第10話 我が剣を見よ!
「ぐわああ、やーらーれ~たー!」
刃を潰した剣はお父様を斬りつけた。斬りつけたかな? 斬ったような気が全然しなかった。
素振りをした時と同じくらいのなにも引っかからない感じ。
「おとうさまわざときられたふりしないで」
「くっ、さすがリオンだ。剣撃が生み出す風の刃が俺を切り裂いたようだ……!」
「かえってまじゅつのしゅぎょうしようかな」
「おおっと、待ちたまえ、本番はここからだ!」
なんだかんだで家を空けることも多いパパはむすコミュニケーションに飢えているようです。
鍛錬所の横を歩いていたメイドのフェリシアがその光景を見て足を止めて笑っていた。
「リオン様も剣を学ばれるのですね。絶対怪我で服を汚さないでくださいね」
「はあい」
「旦那様はともかく、素人のリオン様はふざけてはいけませんよ」
「わかってるよ、ふぇりしあ」
心配そうに、でも素直に怪我をしないでくださいと言わないフェリシア。
俺は緩んだ顔を軽くはたいて両手で剣をギュッと握る。
「ふっ、女の応援にいきり立つとは既に男だな、リオン」
「べつにふぇりしあとはそういうんじゃないよ?」
わかってるわかってるという顔で頷くお父様に、ショックだわと言わんばかりのフェリシア。
二人に遊ばれているのはわかっているので、無言の再開合図として、斬りかかる。
「おっと、そのくらいじゃ隙はつけんぞー」
剣を習いだしてわかったのは、初心者では絶対上級者に勝てないことだ。
何度いつ剣を振っても、壁を斬るように弾かれ、そらされ、全く傷つけることすらできない。
どうすれば対処できるか、隙を作るか、自分の剣を相手に通すか。
そのノウハウが流派として、その体得者として身についているのだ。
ちょっと学んだ程度の素人の剣は全く通らない。
その無理を通せるのが魔術の可能性だ。
けれどお父様に剣の練習に魔術を使ってはダメだと禁止されている。
両方を使いこなすのは大切だけれど、魔術を使うのが前提の剣じゃ、使わなくてもなんとか出来る時でも使わなきゃいけなくなるからと。
確かに、剣は百回ふれても、魔術を百回放つのは難しい。
「フェリシアにいいところ魅せたいだろ? 今日は魔術を使ってもいいぞ」
「やった!」
ミハエル叔父様から魔術を教えてもらい、いくつか使えるようになった魔術の中から、なにをどう使おうか、頭に浮かる。
「ダークミスト!」
お父様を中心に自分さえも包み込む闇の霧。視界を防ぐこの魔法のいいところは込める魔力を高めることで弾力が出ることだった。
膝以下の水の中程度の動きにくさであっても確実に足が遅くなる。
そして、小声でもう一つ、「ハイドビアインド」
目をつむっても、気配という何かで察知できてしまうお父様に目を塞いだ程度では有利はつかない。
でも、影の力で背後に気配を生むこの魔術と組み合わせることで、まるで俺が背中に回ったように感じるはずだ。
振り返って剣を振るうだろう、お父様に向け、真っ直ぐ剣を振るう。
(とった!)
理屈の上では完璧なはずの戦略は、簡単に受け止められてしまう。
「ふふっ、狙いはいいが甘いぞ、リオン!」
「えー、かんぺきだとおもったのに」
「急いで使いすぎだ。背中に回るには早過ぎる。偽の気配だとバレバレだったぞ」
「だめかあ」
「まあ、闇魔術が使えると知らない相手なら効果はあると思う。とは言え、作った隙をつけるくらいには剣を鍛えたいところだな」
「……最初から最後まで霧で全然見えませんでしたね。怪我はないようなのでいいですが」
「あっ」
少し残念そうなフェリシアに『体を冷やさないうちに汗を流したらどうでしょうか』と言われて、お父様と二人でお風呂に入る。
鋼でできてそうなお父様だが、歴戦の猛者である証拠に、体中に見てわかる怪我の後があったりして、このひとつひとつの積み重ねの結果あるのだなと思うと強さに納得するのだ。
「ああそうだ、リオン。また、明日から暫く出かけることになる」
「また?」
「ああ、大したことのない貴族同士の付き合いだ。毎日の訓練はサボっちゃダメだぞ?」
「うん。やくそくする」
「うむ。戻ったらどのくらいうまくなったか見てやるからな。そうだ、ミハエルのところに遊びにいくか? いつも会いに来てもらってばっかりだしな」
「いいの?」
「可愛い子には旅をさせろというしな」
ミハエル叔父様とエヴァは基本的には王都に住んでいるが、この領の近くにある国の研究施設に時期によって滞在しており、その時は行き来しやすいため、うちに寄っているらしい。
馬車で一日かからない距離なので、小旅行ってところかもしれない。
「アンリと一緒に楽しんでこいよ」
「うん」
こうして俺とお母様はミハエル叔父様に会いに旅に出ることになったのだ。




