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生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――  作者: 私市よしみ
第十章 生徒会の「活動」昭和五十九年度・二学期
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受け継がれるもの

「やっと涼しくなってきたなぁ……」


 十月に入って、季節もまた一歩進んだようだ。

 今朝、僕はいつもの通学路を学校へ向かっていると、後ろから肩をたたかれる。いつものたたかれ感だ。


「うーっす! トモっ!」

「あっ……会長、おはようございます」

「トモっ! 会長はおまえだろっ!」

「あっ……そうでしたね……会長」

「だーかーらー、おまえが会長だってーの!」


 そう……僕は生徒会長になったのだが、未だに実感が沸かないどころか、「元」会長の小夜子会長……じゃなかった、小夜子先輩のことを「会長」と呼んでしまう。


「えーと……小夜子先輩……って呼べばいいのかな……」

「トモ、あたしのことは呼び捨てでいいって……小夜子って」

「呼び捨てって……さすがに年上に呼び捨てなんてできないですよぉ……会長ぉ~……」

「だからー、会長はおまえだって! まったく……しっかりしろよっ!」

「すっ……すいません……会長……」

「だからー、おまえが会長だって!」


 そんなやりとりをしている間、僕と小夜子会長……もとい、小夜子先輩はいつの間にか校門の前に着いていた。


「ここをくぐるのもあと半年ないんだよなぁ……」


 小夜子先輩が寂しげな表情で呟く。ここ最近、彼女は急に「卒業」ということを意識し始めた。来年の三月……まだまだ先のようだが、彼女にとってはもっと長く高校生活を送りたい気持ちなのだろう。



「おはよーございますー」


 僕と小夜子先輩はいつものように生徒会室に入る。


「さよちん、トモくん、おはよう」

「さよっち、トモっち、おはよー」

「小夜子先輩、トモ先輩、おはようございます」


 生徒会室の中には、すでに優子ちゃん、さっちゅん先輩、由加里ちゃんが先に来ていた。


「さよちんとトモくん、今日は遅かったわね」


 優子ちゃんは紅茶を淹れながら、いつもの笑顔で訊いてくる。いつもは小夜子先輩がいちばん最初に生徒会室に入るから、何故という感じだったのだろう。それでも、一般生徒よりは一時間も早く学校に着いている。それは生徒会への義務感とかそういうのではなく、僕も含め、みんな生徒会の仲間たちと一緒にいたいということなのだろうか……


「まったく……今朝はトモがちんたらしてるからよー、あたしは生徒会室に一番乗りできなかったよ」

「ええっ? 僕そんなにちんたらしてましたかぁ? 会長こそ話してて歩くの遅かったじゃないですかぁ……」

「トモっ! 会長はおまえだって!」

「あっ……すみません……」


 また僕は小夜子先輩のことを「会長」と言ってしまった。まあ、癖になってしまっているのだが……今は僕が生徒会長なのだから早いところこの癖も直さないと。


 僕が生徒会室の丸テーブルのいつもの席に座ろうとすると、


「おいトモっ! おまえの席は今日からここだ!」


 小夜子先輩に言われたその席は、今まで生徒会長だった彼女がずっと座っていた場所だ。僕が七高に入学して生徒会室に拉致られたときからずっと、生徒会長だった小夜子先輩が使っていた場所……そんな大切であろう場所を今日からは僕が使うことになるようだ。


「小夜子先輩……僕……そこに座って……本当にいいんですかぁ?」

「バーカ、そこは生徒会長の席だからおまえが座って当然だろ?」


 小夜子先輩はやれやれといった感じで僕に言い放つ。


「それじゃ……僕……ここに座りますよ」

「いちいちうっさいなー、トモは……早くそこに座れよ」


 小夜子先輩に促されるように、僕は遂に『生徒会長』の席に座る。


「みんなー、お茶にしましょ」


 優子ちゃんがいつものように紅茶を淹れてくれる。


「はい、お茶がはいりましたよ、生徒会長」


 そう言って、優子ちゃんはいつもの笑顔で僕の前に紅茶のカップを置く。


「あっ……ありがと……優子ちゃん……」

「どうもいたしまして、生徒会長」

「ゆっ……優子ちゃん……その『生徒会長』っての……やめてよぉ……」

「えー? どうしてですかー? 津島友樹生徒会長」

「優子ちゃん、わざと言ってるでしょ? 僕がそういうの恥ずかしがること知ってて……」


 僕は顔が熱くなっているのを感じる。おそらく耳の先まで真っ赤になっているのだろう……


「トモっち生徒会長ーっ」

「トモ生徒会長」


 さっちゅん先輩と由加里ちゃんまでもが僕を『生徒会長』とわざとらしく呼ぶ。


「もう……みんなぁ……僕をからかわないでくださいよぉー……」

「まったく……トモは生徒会長の自覚ゼロだなぁ」


 小夜子先輩は僕の様子を見てすっかり呆れかえっているようだ。


「しゃーない、これをトモに引き継いで生徒会長としての自覚を持ってもらうか」


 小夜子先輩が丸テーブルの僕の席の前に何かを差し出す。


「これって……」


 僕の目の前には三つの物体が並べられた。どれも今まで生徒会長だった小夜子先輩がずっと肌身離さず持っていたものだ。それらが突然、僕の目の前に並べられた。


「生徒会長の三種の神器だ!」

「三種の……神器? えーと……テレビに冷蔵庫に電気釜じゃなくって?」

「トモ、おまえいつの時代だよそれは……まあいい、生徒会長の承認スタンプ、手提げ金庫の鍵、そして生徒会室の扉の電磁ロックのリモコン……今日からおまえが持ってろ」

「えっ……僕が……?」

「そうだ!」


 小夜子先輩は僕の肩に手を当て、窓の彼方を見つめている。その表情はどこか寂しげだけど、何かが吹っ切れた感じだ。


「あのー……ほかの二つはともかく、この電磁ロックって……必要なんですか?」


 僕は小夜子先輩にあえて訊いてみる。僕や由加里ちゃんが生徒会室から逃げようとしたときに使われたアレだ。普通に考えたらこんな物騒なものは果たして必要なのかと、僕は理解に苦しむ。


「必要だろ? 今度はおまえが生徒会やる奴を拉致る番だからなっ!」

「ぼっ……僕は拉致ったりとかはしませんよぉー……まあ、説得とかはしてみますが……」

「まったく……それじゃ人集まらないぞ。生徒会役員なんてよっぽどの物好きじゃないとやりたがらないし……でも、やり始めると楽しいんだけどな」

「僕もそうでしたね。小夜子先輩の言う通り、今では生徒会が楽しくて」

「だろ?」


 窓の外を見ていた小夜子先輩は、振り返りガッツポーズで僕をじっと見つめる。


「そうだ優子、トモにあれを渡してやれ」

「わかったわ、さよちん」


 『あれ』って何だろう……僕がそう思っていると、優子ちゃんが何か賞状のようなものを広げはじめた。


「トモくん、生徒会長の委嘱状だよ。わたしたちみんなでつくったの」


 僕の目の前には、生徒会役員みんなの字で書かれた委嘱状が広げられた。それぞれの行が、バラバラだけど生徒会の仲間の思いが詰まった文字……


「んじゃ、委嘱状の授与式でもやるかー」


 僕はみんなに促されるように、小夜子先輩の正面に立たされる。その周囲を、優子ちゃん、さっちゅん先輩、由加里ちゃんが取り囲む。


「県立第七高等学校二年三組、津島友樹、右の者を昭和五十九年度生徒会長に任ずる」


 僕に委嘱状が手渡される。


「パチパチパチパチ……」


 みんな一斉に拍手をしてくれた。


「トモ、あたしの後を頼んだぞ」


 小夜子先輩が僕をじっと見つめる。


「わかりました、元会長」

「おう、期待してるぞ!」



 昭和五十九年十月、僕の生徒会長としての日々が始まる。

 ついにトモくんに正式に生徒会長が引き継がれました。強気でアクティブな小夜子元会長に比べて、真面目だけどおとなしくて気弱な彼が生徒会長で果たして大丈夫なのだろうと……

 というわけで、もうちょっと続きます。次回、いよいよ最終回?

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