第42話 灼熱のトカゲ
「あーーーついにゃ!」
「ええ。弱音は吐きたくありませんが今すぐ戻って温泉に入りたいですね」
Aランクのモンスター、火山に住む大ヒトカゲを求めて俺たちは火山に入る。
ある程度道をなしているものの、大ヒトカゲが住むという洞窟を川のように源泉が流れていく。
大量の湯気と熱がまるでサウナに入り続けているように暑い。
だらだらと流れる汗で衣服が体に張り付き、不快だ。
入ってすぐは汗ばむ二人に目を惹かれることもあったが、次第に暑さで頭がいっぱいになる。
「水属性の魔術が得意なら良かったんだけどね」
「そうですね……大して足しにはなりませんが、キュア」
失われた活力が戻っても、水分と汗と流れた塩分は戻らない。
フルキュアならそれすら戻るようだが、その度使っていたらあっという間に魔力は枯渇するだろう。
「温かいせいかな。色んな魔物が住み着いているみたいだし……我慢するしかないね」
襲い掛かってくる、燃えるような赤い翼のファイヤバードや、巨大な蜘蛛やリザードマンを蹴散らしていく。
闇の衣の高い防御力はパーティーの盾役、剣役をこなせ、攻撃を受け止めた瞬間にシルヴィアが急所を一撃で切り裂く。
CやBランクのモンスターで素材はいい値段にはなるが、その素材を運んで歩くと考えれば手にする気にもならなかった。
かさばらない幾つかの高額な部位のみ切り取ってゆく。
「りおんー、わたしを背負う権利をやるにゃ」
「いま人肌とか触れたくない」
「けー! 今だけなのににゃ」
「そういうのは戻ってからにしましょうね。あんまり気を緩めると怪我しますよ」
「そしたらごしゅじんさまに直してもらうにゃ」
「もう、怪我はしないほうがいいですよ」
わいわいとしながら歩いていると、少し先が広い空洞になっていて、その中央には大きな赤いドラゴンが横たわっていた。
「あいつかにゃ」
「いくぞっ、ブラッドモードオン!」
いや、ドラゴンではない。大きく横に広がった腹と、その横からカエルのように手足が伸びている。
ドラゴンの鱗のような硬さではなく、ゴムのような柔軟さを感じる。
ぱちりと目を開けると、大ヒトカゲはその場から跳ね上がるようにして後ろに飛ぶ。
重さを感じないようにスタンと地面に着地する。
人間一人くらい平気で飲み込んでしまいそうな口をこちらに向けるとちょろちょろと2つに割れた舌が伸びてプッと何かを吐き出して来る。
弾丸のように迫る何かを、大きく広がった闇の衣が体の手前で受け止め、液体は地面へとたれてゆく。シュウシュウと音を立て、液体が落ちるのに合わせて地面に穴が開く。
受けてたらおそらく鉄の鎧でも溶けて体ごとどろどろになるに違いない。
「げー、近づきたくないにゃ」
「正面は俺が相手するから、横を頼む。しっぽには気をつけて」
「むう、銀虎で相手したくないにゃあ」
ゴムのような体の大ヒトカゲに、シルヴィアの刃は通らず、攻撃力が不足している。
吠えるような気合の入った声の後、大きな銀の虎が現れる。
虎は背中に飛び乗ると抑えこむようにして上から頭に食いつく。
上を取られた大ヒトカゲは暴れようとするが、力はシルヴィアが優っているようだった。
じたばたと動けないでいる大ヒトカゲにじっくりと力をためて、新装備の剣身に魔術印が書かれ、闇の魔力が通りやすくなっているルーンセイバーを構えて振り下ろす。
剣は大ヒトカゲの体に差し込まれてゆき……刺さったことを確認してから、ダークセイバーを使う。
全身を内部から切り裂かれ、大量の血の力が体に満ち、それを再び使って何度も切り裂く。
「がっ、ガアア!」
暴れようとしても、大きな銀虎が押さえ込んでおり、許されない。
次第に体の動きは弱く小さく変わって行き――
死に絶えた。
「だいじょうぶでしたか?」
「俺は大丈夫」
「わたしは結構怪我したにゃあ。ごしゅじんさまー」
銀虎から人の姿に変わったシルヴィアはお腹をめくり上げて怪我を見せているが、ほとんどがかすり傷で、怪我と呼べるか微妙なくらいだった。
それ以上にぷるんと揺れる褐色の2つのオーブに目がとられる。
「直しますから、直しますから……」
暑くてマリオンに甘えられなかった反動なのかもしれない。
マリオンに直してもらえることを誇らしげにシルヴィアは笑っていた。
でも、Aランクであっても、大した敵にならない。
この事実は俺たちを勇気づける。
これなら、Sランクにも挑むことができるかもしれない。




