第38話 敵は誰だ
「あ、おかえんなさい」
吸血の順番はマリオン、マリオン、シルヴィア、お休みとローテーションを決め、まずはマリオンかな! と意気込んだらいろいろあって疲れましたので、お休みにしましょうと言われてしょんぼりした。
次の日にこれからのことを決めるべく、第二の屋敷になった、アードルフ宅を訪れると、ソファーに寝っ転がりながら、バリバリとお菓子を食べている女がいた。
自宅か! お前の部屋か。
さすが勇者を堂々と名乗るだけの勇気と胆力。
そう、何故か勇者さつきはこの屋敷にとどまっていたのである。
「た、ただいま」
「アンタも食べる?」
「食べるけど、なんていうか馴染み感ぱないなぁ」
「私の長所よね」
ムクリと起き上がる。彼女の衣服はセイラー服を似せたような衣装でミニスカートだもんだから、だらしない態勢に太ももが顕になっている。
「あによ」
「別に。それよりなんでここに? 宿には戻らなかったの?」
「元々宿は一泊分しか払ってなかったというか払えなかったというか。それに、貴族の家の方が宿よりいいものでそうでしょ?」
「ろくでもない寄生だなあ」
「仕事はちゃんとしてたわよ?」
さおりは事件から今までの数日、アードルフを見張っていたらしい。
操っている身からすると、正直そんなの必要ないというか、邪魔だ。
なんというか、自宅警備をかってでられた気持ちになる。
「でもまあ、アードルフはかなり頑張ってたわね。アンタの説得で心を入れ替えたみたい。奴隷を買うのはやめて孤児院に出資することにしたんですって。屋敷の仕事を孤児院の女の子に斡旋したらしいわ。ご飯もちゃんと食べさせてたわ。私と一緒に食べたし間違いないわ」
アードルフは孤児院に投資しているみたいだが、これは、おそらく吸血の相手を探すためだろう。
身寄りがなく、助けた恩と、孤児院でそこの子性格を聞いたうえで口の固い相手を雇えばいい。
雇って吸い殺すようなことがないのは良かったが。
流石に長く奴隷市のある領を運営していただけあって、うまく相手を揃えているようだった。
「それで、あのローブの男は一体何者なんだ」
これは一番確認しなければいけない内容だった。
ローブの男、ライナーは俺に『アルカードの若き不死者』といったのだ。
不死者だけなら、見抜いただけかもしれない。けれど、アルカード領の新しく不死者になった者であると言ってきたのだから――相手は限られる。
「深くは聞きませんでした。まっとうな商人ではないのはわかっていましたから」
「けど、月の教団の関係者の可能性は高いと思う」
「リオンさんを魔物に変えた相手でしたか。不老不死の研究の最先端でもありますね」
「そうだ。魂ごと体を止める。あれも不老ではあったし。問題はどの程度偉いのかわからないけど、他国にいる教団員にまで俺の情報が共有されていること。所在がバレたこと」
そう、元々は教団の影響を強く受けるエティリア王国で吸血鬼であることを突いての引き渡しを防ぐための逃亡だった。
けど、アウグルクリス帝国で夜の教団は勢力としては下火だ。教主自体が王国の建国に携わっていることもあり、国に根付いているのだ。
敵対しようとすれば国と国の戦争の形になるかもしれないとなればおおっぴらにはぶつかってこないかもしれない。
「もしものために、力はつけなれけばいけない」
教団は魔術の力を覆す不思議な技術を持っている。
マリオンを麻痺させる力は俺には効果がなかったが、シルヴィアでも危ないかもしれない。
「……だったら方法はひとつね!」
「期待してないけど、なに?」
つまらなさそうに聞いていたくせにいつの間にか乗り気でドヤッと笑顔になったさつき。
「Sランクモンスターの討伐! そしたら領がもらえて貴族になれるんでしょ。なったら騎士団を作ればいいじゃない」
一周回ってまともな提案かもしれない。
国の中で、大被害を出すかもしれない、もしくは、土地にいるせいで広大な土地が開発ができない。
そういう国家に害を与えているのがSランクモンスターでその討伐は功績になる。
そう言った功績があれば悪魔王のように人間ではないことを公言しつつ、貴族になれるかもしれない。
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