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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
初心者吸血鬼生活
16/63

第16話 第一村人発見

 パパのことなんて大っ嫌い! だって、わたしのことなんにもわかってないんだもん!


 年頃の娘に言われたら死にそうなフレーズですね。

 でも、今俺はお父様にそう言いたい。


 アルカード領を出て既に4日。もし追手が来ているのなら真っ先にアルカード領を訪ね、その後国境を調べるだろうと思えば、なるべく早く国を出たいと思い、夜をメインに朝昼はとぼとぼと馬車を走らせていた。


 携帯食を多めに入れておいてくれたおかげで、いちいち食事のために馬車を止めずにいられて、旅はそれなりにスムーズだったと思う。


 では問題はというと……とても寂しい。


 ちょっと前まで、みんながちやほやかわいがってくれて、お母様なんて毎朝抱きしめるしお休みのキスもするし、フェリシアもかまってくれるし、なのに今は一人だ。

 夜馬がおっかなびっくり走る馬車を気を使いながら走らせ、美味しくない食事の更に美味しくない携帯食をぼそぼそと食べ、人とすれ違いそうな時は馬車の中に逃げ込んだり、うつむきながらすれ違ったり。


 確かに? 国を出るとか、吸血鬼についていくとか、俺だったらごめんなさいする。

 物語ならかわいい美少女だったらホイホイついていくかもしれないけれど、現実だったらそうすんなり付いて行かない。

『家族を捨てて私を助けに来てくれる?』に迷いなく『ああ!』と答えられるのは物語の主人公だけだ。

 フェリシアは俺の世話係ではあっても、別に忠誠を誓った主従関係でもないし、彼女にも家族がいるし、将来設計だってあるに違いない。

 だからね、しょうがないよね。ああ、俺が美少女だったらなー。ショタじゃダメかー。いや、中学生がババアなら俺はもうショタじゃないのかなあ。


 日差しの強い昼は寝るには辛くなってくる。そのせいで考える時間だけはたくさんあって、別れの時はキリっとしながら『フェリシアだけが頼りだから』と言っておいてこれである。


「はあ。喉が渇いた」


 日差しを感じるせいだろうか。水を飲んでもすぐに喉が乾くし、妙にもやもやする。

 寂しさというか、人を求めている感じがあって、フェリシアやお母様、エヴァのことばかり思い浮かべる。


 エヴァどうしてるかなあ。本当だったらエヴァのところでお泊りして、エヴァはまだあまり意識してないのか、何度か一緒にお風呂に入っている。

 訓練をしているのに、体質なのかそんなに焼けておらず、綺麗な肌をしていた。

 真っ白なんてことはないが、それが健康的で、ハムハムってしたい感じというか――


 ――したい感じというか……。


 もしかして、血が吸いたくなってきているんだろうか。

 この倦怠感はそのシグナルなのだろうか。

 思い返せばこの感じ……昔、テストで悪い点をとって、2日食事を抜かれた時に似ている。

 水や牛乳をガブガブ飲んで、それでも満たされなくて、考えるのはラーメンやハンバーグのことばかり。


 儀式当時はあった、あふれるような力も、あまり感じない。


「血を、吸わなきゃ……」


 けど一体どうやって? 盗賊のように馬車を襲うか? 盗賊相手に全く動けなかった俺が、吸血鬼になったからといって思い切り良く行動できるだろうか。

 そもそも、複数を殺すなんて出来るだろうか。相手だって死にたくないんだから当然逃げるし、街道で暴れなんてしたら、当然街で馬車は止められ、調べられて――正体がバレたら一貫のお終いだ。


「人気のない、道をちょっと外れたところとか、二人っきりになれる状態で襲う……とか?」


 まるで女の人を襲う変態のような思考だ。

 でも、わりかし、まじめに死活問題何じゃないだろうか。血を吸わない吸血鬼がどうなるのかはわからなかったが、空腹に似た現象は、飢えた末の結末と同じ未来を感じさせる。

 吸わないわけにはいかない。

 肉を食べても血の飢えは収まらなかったし、家畜でいいなら吸血鬼はそこまで問題視されないはずだ。やはり人間を襲うしかない。


 ――幸運なことに、その日の夜のうちに、俺は村にたどり着いた。



 --



「ホー、そんで、貴族のおぼっちゃんひとりでここまで来たんかぃ。えれーのう」

「いやあ、お父様が厳しい家でして。『可愛い子には旅をさせろと言うだろう』お前も旅の1つや2つしてみろっていうんですよ」


 結局、村の前の畑を耕しているおじさんおばさんや、ちょっと離れたところで狩りをしている狩人などを見かけながらも、村に入るまで結局襲えなかった。


 いや、違うんだ。臆病風に吹かれたわけじゃなくてもしかしたらバレちゃうんじゃないかって思って念の為にね! そのね。村で部屋を借りて夜ゆっくり襲えばいいんじゃないかなって!


「だから、カスパーさんが止めてくれて助かりましたよー」

「ええってええって。お金もろうて、塩までわけでくれとるし。暖かい飲んできなさい」


 カスパーさんは一人暮らしの50才男性だ。妻に先立たれ、娘は既に隣村にお嫁に行っているらしい。

 普段は狩りを主にしながら、農業をやっている。

 最近の不満は飲み仲間のヨーゼフが足腰が悪いからと遊びに来なくなったことだとか。

 孫が二人いるが、どちらもかわいく、子供の頃、じーじくちゃいと言われた時はショックだったが今は時々狩りを教えているとか、弾丸のように色んな話をしてくれている。


「さーて、そんじゃそろそろねっか」


 ごくり。喉がなる。血を飲むとか、気分は良くない。

 でも、この満たされない感じは辛い。それに、多分だが、飢えすぎてからだと、相手を殺すくらいに吸ってしまうかもしれない。そうしたら吸血鬼が増えてしまってやばい。

 だとしたら、適度に襲うのはむしろ、世界のためというか。


 ――覚悟を決めろっ、この村から隣村までは数日かかる。今の状態からそんなに時間がかかったらどうなるかわかったもんじゃない。

 ヘタすると腕の良い護衛がいる馬車を襲うしかないなんてことになりかねない。


「はー、ふー」


 深呼吸しながら、気を鎮める。さて、なんて言いながら襲いかかるべきだろうか。

 ごめんなさいか、我が糧になるがいいか、やっぱり……本命のいただきますだろうか。


「ん? 誰か遊びに来たみたいだの」


 悩んでいるうちに誰か来てしまったらしい。

 もしや、飲み友のヨーゼフさんだろうか。まずい、ふたり相手なんて初心者には辛い。

 ああ、だからもっと早くやっておけばよかったのに! ご飯を食べてすぐとか!


「あーい、今行くでよー」


 カスパーさんが扉を開ける。

 そこにたっていたのは村人というのはあまりにも身なりが汚い、寄せ集めの服を着て、質の悪そうな剣を構えた男だった。


「おう。金目のモノ、だしな」

「おおお、なななんじゃ!?」

「騒ぐんじゃねえよ。盗賊団だよ、盗賊団。死にたくなきゃ全部出しな、命だけは助かるぜ」


 またなの!? アルカード領を出ている以上仕方がない話だが、またも盗賊と出会うなんて。

 いや、前回のは盗賊ではなかったから初めての盗賊なんだろうか。

 けど、盗賊相手なら吸血だって抵抗なく行けるんじゃないだろうか。むしろ、助けることになるんじゃなかろうか!


 よしと身構えると、カスパーさんが走って戻ってくる。


「ままま、待つんだリオンくん、焦ってはいけない!」

「カスパーさんこそ」

「魔術を使うから、両手を後ろに回してくれっ」

「え? ――こうですか?」


 カスパーさんが魔術を使えただなんて。けど、中級魔術でも百人に一人くらいは資質があるそうなので、村一つに一人くらいいてもおかしくないと考えればそう問題でもないだろうか。

 強化魔術かなと思って、手を後ろに回すと、何か細いものが手をこすり、ギュッとしめられる。


「え??」


 ゲシッと突き飛ばされて俺は倒れるように前に進んで……そこにはニタリと笑う盗賊が一人。


「こ、こいつは貴族の息子みたいです。身代金でも何でも取り放題で、外に馬車が止まってます! だから、儂の金は勘弁してもらえますでしょうか。残り短い余生の蓄えなんです……」

「へへっ、わかってるじゃねえか」

「え? ――えええ!? カスパーさん! うらぎ――」


 男はそのまま、俺の腹を蹴りあげて――俺は意識を失った。

 深く暗い泉に飛び込むように、あっという間になにも映らなくなった。


「まっ、いうこと聞いてやる必要もないわけだけどな。――半分で許してやる。出せ」

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