第4話 いとこ様
彼女は扉をバンと開けるとそのままズカズカと俺の部屋に入ってくる。
少しだけつり上がった目つきは強気な性格を表に出しているものの、人形みたいに整った顔の造りと、どこかお母様にも似た、雰囲気から可愛らしさをまだまだ感じる。
肩までかかった髪をうっとおしそうに払うとふふんと鼻を鳴らしながら両手を腰に手を当てる。
「リオン!! 迎えにきたわ! さあ、遊びに行きましょう」
「エヴァ様、部屋に入る際にはノックをお願いします」
「次からはそうするわ!」
そう言いながらも、前回もそうだった。むしろ成長したのか、より勢いを増しているくらいだ。
「勉強はそろそろ終わってるはずよね! じゃあ行くわよね?」
「え、えーと」
「行くわ!」
応える前に手を捕まれ、ぐいっと引かれる。
たった2歳しか違わないはずなのに、全身を引っ張られるくらいに力強く、まるで女オーガだ。
エヴァは従姉で7歳の女の子だ。まだまだ色気とは無縁のかわいい年頃だ。
彼女は何が気に入ったのか知らないが、赤ん坊の頃に会いに来たのが付き合いの始まりだ。
こちらを覗き込み、楽しそうにする彼女が「おねーちゃんと呼びなさい」というのでリップサービスのつもりで「ねーちゃ」と返してしまったが最後、彼女はぱあっと顔を輝かせながら、「そうよ! おねえちゃんよ!」と俺は彼女の弟分になってしまったらしい。
それ以降、事あるごとに彼女は俺の元を訪ね、部屋をつれ出すのだ。
一見ただの我侭少女に見えるが、出歩くときはこちらをちらっちら見ながら足の速さを調整したり、転べばおろおろしながら、『怪我はない!? 痛くない!? 泣いちゃダメよ!』とこっちが心配になるくらい心配してくれる。
「……エヴァ様、お二人のお弁当を用意させておりますので、受け取ってからお出かけください」
「気が利くわね、フェリシア! さあ、行きましょう、リオン!」
有無を言わせず、連れだされる。
苦笑しながら手をふるフェリシアに別れを告げ、俺たちは屋敷の外へと向かう。
離さないようにギュッと握りしめた手を振りほどけないまま、俺はそのままついていく。
門を出て、人の目から離れると、エヴァは手を離して自信満々な笑みを浮かべる。
「今日は森で遊びましょう」
「ええ!? もりにはまだいっちゃいけませんってとーさまが……」
「リオンがそう言われているのは知ってるわ! でも、一人で行っちゃいけませんって言われてるだけでしょう? 私がいるから大丈夫よ!」
「でも、もりにはくまもいるし、ごぶりんがでるってはなしだよ?」
「ゴブリンくらい平気よ! この間、バスって首を切り飛ばしてやったもの」
この世界にはたくさんの魔物がいて、ゴブリンはその魔物筆頭だ。
人間のように群れをなし、コミュニティーを構成する。
群れが大きくなると、ゴブリンウィザードやゴブリンナイトなど、進化した個体が現れるため、規模によっては結構な脅威になる。
そもそも、ただのゴブリンでも、成人男性より多少弱い程度の力を持っているため、油断はできない。
棍棒をもった、数人の成人男性に襲われると思って貰えれば怖さはわかるだろう。
それだけに、2歳しか差がないはずの彼女がゴブリンを倒したというのは正直すごい。
前世では高校生だったが、もし俺が金髪のにーちゃんに絡まれたら恐怖で竦んでしまうだろう。
だが、幼女がチンピラをぼこぼこにする光景を思い描いて笑いそうになる。
「ごぶりんを一人でたおせるの?」
「もちろん! 伯父様から剣を習ってるし、お父様から魔術を教えてもらってるもの!」
レベルという概念があるわけではないが、この世界の人間は極めると、象よりでかい竜を身長くらいの大きさの剣を振りかざして切り飛ばすようになる。
鍛えた剣士は超人になるだけに、実戦で鍛えたうちの親にも習っているというなら、ゴブリンくらい問題ないのかもしれない。
「ええ? ふたりから? いいなぁ」
「リオンには私が教えてあげるわ!」
7歳の女の子から剣を教わる位ならお父様から教わりたい。
ただ、弟分にいいところを見せたいその姿は素直に好ましく、言われるままについていくことにした。




