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第三話 「好奇心」

彼女は恥ずかしそうに全身を画面に晒した。


当然足はある。ほっそりとした、でも引き締まった生足に、俺は危うく、声を出して唸る所だった。



「も・・・もういい?足、ちゃんとあるでしょ?」


「あ、ああ、そうだな。でも、もしかしたら君はアニメーションかもしれない。体に厚みがあるか一回転してもらえないかな?出来るだけ速く。」



俺は大胆すぎた。


口調もどこかエロいおっさん口調になってきていた。


こんな下心丸出し発言、このままだと警察からも逃げ回る事になるかもしれない。いっそ自首してしまうか?

少しだけ後悔の念が強くなった。


彼女は笑い出した。



「何それ、そんな訳ないよ。何の遊び?エル君て面白いんだね。」



満面の笑みで答える彼女に俺は今まで感じた事のない胸の内の寂しさを感じた。彼女は人との関わりに楽しみを見出そうとしている。

初対面の俺にはこんなにフレンドリーに接する人をなんていなかった。

正直凄いと思った。一方、回転による遠心力でミニスカートが浮かび上がり下着を拝めるのではという薄汚れた心でしか楽しみを見出せない俺。


人間としての差を感じながらも俺の内面から一つの疑問が生まれた。


俺はエミルのように心から楽しんだ事はあるのだろうか。


どこか物事を斜めで見てしまい、周りの意見を聞かず、ただひたすらに自分の感覚が一番正しいと信じ込み、表現をしてきた。


それを楽しいと思った事は微塵もなかったし、それでうまくいった事など一度もなかった。


いつからそうなってしまったのだろう。少なくとも中学くらいまではそんな自分でも楽しんでいる事は山のようにあった。


俺は彼女を羨ましいと思った。

素直でまっすぐで見ているだけで魅了されてしまう彼女を。


きっとまだまだ自分の知らない魅力を山程持っていて、自分とは全く違う世界で生きてきたんだ。もし現実に会えたとしても彼女の傍にいて良い存在ではない。


この非現実的な空間から俺は急に現実に引き戻された気がした。


自分で思い描いたヒロインを勝手に好きになり、勝手に落ち込み、うな垂れる。


自分の空想ですら自分は救われないのか。俺はエミルが現れる前よりもっと惨めになった気がした。



「なんか沢山笑ったら安心して眠くなってきちゃった・・・。」



眠そうに目をこするエミル。おいおい、こんな朝早くに起こされて眠いのは俺の方だ。


最初はあまりの驚きで興奮し続けていた俺だが、少し落ち着いてきてからは眠くなってきていた。


少しマイペースなところも俺の好みど真ん中だ。



「そうだな。俺も眠いし、少し横になるとするか。」



「うん、ありがとう。今日はエル君に会えて凄く楽しかったし嬉しかったよ。ありがとね、バイバイ。」



こんなに別れというものが辛く切ないとは。俺はベッドに倒れ込みながらも眠るまでずっと画面を見つめていた。



俺は長い時間眠ってしまった。


少し横になるだけのはずが、10時間くらいは眠っていた。


あれだけ良い夢が見られたんだ。

当然だろう。眠りの深さも相当なものだった。


ほんの一瞬寝ただけのような感じがしたが、起きた時にはもう空は真っ赤に染まっていた。


折角の貴重な休みを台無しにしてしまったと嘆きながらも俺の手帳は今月ずっと真っ白だった。


それにしてもあの時の夢のリアルで心地良かった事と言ったら・・・。


何とかあの夢の続きを見れないだろうか。夢なんだから無理だろうと思った。

昨日書いた「エミル」は良い気分転換になったし、次の投稿へ向けて、またアイデアを練ろうと決意する。

「エミル」はあくまで趣味用だ。

時間がある時に設定以外のストーリーも書こうと考えながら他の創作へ意欲を燃やしていった。



あれから2日が経った。あの時の夢・・・時間が経てば経つ程エミルの事が頭から離れず、会いたい気持ちが日増しに強くなっていった。


夢だったはずなのに、そうとは思えない。

夢でもいい。エミルにもう一度会いたい。

俺は会うための方法を模索し始めた。


俺は色々な方法を試してみた。枕を変えてみたりネットで夢でエミルに会う方法を調べたり、新聞や週刊誌などを調べたり大学のサークル仲間にも最近パソコンで不具合がなかったかなど、考えうる事は全て試した。



そこまでしても該当する内容にはまったく辿り着かなかった。


エミルは今どこにいるのだろうか。

まだあの暗い空間の中にいて、一人寂しく過ごしているのだろうか。見ず知らずの女の子を心配するなんて、俺もついに頭が電波色に染まったな、と誇りに思いながら自宅へと向かった。


自宅に着いてから俺は「エミル」の設定を見返しながらある事を考えた。

せめてこの作品の中では明るく楽しい環境で幸せに暮らすエミルを題材に一本書き上げよう、と。


序章まで書き終えると俺は夕食を作った。

少ない仕送りだけで生活する俺には外食など夢のまた夢だ。

定番のもやしどっさり野菜炒めを持ってテーブルに向かう。


そして、俺は作りたての野菜炒めを床にばらまいていた。


画面に映る少女の嬉しそうな笑顔をただひたすらに見つめていた。


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