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episode1.花嫁強奪

おおよそ半年振りに『なろう』に投稿します。

大昔に考えたプロットに基づいていますが、書いてみると無茶苦茶糖分が高めとなりました。orz

 ロンバル公国は、大陸の北方に位置する小国だ。


 北方諸国を統べるのは、神聖ルーン皇国と呼ばれる北の大国で、ロンバル公国の宗主国でもあった。


 ロンバル辺境伯が武勲を立てた功績に(むく)いるため、時の神聖ルーン皇帝陛下より、国を(おこ)す権利という褒賞(ほうしょう)(たまわ)ったとされている。


 そして、ロンバル公国の辺境に、長年に渡って(いが)み合うヴェラドーナ騎士爵家とシエーナ騎士爵家という下級貴族家が存在した。


 彼らの領地は、キューカー男爵家の領地と接していたのだが、ある時、流行り病(はやりやまい)でキューカー男爵家が断絶したのだ。


 ロンバル公王は、ヴェラドーナ騎士爵家とシエーナ騎士爵家の当主を呼び出し、両家で武を競わせ、勝者にキューカー男爵家の所領を下賜(かし)すると宣言したという。


 それ以降、両家は武を競い合い、血で血を洗う仇敵同士と成り果てた。


 (ちな)みに、キューカー男爵家の所領は、公正な第三者としてソール・アーシィー教団と呼ばれる、この世界で最も権威ある宗教団体に預けられ、管理されていた。


 ソール・アーシィー教団は、巫女姫教団や聖女教団などとも揶揄(やゆ)されることがある。


 何と成れば、教団の最高指導者には、託宣により選ばれた年若い美少女が就いて来たからだ。


 当代の巫女姫は、ガラティナ・ティン・ディーテと呼ばれる(よわい)十二歳の神秘的な美少女であるという。




「マリオン様、わ、わたしは……もう歩けませぬ」


「オリヴィア、頑張るんだ。この先に、今は使用されていない廃神殿がある。そこまでの辛抱だから……肩を貸すから一緒に行こう」


「……はい、マリオン様」


 風雪(ふうせつ)が吹き(すさ)ぶ針葉樹林の中を通る夜の細道を、年若いマリオンとオリヴィアが慣れない足取りで逃走している。


 逃走を始めた当初には、マリオンの愛馬に乗っていたのだが、二人乗りが災いしたのか、とっくの昔に馬は乗り潰されていたのだ。


 マリオンは、騎士としての鍛錬(たんれん)を積んでいたので余裕があったが、深窓の姫君として大切に育てられたオリヴィアに取っては、辛く(こご)える道行きだった。


「……はぁ……はぁ……はぁ……きゃ!? ま、マリオン様、申し訳ありません」


 肩で息をし出したオリヴィアは、細道の下生(したば)えに足を引っ掛け、転倒しそうになったところを、辛くもマリオンによって支えられた。


「足下に気を付けて着実に進もう。不幸中の幸いというか、この吹雪では、角灯(カンテラ)の灯りは目立たないし、俺たちの足跡も風と雪で隠してくれる」


 姫君の名は、オリヴィア・シエーナ。


 御年一四歳の美少女で、シエーナ騎士爵家の三女であった。


 ところでオリヴィアは、場違いな婚礼衣装を(まと)っている。


 実は数刻前、オリヴィアは、政略結婚の(こま)としてサイモン・アデーレという粗野な若者の許へと嫁ぐために、(くだん)の婚礼衣装に袖を通したところであった。


 一方、若君の名は、マリオン・ヴェラドーナ。


 御年十六歳で、『成人の儀』を昨年終えたばかりであり、ヴェラドーナ騎士爵家の次男でもあった。


 この近隣では、良く知られた事実だが、シエーナ騎士爵家とヴェラドーナ騎士爵家は仇敵同士の間柄だ。


 それなのに、マリオンとオリヴィアは、仲良く手と手を取り合って先を急いでいた。




 互いに仇敵の間柄であるはずの、マリオンとオリヴィアの馴れ初(なれそ)めは、半年前に(さかのぼ)る。




(うわさ)では、シエーナの野郎が自慢するオリヴィアとやらの誕生会が明日あるらしいな。(ひな)には(まれ)な美少女というが、どうせ淫乱な牝豚だろうぜ」


「違いねぇ。シエーナの糞牝(くそめす)なんだからな! きっと親父相手に夜毎、()がっているんだろうぜ」


「おうよ! それから今回の誕生会は――」


 マリオンが騎士になるための鍛錬(たんれん)に励んでいると、一族の若い鍛錬仲間たちが噂話に(きょう)じていた。


 話の内容は、シエーナ騎士爵家の三女で、オリヴィアとかいう小便(しょんべん)臭い小娘の誕生会に関するものであった。


 その噂話によると、今回の誕生会では、オリヴィアの(たっ)ての願いで、参加者は仮面舞踏会用の仮面(マスク)を付けるのだという。


 その奇抜な発想は、(みやこ)の華やかな仮面舞踏会に憧れていたからだそうだ。


 マリオンもヴェラドーナ騎士爵家の一員として、シエーナ騎士爵家との抗争に、後詰めとして参加した経験はあるものの、()の一族の女とは、面識が有ろう(はず)が無かった。


 そして、若者らしい無謀さで、度胸試しにオリヴィア姫とやらの(つら)を拝んでやろうと密かに決意したのであった。


 この時、マリオンに取ってのオリヴィアは、単なる暇潰(ひまつぶ)しのネタ(・・)に過ぎなかった。




 翌日、マリオンは、家捜(やさが)しをして見つけ出した仮面舞踏会用の仮面(マスク)を片手に、目立たない衣装に着替えると、どきどき緊張しながらも、何食わぬ風を装ってオリヴィア姫の誕生会に(おもむ)いたのだ。


 誕生会の会場は、シエーナ騎士爵邸の中庭に(しつら)えられていた。


 広場の中央に大きな(テーブル)を配し、その上には豪勢な料理や飲み物が、所狭しと置かれている。


 広場の隅には、椅子に腰掛けた放浪楽師を招いていることから、立食パーティーの後に仮面舞踏会に(なら)って社交ダンスを踊る心算(つもり)なのかも知れない。


「これは……、思った以上に緊張する」


 周囲にいるのは、仇敵たるシエーナ騎士爵家の関係者ばかりだ。


 敵地にあってマリオンは、まだ見ぬオリヴィアの姿を想像しつつパーティー会場へと潜り込んだ。




「今日は、自慢の愛娘(まなむすめ)であるオリヴィアの誕生会に(つど)ってくれて礼をいう。俺の娘は――」


 仮面(マスク)を付けてはいるが、この神経質そうな声は、仇敵でありシエーナ騎士爵家の当主を務めるバリスト・シエーナの野郎だ。


 マリオンは、此処(ここ)が敵地であることを改めて認識した。


「本日は、わたしの十四歳の誕生会にお集まり下さり、有り難う御座います。(ささ)やかではありますが、料理なども準備しております。皆さま、楽しんで下さいね」


 ところが、である。


 父親たるシエーナ騎士爵に続けて挨拶したオリヴィア姫の可憐な容姿と、鈴を転がすかのような可愛らしい美声に、マリオンの身体が打ち震えた。


 顔には目許を隠す深紅色の仮面(マスク)が取り付けられているのだが、オリヴィア姫の美麗な様子に釘付けとなった。


 風に(なび)く亜麻色の髪は、マリオンに彼女の(ほの)かに甘い匂いと(ぬく)もりを運んでくるかのようであった。


 こ、これは、一体!? 如何(どう)したことだろう……。


 オリヴィア姫の存在を認識した途端、マリオンの心臓は早鐘を打ち、軽い呼吸困難にさえ陥ってしまったのだ。


 強く握った拳の中では、汗ばんでじっとりしていた。


 そして、次に気になったのは、オリヴィア姫をエスコートする偉丈夫(いじょうぶ)の存在だった。


 周囲の者どもの(ささや)きにより、(くだん)の偉丈夫は、オリヴィア姫の許嫁(いいなずけ)であるサイモン・アデーレという野郎だという。


 奴の姿を見た瞬間、マリオンは背中に冷水をぶっ掛けられたかのように、冷静さを取り戻した。


 マリオンに取って、此処(ここ)は敵地なのである。


「おい、オリヴィア。そんな細い身体じゃ初夜の際に折れちまう。ナニ(・・)が裂けねぇためにも、飯を沢山喰って大きくなれよ!」


「な、なんて失礼な! (いく)ら許嫁とは言っても、言ってはいけないことがありますわ」


「俺は、お前のような幼い感じじゃなくてボイン、ボインの身体が好きなんだ。お前の貧乳じゃあ、きっと満足できねぇよ」


「わたしも筋肉達磨(だるま)は趣味じゃないのよ! お互い様でしょうが!! それに胸も人並みには膨らんでいますし、まだわたしは成長期です」


 耳を(そばだ)たせていると、オリヴィア姫とサイモンの痴話喧嘩(ちわげんか)が聞こえてきた。


 如何(どう)やら、許嫁のサイモン・アデーレとオリヴィア姫は、互いにタイプではないようだ。


 そう言えば、俺の許嫁であるイザベラ・シシリーは、サイモンの野郎の趣味を満足させるであろう爆乳と(くび)れた腰を持つ(あで)やかな美少女だが、気が強過ぎて始末におえない。


 イザベラの奴は、俺のような優男(やさおとこ)じゃなく、筋肉の発達した野獣の(ごと)き野郎が趣味だと抜かしていやがった。


 本当ならば、イザベラをサイモンに渡し、代わりにオリヴィア姫が欲しいところだが、世の中そんなに(うま)い話はない。


 急に現実に引き戻されたマリオンは、正体が露見せぬ内に抜け出す心算(つもり)だった。


 ところが、オリヴィア姫の合図で、机が中庭の隅に()けられ、社交ダンスが始まった。


 ゆったりとしたリズムのワルツに乗って男女が向かい合って二重の円を描く。


 その中には、逃げ遅れたマリオンも含まれていた。


「ちっ! 逃げ遅れちまった!!」


 独り愚痴(ぐち)を零すが、ダンスが始まるとマリオンは、得意な踊りで女性たちを(たく)みにリードした。


 そして、とうとうマリオンのお相手が、オリヴィア姫となったのである。


 互いに一礼した後、伴奏に合わせてオリヴィア姫の手に触れた瞬間、マリオンの身体に稲妻が駆け抜けた。


 な、なんて柔らかな手なんだ!


貴方(あなた)……、もしかして……、わたしとは、初対面でしょうか?」


 オリヴィア姫は、小首を(かし)げて問い掛ける。


「……さて、如何(どう)でしょうね?」


 マリオンは、背中がじっしりと汗ばむのを感じながら、無難に返した心算(つもり)だった。


 そして、マリオンは、オリヴィア姫の手を取って踊り始めたのだが、やけに心臓の鼓動がドキドキと響き、何だかふわりと空を飛んでいるかのような夢心地だ。


 しかも、オリヴィア姫の様子を(うかが)うと、何故(なぜ)だか(ほお)を赤らめているように感じる。


 そして、ふたりで踊る夢のような時間は、あっという間に過ぎていった。


 名残惜しいが、パートナーを交換しなければならない。


貴方(あなた)のお名前を教えて下さるかしら?」


「ま、マリオン……」


 そんな時、オリヴィア姫がマリオンの名前を問うてきた。


 仇敵であるシエーナ騎士爵家の娘に名前を知られる訳にはいかない。


 頭では、そう考えていたにも(かかわ)らず、マリオンは自然と名乗っていた。


「マリオン様と言われるのね。わたし……貴方(あなた)のことが気に入ったみたい……またお話したいわ」


 マリオンの名乗りを聞いたオリヴィア姫は、大輪の薔薇(ばら)の花が(ほころ)ぶような笑顔を浮かべた。


「お、俺も……――」


 思いもしなかった再会の約束を交わし、マリオンとオリヴィア姫は、互いのパートナーを変えてダンスは続く。


 その後、マリオンは、どんな手段で自宅まで帰ったのか記憶が無かった。


 ただ、素敵なオリヴィア姫とのダンスの想い出と、再開を約束したことだけが頭に残っていたのだ。


 悶々(もんもん)として眠れぬ夜が明けた時、マリオンは自身の手に残るオリヴィア姫の残滓(ざんし)(すが)りつつ、二度と逢ってはいけない相手であると、強く心を抑え付けた。


 しかしながら、日毎に記憶が薄れるどころか、日々、オリヴィア姫のことばかりが気になってしまうのだ。


 マリオンは、人生で初めて『恋に落ちる(フォーリンラブ)』という甘くも苦しい状態に陥っていた。


 騎士の鍛錬も(おろそ)かになり、父や兄たちから叱責されるが、頭にあるのは甘い匂いがした、柔らかくて温かいオリヴィア姫のことばかりだった。


お読み下さり、ありがとうございます。

episode2.廃神殿

は、6月12日0時に予約投稿済みです。

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