた体を休めた後ここ敷島高校物宮研究部の部室兼研究室にて博士へと一通りの事情説明を行っていた。

 隣には、感情が薄そうに見えて実はそんなこともない毒舌少女、名残冷夏の姿もある。

 彼女の記憶は、もうすっかり元に戻っていた。どうやら昨日、兄の顔をはっきと見た事を切欠に記憶を取り戻したらしい。

 そんな彼女から昨日、総真は詳しい事情を聴いた訳なのだが、それがまた何とも下らない理由であった。


「しかし今時、お見合いが嫌で痴話喧嘩ならぬ兄妹喧嘩などと、古臭いなどというものではないぞ。しかも別に、その相手との結婚を強要された訳でもないのだろう?」

「ええ、まあ、そうなんですが。渡された相手の写真を見たら、会うのも嫌になりまして」

「写真? どんなのだ?」


 首を傾げる博士にこれです、と冷夏がなにやら大きな冊子を手渡す。どうやらわざわざ持ってきていたらしい。

 博士が、冊子に手を掛ける。そうして開いた瞬間、何故か座っていたパイプ椅子から転げ落ちて笑い出した。


「はははははははは! なる程なる程、納得だ! 趣味にもよるが、こんなのとお見合いしろと言われればお主でなくとも家を出たくもなる!」

「なんだなんだ、どんな奴なんだ、そこまで言わせるなんて……へぁっ!?」


 放り捨てられた冊子を拾い上げ中身を覗いた瞬間、総真は素っ頓狂な声を上げた。

 それもそのはず、でかでかと見開き二ページを使って印刷された写真には、猫のコスプレをした身長二メートルはあろうかというムキムキマッチョな男の全身が写っていたのである。

 四肢を着き女豹のようなポーズを決めるその男は、決してキグルミを着ている訳では無い。光る頭に猫耳を付け、尻尾を生やし、大事な所を隠すようにもふもふの腰巻を付けているだけなのだ。

 日に焼け浅黒く、テカリさえ見せる筋肉はある意味美しかったが、その格好とは絶望的な程に合っていない。加えて異常に濃い顔はばっちりカメラ目線でアルカイックスマイルを決めているのだから、そのミスマッチっぷりは正に筆舌に尽くし難いものがあった。

 要するに。一言で言えば『変態』だったのだ、その写真の相手は。


「大事な妹を、言っちゃ悪いが何でこんなのと……」

「理由なら、既に分かっているでしょう。兄もまた、変態だからです」


 疲れたように項垂れる冷夏。その心の内に去来するのは果たして、如何なる思いか。

 総真には想像する事しか出来ないが、激しい同情の念が湧き上がってくる事だけは確かである。


「そういう特殊な人達の集まるインターネットサイトで知り合って、意気投合したそうです。妹を任せるならお前しかいない、と」

「酷え兄貴だ。人としての情も何もあったもんじゃねぇ」

「妹として一応言っておきますが、流石にいつも全裸で居る訳ではないんですよ? むしろ普段は何処に出しても可笑しくない位きちんとした格好をしています。ただ今回は、偶々風呂上りに私が家を出た事に気づいたらしく、慌ててそのままの格好で追いかけてきてしまったとか」

「じゃあ、あの異常な様子は?」

「私を探して一週間近く、不眠不休だったそうなので。良く飲まず喰わずでそれだけ持ったものです、呆れを通り越して感心します。最低を通り越した最底辺である事に違いは無いですが」

「まあ、何だ。頑張れ」


 ぽん、と軽く肩に手を置き励ましの言葉を贈る。

 この時ばかりは流石に、冷夏も此方の手を拒絶するような真似はしなかった。

 が、しかし。まさかそれが己の不幸に直結するとは、この時の総真にはまるで想像出来る訳がなかったのである。


「!? け、警報が!? 一体どうなってんだ!?」


 突如、研究室の防衛システムが作動し、けたたましい警報を鳴らし始める。

 慌てて備え付けられた大型のモニターを確認する西加だが、監視カメラからの映像が映るよりも、戦車砲の直撃にも余裕で耐えるはずの天井の一部が砕け大きな影が降ってくる方が早かった。


「冷夏ー!」

「兄さん? どうして此処に」


 降ってきたのは誰であろう渦中の人物、名残狂三郎であった。なお、きちんと服は着ている。割とラフな着物姿だ。

 髪もしっかりと整えられ、後ろで軽く纏められたその格好は、何処かの書生と言われても違和感が無いだろう。からんからんと音を鳴らす下駄が、また良い味を出している。


「どうしてだって? 決まっているだろう冷夏、僕はお前が心配で――」


 愛する妹へと歩み寄ろうとしていた狂三郎は、しかしその姿を視界に入れた途端燃料が切れたようにピタリと動きを停止させた。

 より正確に言えば、未だ彼女の肩に置かれっぱなしになっていた総真の右手を認識して、である。

 ――後に総真は語る。この瞬間、時流者でもないのに時間の流れがゆっくりに感じられた、と。


「そうか、そうか。やはり君は我が愛しの妹を誑かす、暴虐の徒であったか」

「へ? いやちょっと待て、誤解だ! ていうか何で警察に捕まったはずのあんたが此処に来れるんだ!?」

「冷夏がどうしているかと心配で夜も眠れず、時流者特権を使って釈放してもらったのだ! 元々大した罪ではなかったからな!」


 そうなのだ、実際の所狂三郎の犯した罪といえば、公然わいせつと少々の器物損壊位のものなのだ。

 後は、行き過ぎた部分はあったものの兄妹喧嘩の範疇である。故に彼は、時流者としての特権を使用して軽い罰金だけで事を済ませて、此処に駆けつけて来た訳であった。


「お前のような冴えない男が冷夏の傍に居るなど、全く以って相応しくない! 今すぐにでも、排除しなければっ」

「待てと言ってる! 俺は……そう、友人、ただの友人だ。冷夏との間に男女としての関係なんて一ミリも存在しない!」

「言語道断、問答無用! 死ねい、クロック・ロック!」

「やっば――トーレン・ライド!」

 ――Top one!――


 瞬間、二人の姿が掻き消える。互いに備わる力を使い、常人の及ばぬ速度・時間の領域へと至ったのだ。

 そこそこに広い研究室内に幾度か激突音と衝撃が巻き起こり、直後組み合った二人の姿が現れる。


「この野郎、やっぱり普段からまともじゃ無いじゃねえか……!」

「ひはははは、昨日とは違ってしっかり休息を取った今、もうお前になど負けはせん! どんな絡操か知らんが、その四肢ごと時空の彼方に消し去ってやる!」

「えい」

「目がまじだっ! 畜生、こうなったら仕方ない。トップ・ツ――あばばばばばばばば!」

「ひゅはは、細切れになれ――おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!」


 総真と狂三郎、二人が互いに戦いのギアを上げようとした、その時。横から飛来した電撃が、二人を無情にも撃ち抜いた。

 プシュー。哀れ、二人は黒焦げになって地に伏せるのみ。

 ぴくぴくと蠢き口から言葉にならない音の羅列を漏らす彼等を、下手人である冷夏は冷めた目で見下ろすと、


「暴れるなら外でやって下さい、迷惑です」

「れ、冷夏ぁ。そんな、どうして僕まで」

「お、お前。俺は何も、悪くないだろ」

「喧嘩両成敗、です。後、一々貴方達に配慮するだけ無駄でしょう? えい」

「「あばばばばばばばばばばばばばば!」」


 なんで、もう一発撃ったし……。そう口に出す事も出来ず抗議しながら、男達の意識は呆気無く闇に沈んで行った。

 しぶと過ぎる二人の生命力を考慮し、非情にも更にもう一発電撃を打ち込んでからスタンガンを仕舞った冷夏は、一連の行動を笑って眺めていた博士へと頭を下げる。


「家の兄が、お騒がせしました」

「いやいや、面白かったぞ。それを言うなら、家の総真もだしなっ!」

「なんと、天才と呼ばれるだけあって懐が深いんですね。流石です」

「はっはっは、そうだろうそうだろう。もっと褒めても良いんだぞ、冷夏!」

「博士は日本一、いえ世界一の天才です。最高の発明家です」

「はっはっはー! くるしゅうない、くるしゅうない!」


 どうやら冷夏と博士は、相当相性が良いようだった。

 もし総真が見ていればその扱いの差に愕然とするようなやりとりを繰り返しながら、表情に大きな差はあったものの二人は楽しそうに笑い合う。

 自身の犠牲によってこの平和で微笑ましい光景が得られたのなら、総真もにっこり笑って大満足だろう、きっと。


「そんな訳あるかーーーーーーーーーーーーー!」

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