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第十七話

 戦闘開始からの時間を現実時間で表すならば、三十秒と経っていないだろう。

 だが、遮断時流換算で言えばその時間は膨大だ。当然、遮断時流に対応し身体と脳を高速化している総真にとっても、経過した時間は膨大だった。

 通常弾と榴弾を的確に切り替えながら、カルバリオ・ランチャーを連射するメルトを見据え、総真はぺろりと唇を湿らす。


(このまま消耗戦じゃあ、俺が不利だ。あいつの弾は無限じゃないが、さっき武器を受け取ったみたいに外部から補給を受けるかもしれない。弾切れを待って戦うなんてのは、不安定で消極的過ぎる。やっぱ、こっちから仕掛けていくしかねぇ)


 考えながら、距離を詰めようと弾幕の間を縫って飛行する。

 すぐさま、反応したクララが距離を取った。さっきからずっとこの繰り返しだ。弾幕のせいで録に近付けず、漸く隙を見つけて近付いても素早く距離を離される。


(まあ、真っ直ぐ近付くだけじゃあ無理だよなぁ。んじゃ、これならどうだ?)


 土煙の中を通過したせいで口に入った埃を吐き出しながら、総真は懐に手を伸ばす。

 取り出した物のピンを抜いた。そのままクララを囲むように大きく円を描いて飛行しながら、次々と小さな球形の物体を取り出し、ピンを抜いては地面へと落としていく。

 此方の行動に気付いたクララが、銃声にも負けぬ大声で哂った。


「あはは、何か企んでいるようだね、総真君っ。けれど無駄だよ、あらゆる兵器はこの遮断時流の中ではほぼ無力だ! 僕だけなんだよ、この空間の中で武器を使えるのは!」

「はっ、それはどうかな。ほ~ら……始まるぜっ」

「はいぃ? 一体、何が――」


 クララが言いかけた瞬間。落とされていた球、その最初の一つに皹が入り、一気に弾ける。

 中から白煙が勢い良く広がる。そう、勢い良く。


「なっ、どうなっているんだい!? それが煙幕だとしても、遮断時流の中じゃあこんな速度で広がる訳が……!」

「決まってる。天才様が手ずから作った、特注品さ! 手前の時間の中でも効果を発揮出来るようにな!」


 クララが驚く間にも、次々と球は破裂し、戦場を白煙に染めて行く。

 これは、総真と西加がこの日の為に用意した装備の一つだった。ピン抜きから爆発までの時間をほぼ零に。かつ、内部にリージェネレイト・エネルギーを少量充填しておき、白煙の広がりに干渉する事で無理矢理広がりを早めたのだ。

 説明だけならば簡単だが、実際にはそう容易な事では無い。非常に緻密な計算と技術が必要であり、あの天才の西加をして(他にやることが一杯あったとはいえ)二十個と用意出来なかった代物なのだ。

 そんな貴重な物を、総真は惜しげもなくばら撒き、爆発させた。元々クララの攻撃で相当量の土煙が上がっていた事もあり、瞬く間にすり鉢底の戦場は茶色と白の煙に包まれる。


「くっ、視界を塞ぐ気かい。たいしたものだけど……甘いねぇ、総真君! これだけの煙じゃあ君も僕をまともに捉えることなんて出来やしない。その点僕は、適当に動き回りながらカルバリオ・ランチャーを乱射して、事故を待てば良いっ。自分の策に溺れるなんて、猿が賢しい真似をするからこうなるんだよ!」

「――そいつは、どうかな」

「っ!? なっ、何故僕にぴったり付いて――!?」


 戦場の中を適当に動き回り、居場所を特定させまいとしていたクララは、的確に自らの背後から白煙を突き破って現れた総真に驚愕を露にした。

 彼女は知らなかったのだ。総真が博士謹製の改造人間と化していて、様々な高精度センサーを搭載しているなどとは。それ等を以ってすれば、この視界不明瞭の中でも相手の居場所を楽々特定出来るなどとは。

 常人に、そして時流者にとっても目くらましとなる噴煙も、総真にとっては障害にはなりえないのである。


「やっと近付けたぜ、この野郎!」

「くぅ、こんの……!」


 突っ込み、拳を振るってくる総真を、クララは辛うじて回避する。

 その動きは最初に比べて鈍い。カルバリオ・ランチャーの重さと取り回しの悪さが、足を引っ張っているのだ。


(でも、捨てる訳にはいかない。一度捨ててしまえばこの噴煙の中、再度拾うのは困難になってしまうっ)


 総真には、世界の強者と比べても充分な実力がある。口では幾ら罵っても、クララはその事実をこれまでの戦闘で理解している。

 何せ世の多くの時流者は、ここまで持つこともなくカルバリオ・ランチャーによってリタイアさせられているのだ。捨てた所で負けるとは思わない。しかし万が一、億が一、負ける可能性が生まれるかもしれない。


(やっぱり、捨てる訳にはいかない。かと言って遮断時流を展開したままじゃ、この噴煙が晴れるのは遥か先だ。でもでも、一瞬でも解けば、その隙に彼は来るだろうし……)


 身を屈ませ、飛び跳ね、時にランチャーを盾にして。総真の攻勢を凌ぎながら、少女は考える。


「まずは、この煙から逃れる。それが一番っ」


 思い切り膝を曲げて、なぎ払われる左脚をやり過ごす。

 直後、追撃が来る前にクララは跳んだ。高く、高く、ドームから飛び出してしまいそうなほど高く。

 ここまでは煙も来ていない。クリアになった視界に、少女は唇を三日月のように吊り上げる。


「これでも喰らうと良い、総真君っ」


 手早くカルバリオ・ランチャーのモードを切り替える。

 通常弾から榴弾へ。そして、シングルからバーストへ。


「流星群だっ!」


 トリガーが引き絞られ、下部に付いた大口の銃口から榴弾が次々と解き放たれた。

 限度一杯、装填されている十二発全てを放ちきる。ばらまかれた隕石は戦場の至る所に落着し、次の瞬間爆炎を上げた。


「流石の火力だ。実に見事っ」


 自画自賛するクララの上昇が終わり、下降へと移行する。

 重力がゼロになったと錯覚するような、その瞬間。彼女の目は、爆炎を突き破って上昇してくる影を捉えた。


「しぶといな。台所に出る黒い昆虫のような生命力だっ」

「悪いな、しぶとさにはそれなりに自信があってね。それと……予想通りだぜ、手前の行動!」


 叫び、幾らかの火傷や裂傷を負った総真は、右脚からクララへと突撃した。

 実の所、煙を巻いたのは単なる布石であったのだ。ああすれば、彼女はきっと煙から抜け出そうと跳び上がる。

 本当の狙いはそこ。超人的な力を持つ時流者でも自由に身動き出来ず……逆に、己は自由に動けるフィールド。

 即ち『空』に、戦いの場を移すことだったのだ。


「どりゃあっ!」

「くうっ、訂正だ。君はまるで、羽虫のように鬱陶しい……!」


 一気に、情勢が総真へと傾いていく。

 落下の時間は、遮断時流内においてもたったの数秒だ。そのたった数秒で勝負を掛ける為、総真は全力を振り絞る。

 速度域は既に限界寸前。相殺しきれなかった負荷が身体を軋ませ、傷口から鮮血が迸る。痛みが全身を叩き――全て無視した。


「最速で、決めるっ!」


 幾度もクララに向かって突撃し、突き抜け、旋回し、また突撃する。

 無茶な軌道は身体を更に軋ませて、自身の血が空に幾筋もの線を生み出した。

 それでも歯を食いしばり。総真は一度浮上すると、少女に向かって垂直落下。


「喰らいやがれ――彼岸花!」


 この時の――空というフィールドでの一瞬をものにする――為に練り上げた技が、世界一を地へと叩き落とす。

 あまりの衝撃に、一際大きな噴煙が上がる。風に流されて消えていく煙と、己が義眼に表示された報告に、総真は遮断時流が解除された事を確認し静かに地上に降り立った。

 間も無く、戦場を覆っていた煙が晴れる。クリアになった視界には、体勢低くなりながらも辛うじて膝を着かず、立ちの姿勢を維持しているクララの姿。

 その手のカルバリオ・ランチャーは大きくひしゃげ、欠けていた。当然だろう、総真渾身の一撃を盾として防いだのだ。少なくとも、もう弾丸を発射する事は出来まい。


「決められなかったか。けど、これで随分状況は変わったな?」


 優勢を理解し、総真は問う。

 クララの顔が鋭く歪んだ。


「やってくれたね、総真君。こんな醜態を演じさせられたのは、何時以来かな」

「安心しろよ、こんなのはまだ序の口だ。これからもっと、無様な姿を見せることになるからよ」

「ふふ、言ってくれる。僕の愛銃もこんなにしてくれて……。――まぁ良いさ、どうせもう廃棄しようと思っていたしね」


 あっけらかんとそう言って、クララはカルバリオ・ランチャーを投げ捨てた。

 眉を顰める総真を余所に、彼女は大きく息を吸い、


「姉さんっ! アレを使うよ!」

「はいはーい。何となく、そうなると思った」


 宣言すると同時に、予期していた姉が手の物を放り投げる。

 宙を飛ぶ重量物。それを前と同じ様に掴み取り、前と同じ様に構えて、クララは凄絶な笑みを浮かべる。


「活目せよっ。これが、今年の世界大会の為に僕が用意した最新鋭機。必殺の銃砲――カルバリオ・ディザスターだ!」


 新たな兵器の銃口を敵へと向けて、クララは遮断時流を再展開した。

 総真の頬に冷や汗が浮かぶ。正直言えば、想定外だった。


(おいおい、新型があるなんて聞いてないぞ。まあ、とっておきとして隠しておいたんだろうが)


 有り得ないことではなかったのだ。

 カルバリオ・ランチャーは二年前から使用されている、謂わば旧型機である。二年も時間があれば、新しい専用機が開発されていたって何ら不思議ではない。

 だがまさか、自分との決闘にそれを持ち込んでくるとは。己はまだしも、彼女にそこまでする理由が見当たらず、総真は思わず狼狽してしまう。


 ――実際の所。総真との邂逅にテンションの上がったクララが、とにかく用意出来るものはしていこう、と持ってきていただけなのだが。そんな事は、少年には与り知らぬ事である。


 予想外の武器を持ち出され、総真はプランの変更を余儀なくされた。本来の想定では、あの『彼岸花』によって勝負を決める、或いは最低でも相手の武器を破壊する、というシナリオだったのだ。

 その想定が覆された今、作戦を練り直さなければならない。一応、他にも幾つかプランはあるが、ここまで大きな『変更』は想定外だ。今はとにかく、何でも試して勝機を探すしかないだろう。


「全く。しんどい戦いになりそうだぜ」


 トリガーに手を掛けるクララに、乾いた笑い。

 既に土煙は晴れきり、煙幕もほとんど残っていない。相手も警戒してくるだろうし、先程と同じ手はもう使えないだろう。

 状況は非常に悪化し――なのに、何故だろう。そうこなくっちゃ、と思っている自分が居る。


(敵は強大だ。けど、そっちの方がぶっ飛ばしがいがある。何て思うのは、おかしいのかな?)


 心の中で自嘲する。

 けど、仕方が無い、とも思った。何年も何年も目標とし、何時か倒してやると努力して来た相手がチンピラ以下の小物じゃあ、肩透かしも良い所だ。

 むしろ、強いほうが良い。強くて、高くて、遠い壁。その方がずっと、越えがいがある。


「新型機でもなんでも使えば良い。例え何か来ようと関係ねぇ、俺はこの拳で、必ず手前をぶっ飛ばす!」

「ははは、不可能さそんな事は。君は僕にまともに触れることも出来ず、無様に地に這いつくばって終わるのさ!」


 絞られるトリガー。吐き出される銃弾。

 一層脅威を増した弾幕に、それでも臆せず、総真は挑みかかっていった――。

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