第44話 寝起きの隣には……?
「あっ、あちちちち!?」
目覚めは最悪だ。顔が焼ける痛みに飛び起きる。
飛びつくようにカーテンを閉めると、痛みはだんだん収まり、火傷は自動的に治っていく。
(ああ、カーテンを閉め忘れるなんて初歩的なミスを……)
吸血鬼になってからは必ず朝日が刺さないようにカーテンをしっかり閉めてから寝るようにしたはずなのに。昨日は閉めなかっただろうか。記憶が無い。
それに、頭がガンガンと鳴るし、そもそも、いつの間に寝たんだろうか。
んん? というか、昨日は一体どうしたんだっけ?
ベッドを振り向くとそこにはきらめく水色の髪を広げてすうすうと眠りにつくエルフの美人と、枕元の血の跡に気づく。
「や、やってしまった?」
観光地で行きずりの女性と朝チュンなんて!
貴族として生きていたこともあり、責任の言葉が浮かんでくる。
い、いや、吸血鬼のみで責任なんて取れるんだろうか。
けど、もう少ししてSランクを倒せば責任も取れる?
だけど、そもそも、マリオンたちにはなんて話せばいいんだろうか。
「う、ううん……」
「ひっ」
するすると滑り落ちるように起き上がったリーゼの体を毛布は簡単にするりと滑ってゆく。
目は露わになりそうになる体を凝視しようとしていたが、慌てて抑えるリーゼがこちらを向くのに合わせてソッポを向く。
「おはよう愛しい人。起きても変わらず私に興味を持ってくれるんだね」
「あ……うん」
そう言われては『すみません、なにも覚えてないんです』とはいえない。
男らしいとはかけらも言えない俺ではあるが、しておいて覚えてませんは政治家の答弁以下ではないだろうか。
漏れる朝日にリーゼの髪は光輝き、肌は透き通るようだ。
顔は赤らんでおり、それが羞恥によるものだと思えば、歳上なのに可愛らしさも感じる。
「なんだ、つれない返事じゃないか」
「そ、そうかな?」
ちゅっと、なんの抵抗もなく真っ直ぐ俺の頬に口付けする。
大人の女性の魅力にくらりとしそうになる。
だが、その気持は一瞬にして現実に戻る。
「それで、挨拶には御飯のあとに行くかい? 前かい?」
「あ、挨拶?」
「ああ。君の愛しい人たちに加えてもらうんだからね」
真っ直ぐ俺を見つめるその瞳。
汚れないその眼差しが、言い訳しか浮かんでこない俺には辛かった。
ど、どうしよう?
「し、心配しているかもしれないからご飯前に行こうか……」
「ああ、ダーリン」
「ダーリン!?」
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「てめーの前しっぽのだらしなさには呆れたにゃ」
「ま、前しっぽいうなよぉ」
「ごしゅじんさまがでかけてる隙に種付けなんて呆れたもんだにゃ!」
ふかー! とまるで全身の毛を逆立てる猫だ。
本気で怒ってる。
特にマリオンの方を見る気になれない。
状況を話したらこれだ。
最初は心配したにゃ!なんて飛びついてくれたのに、リーゼを見た瞬間に期限を悪くし、今ではこれである。やれやれ。
嘘です、ごめんなさい。なんでもないです。歯を見せないで欲しい。
「いえ、男なのですからいいと思いますよ。どちらにも手を付けないうちにとは思いませんでしたが」
「ちゃ、ちゃうねん」
「どう違うんです?」
「ど、どう違うのかなあ?」
「信頼できる人なんですか? 今秘密を広められると辛いですよ」
おかしいな。部屋に戻るまでに考えていた言い訳がなにも出てこない。
「申し訳ない。絶対に仲良くなりたくて、酔いやすい酒を飲ませたのだ。リオンが吸血鬼だと知っている」
静かな怒りに笑みを浮かべていたマリオンが、初めてリーゼをまっすぐ見た気がする。
不思議そうなものを見つめる目でリーゼを見なおしている。
「……そこまで話したんですか。名前は聞きましたが、何者ですか? 吸血鬼を受け入れるところも含めて普通とは思えません」
「ああ、リーゼとしか名乗っていなかったな。私の名前はアンネリーゼ・フォン・アウグルクリス」
「この国の第二皇女ですか……!」
驚きのまま、リーゼを見返し、同じようにリーゼを驚いて見返したシルヴィアはギロリとした目で俺を見てくる。
『ええ!?』
「ってなんでリオンも驚いてるにゃ!!」
ごめんなさい。
というか、お、おれ、お姫様に手を出してしまったんだろうか。
い、一体どうなるんだ。




