第19話 僕達の夢の方向性
「それで、話は戻っちゃいますけど、リオンさんはこれからどうするんですか?」
「えーと、それは……」
「いえ、村を、そして隣国のアウグリス帝国を目指すのはわかりました。でも、そもそも、どうやって生きていくつもりですか?」
「ど、どうやってって、まあ、盗賊とか、悪いやつを退治ついでに血を吸ったりして生きていく感じ?」
なぜ自分が吸血鬼になったか、ここまでどうしてきたか、何処に行こうとしているかを伝える。
マリオンが一緒であっても、基本的にはすることは変わらないつもりだったが、どうやらそれでは合格点がもらえなかったらしい。
「リオンさん! 甘い、甘いですよ。吸血鬼なんていつピンチになるかわからないのに、その日暮らしなんて! コソコソやっているうちにいつかバレて悪いやつを狩る側から駆られる側です」
「バレないようにすれば大丈夫でしょ?」
「私にバレてるじゃないですか……」
確かに、正体をバレずにクリアしろ! みたいな状態なのに最初のイベントでバッドエンドフラグがたったみたいなものだ。
「と言っても、じゃあどうすればいいのさ?」
「まずは大きな目標ですよ。例えば難しいと思いますが、人間に戻りたいとかです。人間に戻り、貴族の息子として生きるなら、悪いことはできませんよね? でも、復讐したい、とか、吸血鬼として覇道を極めたい、のなら強くなるために血を吸ったり、装備を整えよう、という話になります。まあ、どちらもおすすめしませんが」
「なんで?」
「人間以外が人間になる話なんて聞いたことがないですし、たとえあなたが強くてももっと強い人はいますからね。――例えば不死王とか」
この世界にいる1000年を生きた強力なリッチ。
最高の資質と知恵をもつ研究者だった魔術師が、その果てに不死に至った悪魔。
だが彼は変化しても彼のままだった。
生前と同じように彼を慕う人たちによって作られた街はいつしか国になり、今も王として君臨している。豊富な知恵、強力な力。それでいながら逆に人としての欲が小さく、むしろ善政を敷いているらしい。
「なにかしたいことありますか?」
「そう言われても」
「なにもないんですか? 男の子ならなにかあるでしょう?」
「えー? でっかい男になって女の子とウハウハみたいな?」
「いいですね! でも普通にやったんじゃそうはなれません。だから、リオンさんもなりませんか? 不死王のような、人でない領主に」
とは言え、彼のように成り上がるのは相当難しいだろう。
なにせ、不死王と違って吸血鬼は、人を襲わなければいけないのだから。
「永遠にバレないように生きるのは無理です。だから、いっそ開き直ってバレてしまっても大丈夫なように実績を作りましょう。吸血鬼が増えるかもしれないリスクより、あなたがいてくれるメリットが大きければいいんです」
「なるほど! いいことというか、でっかいことをして成り上がっていって、偉くなって――」
「ウハウハですね!」
「行けそう!」
いい風に語ったが、マリオンがいなかったら、這いずって大きな街に行って、冒険者にでもなりながら、盗賊や悪いやつを襲って。
けれど、盗賊なんてたくさんいるわけでも、すぐに見つかるものでもない。
飢えれば、一人でいる人間を探して善悪関係なく襲っただろう。
最初あの村でそうしようとしたように。そうしてバレてモンスターとして狩られるのだ。
いつかバレるのだからそれまでにバレないようにする考えはなかった。
――まあ、目の前で一生懸命でそこまで考える余裕もなかったが。
「じゃあ、でっかくなるためにまずどうしようか!?」
見えてきた未来の姿に、俺は前を向いた気がする。
やる気が溢れてきて、お手伝いを母親ねだるような気持ちでマリオンを見つめると、彼女はその引き込まれる笑みを浮かべる。
「ではまずは盗賊退治と行きましょう」
マリオンが指差す方向は俺達が逃げてきた場所だった。
「――え?」