その先の世界
目が覚めると天蓋つきの凄く豪華なベッドだった、体験型情報娯楽や視聴型娯楽なんかで見かける・・・いや、実際にこんなベッドがあること自体に驚くが、私はそこで目覚めた
「おはようございます」
脇のほうから声がして、反射的にそちらを見ると白と黒を基調にしたドレスのような服を着た女性がポットからコーヒーをカップに注いでいた
状況が理解できない、なぜこんな部屋で目覚めたのか?この人は誰なのか?
「ここはどこです?あなたは?」
「ここはアテリアルテラフォーミング社の66階、仮設住居の内装展示室です、私はエリック・バラデュール様の私設メイドでクレマン・バルローと申します」
あぁ、理解できた、私はあの本のわかったことを話してるうちに寝てしまったのだ
「ここにはあなたが?」
「いえ、バラデュール様がお運び致しました、私はそのあとのお世話をさせてもらいました」
言われてふと見るとドレスのような物を着ている。上流階級の人はこんな服を着て寝るのか・・・無防備に寝てしまった私が文句を言えたものでもないが、彼に着替えさせられたのでなければ全く文句の言いようがない。
ん?待てよ、私は彼を(エリック)と呼び捨てにしていたけど、今の状況では彼が私の雇い主でしかも上流階級の人だ。このメイドと名乗るクレマンさんと同じようにバラデュール様と呼ぶべきなのでは?
それも釈然としないが、私はもう社会人なんだ、それ位わきまえてる。しかたない、これからはそう呼ぶとしよう・・・
「バラデュール様はどちらにいらっしゃるのかしら?」
「まもなく出社なさると思いますので、今は屋敷からの移動中かと存じます」
「では、それまでに着替えないといけませんね」
「畏まりました」
そうして彼女は私の服を脱がそうとし始める
いやいやいやいや、私は上流階級に縁もない一般人ですって、自分で着替えますから
その旨を伝えて着替えようとしたのだが・・・これどんな服?脱ぎ方がわからない、無理して破いて弁償なんて勘弁だから。着替えを手伝ってもらった・・・
着替えてやっと平常の行動ができるようになった私は、コーヒーだけ飲んですぐ続きを読むべく移動しようとしたがカードがなかった。このビルではカードがないと恐ろしく行動が制限される。機密保持なんかのために必要なのだろうが、まるで囚人だ。しかたなくそのままそこで待つしかなかった
「やあ、おはよう」
それほど待たされることもなく、彼はやってきた。
「おはようございます、バラデュール様」
ぎょ!っと驚くようにこちらを見て
「いや、今まで通りエリックでいいよ、君にそう呼ばれるとなんかよそよそしい」
「しかし、立場というものもおありでしょう?」
「このフロアにいる限り問題ないよ。それよりお腹空いてるだろ?結局3日3晩何も食べてないんだし」
あ、そうだった、自覚もなかったし本のことしか頭になかったので忘れていたが、思い出した途端お腹が鳴きはじめた。彼が指示して数人のメイドが仕度する、あっという間にダイニングルームが出来上がった
そこに二人で座って食事を始める。さっきコーヒーは飲んだが、長く食事を摂ってなかった人のための食事(半流動食)だったが、彼はそれに付き合い、それを作った料理人の自慢話をしていた。確かに凄くおいしかったのだから、腕の確かな料理人なのだろう
食べ終わって一息ついたところで彼が片手を上げる、メイドたちが一斉にどこかに去り、二人だけになる
「さて、君はどこまで話を覚えているのかな?」
「あの魔法書は改造が容易だと話したことは覚えているわ」
「そのあとの僕の質問は?」
「悪いけど覚えてない」
「だろうね、僕はこう質問したんだ、君には魔法の改造より先が読めたのではないかとね」
そう、読めている。私にはあの書物にある魔法の文節を組み替えて改造するより高度な事が判りかけている。魔法の創造だ。あの洞窟で始祖様に言われた魔法の開発が、恐らくあの魔法書を読み解くことで可能になるだろう。それは魔法のスペルに含まれるニュアンスというものを感じて始めてできることで、始祖様以外の魔法使いには到底叶わぬ事なのだ。
なぜ私にそれができるのか?それはわからない。ただそう感じるとしか言いようがないから。魔法が使えない人が、なぜ魔法使いにそれができるのかわからないように・・・
でも、私はあの洞窟で始祖様に言われた事は誰にも話していない。そう、人類に二人目の魔法開発者になれる素質の話しは誰にも・・・
私は彼に余分な情報を与えないように短く問いただす
「先?」
「そう、たとえば新規魔法の開発・・・とか」
読心?私の考えがわかるのだろうか?危険な感じがする。ここにいてはまずい。
すぐにでも逃げ出したいが、カードがないと・・・それを承知で取り上げた?この場で強力な攻撃魔法を発動させるのも止む無しか?そこまで考えたとき、彼は笑い出した
「いやいや、君が考えてるような事じゃないよ、君たちが地球に来たとき乗った艦に僕らのエージェントがいただけさ、名前はベルトワーズ。聞き覚えないかな?」
ある、いや、でも私は彼女にそんな話はしてない。私はよく艦の窓から外を見ていた、そのときベルトワーズ少尉は必ず付き添っていたけどほとんど話はしていない
「彼女に話はしなかったのかな?だとしたら、君の相棒から聞いたのかもね」
アレックス~~!なに極秘の話をダラダラ垂れ流してるのよ!信じられない!あのときアレックスは叱られた子犬のような顔をしてたけど、今こそあの顔で許しを請うべきよ!!
眉間にしわができないように指で広げる。これがクセになったら慰謝料でも請求してやろうかしら?
「そう、最初からそれが目的だったわけね」
「協力する気はない!とでも言いたいかな?独学でやりたかった?」
彼は手の内を明かした、これから私の説得にくるだろう。そう思ったが、その通りだった
「まあ、気持ちはわからないでもないけどね、僕らは惑星を改造して人が住めるようにしている、魔法の使用理念に反してはいないはずだ。そして科学のチカラではそれに莫大なコストをかけてる。魔法も使っているが、従来の魔法では実に間接的にしか機能していない。もっと効率的に魔法が効果を発揮してくれれば惑星開発も飛躍的に早くなって人々に安住の地を提供できるんじゃないかな?」
理に叶ってはいる、そうすればコストも抑えられてこの会社も利益が上がり万々歳だ
それにいくら理念にかなった魔法であっても、どこにいるのかもわからない始祖様に目的の魔法を開発依頼はできないだろう。確かに私が魔法開発出来るようになればこれは大きな利益になる。35人くらいの魔法使いをクビにしてもおつりのくる・・・いや、魔法によってはそれどころじゃない利益になる
なぜ最初からそう話をしてこなかったか?多分他社より抜き出たかったからだろうと思う
「ずいぶん手の込んだ勧誘ですね」
「そうかい?僕としてはそんな君を見ていたかったというのもあるけどね」
「はい?」
「さて、まだまだ本は読むのだろう?」
かれは楽しそうに私にカードを差し出した。あれはどうゆう意味なのか?私を見て楽しい?
意図がわからない、まだなにか他の目的があるのだろうか?
とりあえずカードを受け取り、再び魔法書の解読を始める
今日は自制が効いた。ちゃんと夕刻がわかったので、一度家に戻ろうと立ち上がった
「今日はそれほど進まなかったようだね」
ソファで横になってた彼が話しかけてきた
「またあんな醜態を晒すわけにもいきませんから」
「あれはあれで嬉しいけどね。まあ自分のペースは乱したくないだろうし、なによりあんな状態がいつまでも続くわけないのは理解できるよ。ところで、ディナーを一緒にどうかな?どうせ家に食料のたぐいはないんだろう?」
・・・実際その通りだけど、なんだか彼に取り込まれそうな恐怖感がある・・・
「今日は遠慮しておきます」
「そうか、じゃあ次に誘う時には受けてくれよ」
「そのとき判断します」
そう言いつつ、帰り仕度を済ませてエレベータのほうに歩き出す
「つれないなぁ、あ、話が変わるけど、僕はいつもここにいるわけじゃないけど魔法書の解読は我が社の君への依頼なのだから」
「そう理解してます」
エレベータに乗り込み、もう一度彼を見ると笑顔でバイバイをしている。ドアが閉まる
それ以降の顔は見えないわけだが、なんらかの方法で見れば彼の本心も多少わかるのかもしれない。
意図が読めない、考えがわからない、目的も恐らく一部しか明かしていない
十分に警戒しておいてやりすぎに思えない。心労の絶えない半年になりそうな予感にため息がでる
家に戻ると電話に留守録が溜まっていた。聞きながら帰り道に買ったお弁当を温めなおす
やはりというか、アレックスからだった。色々聞きたい事があったのだろう、答える気はないけど
しかたない、魔法通話を開く
{こ○□X@ね&ごあ%Σが#△$ぼ☆え◎Я∬ぞ}
{こらこら、整理されてない思念を送るな!}
{なんで@連絡ができ$いんだ?心配Sたぞ!}
{取り乱すな!しかたないでしょう?慣れない仕事でそれどころじゃなかったんだから!}
{どんな仕事なんだよ!}
{守秘義務}
{くっ!変なことされてないだろうな!}
{変な事ってなによ?350年前じゃないんだから、魔法使いに人権がないわけじゃないでしょ?それよりそっちはどうだったの?}
{あぁ、こっちは戻ってきた魔法使いが一人チームに入ってなんとか形にはなってる、相変わらず訓練メインだけど、巡回もさせられるようになってきたよ}
{じゃ一安心ね}
{本当に大丈夫なんだろうな}
{あんたは親か?まあ、魔法を連発なんて職場じゃないから問題はないわ}
{そか、これからもマメに連絡しろよ!}
{はいはい、了解}
本当ならここでアレックスがおしゃべりしたために今の状況になっている事に文句でも言いたいが、今は伏せておこう、アレックスじゃ会社に怒鳴り込みかねない。まだ次の行動が起こせるほど状況の把握ができてないのだから




