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吸血鬼だってチーレムしたい  作者: もこもこ
貴族のんびり生活
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第1話 よくある始まり

 異世界に行ってみたい。そう思ったことはないだろうか。

 西洋じみた世界で、竜や魔王を倒したりして、美しい姫やかわいいヒロイン達と結ばれ幸せな一生を送る。


 そんなことを考えたとこはないだろうか。


 俺は何度もある。


 それは例えば学校に行かなければいけないことを憂鬱に思う月曜日の朝だったり、あまりにも退屈なのに、居眠りに厳しい先生の授業だったり、塾も遊ぶ予定もない放課後だったり。


 異世界で、魔法やスキル、現世の知識を活かして、好き勝手に振る舞うのだ。

 きっとそれはとても楽しいことだと思う。

 沢山の人に褒められて、賞賛されて、愛されて。

 一度くらいは行ってみたいなって多くの人が思うだろう。



 ……。



 けど、もしも本当に行けたら、きっと大変なんだろうなって思う。


『どうして?』


 だって想像してみて欲しい。


 例えば――

 俺は歴史の教科書をパラパラとめくる。


 マリー・アントワネットは美人のはずだ。

 でも彼女を恋人にしたいとか、奥さんにしたいとは思わない。

 中身からしてもそうだけれど、外見の好みからして外れる。


 あんな髪型の女性に口説かれたらドキドキするより前にぎょっとしたり笑ってしまいそうだ。コスプレなんてもんじゃないもん。

 学校にあんな子がいたら卒業までなじめないだろう。


 食事だって、お米なんてあるか怪しいし、胡椒が金の価値をもつ、なんて話になると、焼いただけの肉がごちそうになるかもしれない。

 マヨラーなんてほどじゃあ全然ないけど、肉を食べるなら、バターを滑らせて、美味しいステーキソースをたっぷりかけたい。


 お風呂なんてないかもしれないし、水がいくらでもある、なんてことはないだろうから、そうなるとシャワーだってそうそう浴びれない。

 となれば匂いだってすごいはずだ。


 何日もお風呂に入らない同士で抱き合う? すごく嫌だ。

 ハイヒールが生まれた由来を知っているだろうか? 街中に捨てられた糞尿で汚れないためだと聞いたらそこに住む自分を想像すると今の日本でよかったと思う。

 犬の糞を間違って踏んだらその日一日ブルーになるはずだ。毎日なんて耐えられない。


 そう、異世界は価値観や環境が全然違うはずだ。



『バットを一本もってサバンナのライオンを倒してください。そうしたら族長の娘が結婚したいと言っています』


 そう言われて「はい」と勢い良く参加の手が伸びるだろうか。

 日本に生まれ、日本で生きた価値観にそうそう合う異世界なんてないだろう。

 それこそ、同じ地球であっても、日本以外の国に急に住まなきゃいけないとなったら躊躇するだろうから。


 だから最近はこう思うのだ。


 ――転生なら。


 最初からその世界の一員として始めるのなら。

 それが当然だって生き方を続けた上なら、美意識だって、味覚だって、なんだってその世界にぴったりあって、その上で、今まで生きてためた経験を活かして、生きていけるんじゃないかって。


 それは高校生が小学生に戻ってテストを受けるみたいな、イージーな人生になるはずだって。

 そうしたら、周りの誰もが俺を認めて褒めてくれるって。

 温かい家庭と、頑張る機会に恵まれれば……って。


 でも、それでもそうはならないんだろうなって思うのは、俺が結局勉強も運動にも本気になれない人間だからだ。


 楽になれば楽になっただけ手を抜くだけ。

 退屈だな、簡単だなって思いながら本気で頑張る奴らを羨ましく思うだけ。

 そうして頑張るみんなを横目に少しづつおいてかれて追いつけないのだ。


 ――必死になれれば。


 やればできるはずだって思う。だから、やらなきゃいけない環境になればきっと。

 そんな風に考えてしまう。



 そんな風にぼうっと交差点を歩いていたある日。

 大音量のクラクションに振り向くと、そこにはこちらに向かってくる車がいて。

 もしも必死になって走れば逃れられたかもしれないのに、俺は驚きにすくんで立ち止まってしまった。


 逃げることも、身を守ろうともせず、そのまま車は凶器となって俺に向かってきた。



 ――そうして、この世界での人生を終えたのだった。



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