第39話 Sランクモンスター
人間の中に、時折、英雄と呼ぶしかない人間の枠を遥かに逸脱した存在が現れることがある。
素手で鉄を握りつぶし、駆けるだけで地面に穴が空き、飛べば鳥を捕まえる。
1人が一軍を超える戦力になる、一騎当千の存在。
だが、種族の枠を超える存在が生まれるのはなにも人間だけではなかった。
種族によって大なり小なりあるものの、大きなコミュニティーを構成する種の場合は王種などと呼ばれ、例えばオークに生まれたオークキングは、配下のオークすべての能力を極大に向上させ、あらゆる生き物を喰らい尽くし、雌を孕ませ、新しいオークを産み落とす。
軍隊を形成し、獲物を喰らい尽くしてゆく行列はイナゴよりなおたちが悪い。
その戦力や、竜すら打倒するというのだから、Sランクとはそれに相対する国にとっては死活問題といえる。
「オークキング、クイーンアント、ドラゴンロード……強い個体じゃなくて、種族自体のランクがアップする、Sランクモンスターはパーティーで倒す相手じゃないな。食い荒らされるのが落ちだし、そもそも、今は噂もないしな。ふっ、この、紫電のタカシがSランクになったら話は別だが」
モンスターのことは冒険者に聞くべし。
アードルフは人型の女モンスターか一般的なことしか知らず、さつきはそもそも大して知識がなかった。いや、たくさんのモンスター名を挙げられたが、そのモンスターこの世界のじゃないだろ。
ゲームから持ってくるな。
そもそも専門家に聞こうと、ギルドに戻ってきたのである。
提案しておいてさつきは『がんばってねー』と特に応援する気持ちが感じられない応援をくれて別れた。自由なやつである。
「Sランクって他にいないんですか?」
「あとはまあ、長い間生きて強くなってるタイプかな。悪魔王もそうだし、ドラゴンみたいな長命のモンスターは格が上がるというか、魔術も、体格もすごくなるんだよな。帝国にも何体かいるはずだぜ。でも、大概住処でおとなしくしている奴が多いから、ちょっかいかけなきゃ危険はないな。もっとも、倒せりゃ土地が手に入るからちょっかい掛けたくなるんだろうが」
どちらかと言えば、直接被害があるなら軍が出てきて倒すから、住処から出てこない強い奴が長く生き延び、より強くなるという感じだろうか。
そして、一攫千金で挑む相手でもないようなので、冒険者ギルドでも依頼が出てないか、出ていても、いつ出したのかわからないくらい張りっぱなしで誰も手にしてない依頼だ。
「挑むなら1ランク上までが鉄則だぜ。命はひとつしかないからな」
体もな! といって、パーティーメンバーと俺を一緒に抱きしめる。もがもが。
ほんのり感じる汗の臭いとがっしりした筋肉と、メンバーのメルの柔らかい体で頭はぐちゃぐちゃだ。
「まずはAランク目指したらどうだ? 何事もひとっ飛びとはいかないもんだぜ」
「そうなんだけどね……まあ、そうかな」
月の教団に襲われるかもしれない。だから力を得なきゃいけない。
でも、そのために死の危険が高いSランクモンスターに挑むのは間違っている……か。
そもそも、俺は何ランクなんだろうか。
吸血鬼として目覚めた時、教団に雇われていた傭兵団を倒した。彼らは腕が良い方だと思うし、B以上だったと思う。
なら、魔物としてのランクはA以上なんじゃないだろうか。
「リオンがどのくらい強いかわからんから、悩むにゃあ」
「なら、まずはAランクのモンスター退治ですかね?」
うむむと首をひねるシルヴィアとその頭を撫でるマリオン。
確かに、Aランクがどのくらいの相手なのかによって対応が変わりそうだ。
それに、アードルフにお願いして、メンバー三人の装備を用意してもらうように言っている。
金で解決できるレベルでは一番の装備ができるはずだ。
装備ができたら……!
Aランクモンスターとなれば街の近辺にはいない。となれば、ちょっとした遠征になるだろう。
「旅行だと思えば楽しそうですね」
「わたしはごしゅじんさまといっしょならどこでも楽しいにゃ!」
……女の子と旅行というのも気合が入るものだ!




