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魔法を創造する者

3週間が過ぎた、魔法書はここにあるだけは全て目を通した。99巻中76巻揃っていたので読み応えもあった。基本的な文法もおおよそだが理解している。あとはどのスペルが何を意味しているかを・・・まあ、要は単語の意味がわかれば色々作れそうだ、という段階にまでこぎつけた

問題はその意味なのだ、文になるとそのニュアンスもわかるのだが、単語単体ではニュアンスが伝わってこない。始祖様はどうやってこの単語の意味を探り当てたのか?それがさっぱり見当がつかない

始祖様と私の基礎的な部分の差・・・・


「言語学というのを習わないと理解できないのかしら?」


でも、それには時間がかかりすぎる。始祖様は人に教える立場にまでなった人だ、その領域はあまりに遠すぎる。おそらく同じレベルに至るには5~6年でも短いと思える


「エリック」


デスクに備え付けてある通信機のスイッチを入れて彼を呼ぶ


「なんだい?」


通信機のところで待機していたかのようなタイミングで返事が返ってくる。あるいはこの部屋にいないだけでどこかで監視してるのだろうか?私では見えるようにカメラなんかがあってもソレとは気付けないほど機械には疎いのだから


「魔法を詠唱できる人はいない?魔法使いである必要はないわ、あなたに読めないというスペルを読むだけの人」


「いるよ、バルローが読める、魔力はほとんどないから発動できないけどね」


「最適、彼女を助手につけてくれない?」


「了解、すぐそちらに送るよ」


「それで判れば万々歳だけど、もう手詰まりなのよね・・・」


すでに聞いてないのか?返事がなかったが、返事をされてもそれ以上話す事がないのも事実

ほどなくクレマン・バルローというエリック付きのメイドが会釈して部屋に入ってきた


「どの本でもいいわ、スペルを音読していって」


そう指示をする、読んで判らなければ聞く、それでもわからなければどうすればいいのかな?

そんな事を考えながらスペルの音読を聞いていた・・・クレマンという女性は年の頃なら20代後半だろうか?若いとまでは言わないがそれほど年寄りでもない、なのに声が低くしゃがれた感じで年寄りじみて聞こえる。話すとちょっと説教臭く聞こえるのもこの声色のせいなのかもしれない。あるいは落ち着いたしゃべり方のせいという節もある

そんな見た目より年老いた雰囲気の声色なのだが、魔法スペルの発音は凄くよかった

これで魔力があれば、恐らくかなりの使い手になれたのだろう。そう思わせるほど綺麗な発音だった


一時間ほど読んでもらってから


「ありがとう、少し休憩しましょう」


と言ってしばらく考え込む。発音が綺麗だと、ニュアンスも濃厚に伝わってくる

これでゆっくり聞くと単語のニュアンスもわかりそうな気がする

試しに5文ほど聞いてみたが、それほど甘くはなかった・・・





私がアテリアルテラフォーミングを職場としてから4ヶ月が過ぎた

ずっと聞き続けていたら突然単語の意味も理解できるようになり、ほぼ魔法を作れる自信が出てきたところでエリックに魔法の要望を聞いて見た。やはりというかテラフォーミング関連の魔法だったが、一度造ってみることに。恐らく出来ていると思うが、その実験はテラフォーミング中の惑星で行うこととなった。


「僕の親族で一人結構な魔法使いがいてね、彼にやってもらうよ」


「その惑星はなんて名前?」


「TRY-8325。まだ惑星の名前になってないね」


「この実験が成功したら、私もそっちに移ろうと思うの」


「え?・・・その必要はないよ、君は本社にいてくれれば・・・」


「成功したらよ。もちろん失敗しないと信じてるけど、成功すればこれから次々完成させないといけない魔法がたくさんあるじゃない。いちいち実験を任せてちゃ開発期間が足らなくなるわ」


「・・・まあ、それも一理あるね・・・それより考えてくれたかな?」


「アテリアルテラフォーミング社専属魔法使い?」


「そう、なにより我が社が君を魔法創造者に育てたようなものだろ?」


「それは否定しないけど、広く有益な魔法を造る仕事。ってのもありだと思うのよね。まあ、ここには優先的に対応するくらいは条件付けてもいいわよ」


「ううん、半年なんて期限切るんじゃなかったな・・・」


「でも、この魔法だけでも莫大な利益になるんでしょ?ほぼ独占企業になれるんじゃない?」


「まあね、しばらくは安泰だよ」


ほどなくして実験成功の知らせが入る。世界になかった魔法。それを私が造ることに成功したのだ。

この感激は他の何物でも得られるものではないだろう。ここまでの苦労も疲れも一切が木っ端微塵に吹き飛び、心地よい達成感に満たされる。と同時に正体のわからない焦燥感も感じた。

何に焦っているのだろう?もちろん答えなどでない。


「では手配ができたら呼んで、それまで休ませてもらうわ」


「えぇ?祝杯の準備もできてるのに?」


私は軽く手を振り、にこやかにエリックの誘いを断る。結構な回数繰り返されたその行いはすでに定例となっていたので、エリックもそれ以上は踏み込んでこなかった。




自分の研究に没頭できる・・・そう言えば始祖様はそう言ってた気がする

何をテーマにした研究なんだろう?今の私なら協力できると思うのに・・・

必要と思える魔法を開発しながらの研究、恐らく片手間にしかできない。でも、それを300年以上しているとなればさぞかし普遍のテーマなんだろうな・・・

始祖様に会いたい、会って今の私を見て欲しい。始祖様は今どこにいるのだろう?


魔法使いなら恐らく誰でも始祖様に憧れという気持ちを抱いているだろう、いや、私だけかもしれない。それだけに私は始祖様に会いたかった

これは恋に近い感情だと思っていた、しかし私には遠い存在。始祖様にとって私はただの魔法使いだったのだ、それが今は最も彼に近い魔法使いになれたのだ。この恋心は叶えることができるかもしれない。

そんな僅かな希望が、しかし確かな希望があった


「また会えるときには・・・あのときの私は無理だと言ってしまったのよね・・・」


後悔先に立たず。ほんとにそうだと思える

そんな事を考えてるうちに家に着いた。家の中は魔法開発のために書き溜めた書類というかメモが溢れかえり足の踏み場もない。今日の実験が成功したのだからもう不要なものだ、明日には処分しないと・・・


また転生する・・・つまり始祖様はあのときの女性ではなくなっている。今度はどんな人になっているのだろう?そもそもなぜ女性だったのか?本来始祖様は男性であった。

もしかしたら転生先は選べないのかもしれない。だから今回は女性だったのでは?


考えなくてもいいことや、考えてもしかたないことばかり考えてしまう

いけない、いけない。まだ造らないといけない魔法はたくさんある。頭を切り替えないと・・・




2日後、私は宇宙港の出発ロビーにいた。TRY-8325までチャーター船で行くので、5日程度の行程だ

アレックスも見送りにきていた、久しぶりに会ったがずいぶん逞しくなった気がする


「あと2ヶ月くらいだから、最後の追い込み、がんばってくるわ」


「戻ってきたときに再開する訓練で泣かないように、ちょっとは鍛えておけよ」


笑いながら別れ、一路テラフォーミング専用船で出発をする

テラフォーミングとは。そのままでは居住不可能な惑星を居住可能な惑星に改造することをいう。

質量などの条件が揃っているとこれによって居住可能にできる惑星は銀河内にいくつもある。

もっとも、改造の程度は色々だが、大体大気調整くらいでそれ以上のテラフォーミングはまだできていない

TRY-8325も構成大気がほとんどメタンなので窒素や水を多く含んだ小惑星を海洋予定地に落とすのがメイン作業になる。が、それはほぼ終了しているらしいので、本当の調整だけだ

だがそこに魔法や魔法素材を多用した機械が持ち込まれる、微妙な調整には多くの魔法が使われるが、今までは他の魔法で間接的に使われていた。今回はその調整を直接魔法で行うこととなる。

出発して小さくなる地球を見た、青く美しい天体。TRY-8325もこのような姿になるのだろうか?

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