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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
貴族のんびり生活
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第15話 別れ

「その方がリオン様だと言うのですか? そんなこと、あるはずが……」


 吸血鬼に変わり、人としての形は変わっていないものの、年齢が上がり、髪の毛は黒に染まってしまった。


 夏休みの後に日焼けして髪の毛を金にしてくるだけでもかなり印象が変わるのだし、逆に金の髪が真っ黒に変わって『やあ、数年ぶりだね。小学生の頃友達だった佐藤だよ』と言われても本当なのか戸惑うのが普通だと思う。それが数日前に別れたら数年たっていたのだ。

 玉手箱を開けた浦島太郎みたいなものだ。


 それを思えばなにも言わずに本人だとわかってくれたお父様はすごい。


「この子はリオンだ。紛れもなく。リオンが成長すれば今の姿になるんだろうな」

「一体何があればそんなことになるんですか」


 お父様は俺を抱きしめて離さない。

 けれど、最初に抱きしめた時から少しずつ力が抜けて今では離さないための力しか入っていなかった。


 いつでも力強いお父様の弱々しい姿。

 もしかしたらお父様は俺がこうなっている原因にある程度思い当たっているのかもしれない。


「――人が不死者に変わる際、若返りを起こすことが多いらしい。強力なものほどそうなる。そのものが一番強くなるよう、変化するんだろうな。元にあいつもそうだったのだから」

「かつてこの領を襲った吸血鬼ですか――それでは……そういうことなのですか?」

「……リオン、なにがあったか話してもらえるか?」


 ホントは言いたくなかった。

 受け入れてくれた、わかってくれた。そんな気持ちのままでいたかった。

 話したくはなかったが話さないわけにはいかない。


 だから俺は、盗賊のふりをした傭兵に襲われたこと、襲ったのは月の教団のメンバーの一人であること、夜のオーブというアイテムを使って俺を吸血鬼にしたこと、あふれる力でいつの間にかそいつらを殺していたこと、お母様はその場にいなかったため、必死になって馬車で帰ってきたこと。


「……リオン様、奥様は――」

「そうか。よくがんばったな。アンリはお前が攫われて寝込んでいる。今のお前の状態を伝えればまた倒れかねない。後でゆっくり伝える。いいな」

「うん」


 お母様が無事だったことに安心する。

 悪いことばかりだったが、それだけは良かった。


「それにしても、月の教団か……復讐のつもりか……?」

「復讐? 教団がなぜ?」

「月の教団は不死を研究していて、不死に強いあこがれを持つものが多くてな。その思いが高まりすぎて不死であることそのものを信仰するものもいる。私がこの領を取り返した時も、逆に吸血鬼を倒したことを非難した吸血鬼の崇拝者はいたのだ。彼らは領を出た後、教団に加わったと聞いている」


 天使を崇め続けるうちに神に仕えるから偉いじゃなくて天使だから偉いに代わり、不死だからすごいとすり替わっていったのだろうか。


 悪魔を信仰するように吸血鬼を崇拝していたのだろうか。

 血を吸われるのにと思うが、尊い相手に何かを捧げたい人間がいるのはわかる。


 あの老人自体は教主のために動いているように感じたが、それを伝えると、教団の人間が独自にオーブを手にするのは難しいだろうと言われる。


 教団の考えが何処までまともなのかはわからない。

 でも、まず考えなきゃいけないことが他にあって――


「リオン。これからのことだが……すまないがここに置いておくわけにはいかない」

「旦那様っ!」

「月の教団は貴族の支持者が多い。教主自体、そもそも、初代エティリア国王に国を興せと啓示を与えたという話だからな。今もなお、国に強い影響力をもつ。吸血鬼が逃げ込んだかもしれないと言われれば捜査を拒むのは難しい」


 国を王とともに起こし、支えた天使。

 けれど、国ができてからも天に帰ることなく、今なお国を支えているという。

 もっとも、国が成長するとともに、少しずつ影響力が小さくなっているらしいが、月の教団を起こし、再び力を得ているとのこと。


「捕まったらどうなるかな……?」

「……まあ、退治か、しつけをされて永遠に教主の付き人か。どちらにせよ、いい未来とは思えない」

「誘拐して吸血鬼にしておいてそんなことを!」


 フェリシアは本気で怒っていた。今までいつでも冷静にうまくやる彼女の姿を見てきたがしつけのために怒ることはあっても、敵愾心からきもちを露わにしたのは初めて見た。

 毛が逆立つように、全身から怒りの感情が溢れている。


「国に仕えるものとして、領主としてはいけないことだが、私にはリオンは殺せん。奴らにも渡す気はない。だから、答えは一つだ。逃げてくれ。この領から、この国から。国から討伐を命じられていない今なら、逃がしてやれる」

「……うん。俺のこと、嫌いだから言ってるんじゃないよね?」

「当たり前だ。こんな方法でしか守れない父さんを許してくれ」


 理屈の上ではわかっているのだ。

 吸血鬼は血を吸わなきゃいけない。じゃあ誰を吸わせるのか? 領民か?

 どう隠していても、ばれる。

 それこそ、不死なのだとしたら、お父様が死んだ後どうするのか。


 教団のことがなくても、ここに隠れて生きれるものじゃないのだ。


「どこにいけばいいかな」

「クリーモア魔王国は魔王が治める魔族の国だ。力の強いものなら嫌厭されこそしないだろうが人が少ない。吸血鬼には逆に生きづらいだろうな。真っ直ぐ北を目指し、アウグリス帝国に向かうのがいいだろう」


 --


 逃げてきたのとは別の馬車に帝国へ旅するためのたくさんの荷物が積まれて行く。

 俺は厚手のローブを身に纏う。

 それでも隙間からさすため、真昼の行動は難しそうだったが、それでも吐き出すほどではなさそうだった。


「ごめんなさい、リオン様。一緒に行けなくて……」

「しょうがないよ。フェリシアには兄弟もいるもんね」

「はい……。旦那様と、……奥様のことは任せてください」

「うん。フェリシアだけが頼りだから」

「もう、しっかり話せるようになっちゃったんですね。――首元、緩んでますよ。リオン様はだらしないですね。――だめですよ、私がいなくてもしっかりしなきゃ」

「うん」

「うんばっかりですね。――それでは、行ってらっしゃいませ」


 手を振り馬車を見送るふたりに手を振り返す。

 いつか、再び会いに来ることはできるんだろうか。


 ずっと、一緒にいるのが当たり前の家族と家だった。転生してできた新しい家族は、ちゃんと俺のことを愛してくれていて、俺も家族として愛していた。


 体が変わってしまったことは恐怖だった。

 けれど今は家を出てこれからの関係が変わってしまったことが苦しかった。


「……負けるもんか」


 前の人生だったら、もういいやと投げてしまったかもしれない。死んだっていいと思ってたから。

 でも、『生きていてくれてよかった』と言ってくれた。

 だから、投げようなんて思わなかった。


「楽しんでやるっ。見返してやる」


 教団のやつらにか、理不尽な世界にか。

 でも俺は絶対生き延びて、いつか、また再び家族と笑顔で会うんだと胸に誓った。

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