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生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――  作者: 私市よしみ
第十章 生徒会の「活動」昭和五十九年度・二学期
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生徒会の階段

「失礼しましたー」


 僕と小夜子会長は職員室を後にする。

 夏休みも終わり、そして早くも二学期が始まった。九月になったと言えど、まだまだ暑い日々が続いていた。


 生徒会の役員というのは、なんだかんだで職員室に用事が多い。そして、大量の書類を生徒会室と職員室の間を運ぶことも多いのだが……そんなときに活躍するのが生徒会役員でただひとりの男子である僕……ではなくて、手押しの『台車』だ。もっとも、その台車を押すのは僕の役目なのだが……生徒会室と職員室は同じ階なので、この台車は何かと重宝する。


「トモーっ、押してくれー」


 小夜子会長が台車の上にちょこんと座っている。普通の女子より小柄な彼女は、台車の上にあつらえたようにぴったりと収まっていた。


「はいはい、わかりました」


 台車に荷物がないときは、いつも小夜子会長が台車の上に乗る。そして乗ったまま生徒会室まで戻るというのがお約束になっている。


「会長、じゃあ行きますよ」


 僕は小夜子会長が乗った台車をゴロゴロと押し始める。


「あー、楽ちん楽ちん」


 台車の上の小夜子会長は満足げだ。廊下を歩いている他の生徒からは、また生徒会の奴らがおかしなことやってるよ……といった感じで見ているのもいつもの光景だ。


「トモっ、なんか歌え」

「何ですか、いきなり……」

「あたしは車乗ってるんだ、だからカーステレオ必要だろ?」

「まったく……会長ぉ~……僕はカーステレオですか……」

「おまえの好きなクロスオーバーなんとかやソウルなんとかトレインでも歌え」


 相も変わらず小夜子会長は強引だ。でもそんな強引な彼女だからこそ、七高の生徒会を引っ張ってこられたのだろう。


「トモ、もっとスピード上げろ!」

「わかりましたよ会長!」


 僕は小夜子会長を乗せた台車を思いっきり押す。いつの間にか生徒会室の前を通り過ぎていたが、僕は構わず台車を押しまくる。


「行けーっ! このまま屋上へ直行だーっ!」


 小夜子会長のテンションが高まる。

 しかし……廊下の行き着く先には『階段』が立ち塞がっていた。いつもの小夜子会長の調子ならこのまま台車を担いででも屋上に行けとか言いそうだが、今日は何かが違う……


「トモ……ここで終わりか……」


 小夜子会長が寂しげな表情になっている。


「会長……どうしたんですか?」

「トモ……あたしの高校生活も……あと半年で終わっちゃうんだよな……」

「そりゃ、卒業ですからね……」


 ふと、僕が小夜子会長の顔を見ると、うっすらと涙を浮かべていた。


「トモ……あたし……卒業……したくないよ……いつまでも……ずっとずっとこのまま生徒会のみんなとバカやっていたいよぉ……」


 床に大粒の涙がひとつ、またひとつと落ちる。


「トモ……あたし……わがまま……なのかな……」


 そう言って彼女は僕の胸に飛び込んできた。


「会長……」


 周囲の目もはばからず、小夜子会長は僕の胸の中で泣き崩れていた。


「僕も……会長やみんなと……いつまでも……いつまでも一緒に生徒会やっていたいですよ」


 僕は大泣きする彼女の頭を撫でながら、そう言うのが精一杯だった。

 ――『卒業』……学校に通う者にとっては必ず訪れるもの……しかし、それは『別れ』でもあるのも事実だ。

 僕もいずれはこの学校を卒業するのだが、そんなこと考えてもみなかった。そして、僕もずっと永遠に七高の生徒ではいられないこと……

 気が付くと、僕も涙を流していた。


「トモ……おまえ何泣いてるんだよ……」

「会長こそ……」

「あっ……あたしはいいんだっ! 女の子だからさ」

「女の子は僕を上履きや洗面器で叩いたりしませんよ」

「うっさいなー、おまえがいっつも頼りないからだ!」

「そっ……そんなぁー……」

「そういう情けない声だすからだっ!」


 どうやら、いつもの小夜子会長に戻ったようだ。やっぱりこうでないと。


「トモ……生徒会室に帰るか……」

「そうですね」


 僕と小夜子会長は生徒会室に戻ることとする。二人で台車を押しながら……



「ただいまー」

「さよちん、トモくん、遅かったわね。紅茶入ってますよ」


 優子ちゃんがいつもの笑顔で迎えてくれる。


「いやぁ-、トモはまだまだ頼りなくてさ、荷物運びも手間取ってさ……こいつ生徒会長にして大丈夫かぁ?」

「えっ? 僕……生徒会長って……なんなんですかぁ?」


 小夜子会長の何気ない一言の意味がわからず、僕は慌ててしまう。


「バーカ、あたしの任期は九月いっぱいだ! 十月からはトモが会長やるんだよ!」

「ぼっ……僕が生徒会長なんて無理ですよぉ……」

「うっさい! あたしらみんなで決めたんだからおまえが次期生徒会長だっ!」


 小夜子会長にいきなりビシっと指を差される。


「でも、生徒会長って……一般的な学校では選挙で決めるんですよねぇ?」

「選挙? んなもんもう終わってるぞ」


 僕はまだ状況が飲み込めていないでいる。


「ウチの学校は生徒会役員みんなで生徒会長を選ぶって、生徒会規則にも書いてあるだろ」

「みんなでって……僕は何もしてないし生徒会長やるとも言ってないし……」

「おまえ以外は全員が次の会長はトモがいいって言ってるんだ! おまえそれを無駄にする気かぁ?」

「僕はてっきり優子ちゃんが次の会長かと思ってたのに~……」


 そう、僕はてっきり大会社のお嬢様で物腰柔らかで、おそらく全校生徒の支持も集まるであろう優子ちゃんが時期生徒会長だと予想……と言うより、勝手に想像していただけに、意外というか、寝耳に水といった感じだ。


「トモくん……わたしはトモくんならきっといい生徒会長になれると思うんだけどね。誰にも優しいし、思いやりもあるし……」


 優子ちゃんがお茶を淹れながら、いつもの笑顔で僕に言う。


「あたいもトモっちが生徒会長だったら、学校のみんなが幸せになれると思うけどね……」


 さっちゅん先輩も、僕を生徒会長にする気満々だ。


「トモ先輩なら生徒の気持ちになった生徒会つくれると思うんですよ、私も……」


 由加里ちゃんまで……


「みんなぁ……僕をかいかぶりすぎだよぉー……僕なんかでいいんですかぁ~?」

「トモっ! 僕なんかって……おまえいっつもそうやって控えめというか、自信なさげというか……まあ、そういう控えめなとこがおまえのいいとこなんだけどな」

「でも……僕にはちょっと会長職は重荷過ぎると言うか……」

「大丈夫だ、生徒会はおまえひとりじゃないだろ? 優子だってゆかりんだっているだろ?」


 小夜子会長がそう言うと、


「トモくん、わたしも全力でトモくんのお手伝いするわよ」

「トモ先輩、私に出来ることなら何でもしますよ」


 優子ちゃんと由加里ちゃんから心強い言葉を貰えた。そう……僕はひとりじゃないんだ。なんだかんだで、ウチの生徒会って絆は強いんだなぁと……


「なぁに、もし生徒会役員足らなくなったら、トモみたいに暇そうな奴拉致ってくりゃいいだろ? ウチの学校は生徒会役員なら大学の推薦も貰えるから、それを餌にしてさ」

「会長っ、拉致はまずいでしょ、拉致は……」

「まあ、普通の生徒はトモみたいにトロくさくないもんなぁ?」


 何気に小夜子会長はなんか恐ろしいことを言い放つ。まあ、彼女の強引だけど行動力は誰でも認めるところだ。


「でも……会長やさっちゅん先輩がいなくなってしまうと、生徒会もなんだか寂しくなってしまいそうですよ……」


 僕がなんとなく呟く。すると、


「トモっ! おまえっ! ずっとあたしにいじられ続けたいのかぁ? おまえもしかしたらMかぁ?」

「かっ……会長っ、僕はそんなことないですよぉー……」

「それにだな、あたしとさっちゅんは名誉役員として卒業まで生徒会室に居座り続けるから覚悟しておけ!」

「そっ……そんなに僕って頼りないですかぁ?」


 みんなが一斉に笑い出す。そして、僕も笑顔になっている。いつもの生徒会室だ。



 昭和五十九年九月……僕、津島友樹は県立第七高校の次期生徒会長に決まってしまったようです。

 ……というわけで、物語も終盤に差し掛かってきました。

 そしていよいよ七高の生徒会も世代交代の時を迎えるようです。

 しかしまあ、自分で書いていても何ですが、主人公のトモくんはなんだかんだで成長しているのかなと……入学当初のままだったら、まず生徒会長になることはなかっただろうし。

 さすが、女の子軍団に鍛えられたこともあるのでしょうね。

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