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生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――  作者: 私市よしみ
第九章 生徒会の夏合宿 昭和五十九年度
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浴衣であ・そ・ぼ

「はぁ……いい風呂だなぁ……」


 僕たち生徒会の面々は、九州のとあるホテルの大浴場でくつろいでいた。もちろん、僕は男湯で、僕以外の女子たちは女湯なのは当然のことだが……


 さすがに日中をほとんど新幹線での移動に費やしたこともあって、僕たはすっかり疲労していた。まあ、飛行機よりは広いと言え、三人がけの椅子を向かい合わせにした状態で六時間近くも過ごしたのだから無理もない。


「トモーっ、あたしらそろそろ上がるからな!」


 壁を隔てた『女湯』から、小夜子会長の大きな声が響き渡る。


「かっ……会長っ……声大きいですよぉ……わかりましたから……」


 とりあえず、僕は浴場を後にして脱衣所でホテル備え付けの浴衣を着ることにする。そして『男湯』の暖簾をくぐり廊下に出ると、そこには女子たちみんなが待っていた。しかし、その彼女たちが着ている浴衣が問題だった。


「トモっち見て見てーっ! ほらっ、あたいの浴衣はミニの浴衣だよー」

「さっ……さっちゅん先輩っ! 何やってるんですかぁ? なんで子供用サイズの浴衣なんか着てるんですかぁ……?」


「いやぁ……間違えて持ってきたんだけど、なんかかわいいかなと思ってさ」

「あの……さっちゅん先輩……その……あんまり動くと……その……見えちゃうんですが……」


 ただでさえ普通の女の子より背の高いさっちゅん先輩が、子供用の浴衣を着ているとなると違和感どころか、ぴっちりぱつぱつになった浴衣の裾から脚の太ももがあらわになってしまっっている。そして、その中にある『下に履いているおそらく白いもの』が見えてしまいそう……と言うか、すでにチラチラと見えてしまっている。

 そして僕の後ろから優子ちゃんの声が……


「トモくん……わたしも浴衣間違えちゃって……」

「ゆっ……優子ちゃんまでー……」


 優子ちゃんの場合、太ももがあらわになっていることもあるが、更にもっと別の問題が……胸のあたりがかなり『凄い』ことになってしまっている。何と言うか……ただでさえ世間一般の高校生より豊満な胸の持ち主の女の子なのだが、そんな優子ちゃんが子供用サイズの浴衣を着たもんだから……浴衣の帯の上に『大きめの胸』が乗っかっているような状態……これはあまり動くと大変なことになってしまいそうだ……と言うか、すでに『大変なこと』になってしまっている。


「ゆゆゆっ……優子ちゃんっ! ちょっと……ちょっと待って……その……あまり動いたら……」

「えっ? トモくん、どうして動いちゃいけないの?」

「そっ……その……胸っ!」


 僕は優子ちゃんから慌てて目をそらす。


「あっ……トモくん……その……」


 優子ちゃんもようやく自分の状況に気が付いたようだ。

 まったく……さっきから僕はドキドキしっぱなしだ。やっとのことでホテルに着いても、ゆっくり落ち着くことすらできない。


「トモ先輩ー、私も着てみましたー」


 由加里ちゃんまで子供サイズの浴衣を着ているが、小柄な彼女だと普通よりちょっと丈が短い程度であまり違和感がなかった。果たして僕は彼女にどうコメントしていいやら……


「トモ先輩ーっ! なんか私には反応薄いーっ!」

「ゆっ……由加里ちゃん……そんなこと言われても……」


 しかしまあ、も春に生徒会に入ったばかりの頃の、カチカチに固かった由加里ちゃんと比べたら、ずいぶんとウチの生徒会のノリに染まってしまったなぁと……まあ、僕も最初はそうだったけど。まあ、何にしろ由加里ちゃんが笑顔でいるのは僕も嬉しい。


「おいっ! トモっ! あたしの浴衣姿はどうなんだよ?」


 小夜子会長も子供サイズの浴衣のようだが……彼女の場合は全くと言ってもいいくらい違和感がないどころか、まさに小夜子会長のためにあつらえたかのようにジャストフィットと言った感じだ。


「会長、似合ってますよ。サイズもピッタリじゃないですかー」


 僕がそう言ったとたん、


「うっさい! うっさい! うっさい! サイズがピッタリで悪かったなぁ」


 そう言いながら、小夜子会長が履いていたスリッパが僕の頭を直撃する。


「痛いっ! 痛いですよぉ……やめてっ!」

「まったく、男のくせにこれくらいで痛がるとは情けないなぁ」

「だってー……誰だって叩かれると痛いんですよぉ……」


 どうも小夜子会長にとっては、服のサイズとかそのあたりに触れることはタブーなようだ。彼女は彼女なりに自分の身長にコンプレックスみたいなものを持っているようだろうし……


「もういいっ! みんな部屋に帰るぞ!」


 小夜子会長が言うと、


「どうしよう……わたし……歩いたら浴衣がはだけて胸が……」


 優子ちゃんがちょっと顔を赤らめて呟く。確かに今の優子ちゃんの状況だと、歩いているうちに浴衣の胸の部分がはだけて、それこそ『大変』なことになってしまう。


「トモくん……お願い……わたしの前に立って」


 優子ちゃんが僕の後ろに立ち、僕の背中に浴衣越しにふくよかな胸を押しつけてくる。


「トモくんにこうしてくっついていれば、胸も隠れて部屋までなんとかなるかな……」


 そう言うと、優子ちゃんが更に胸を押しつけてくる。どうしよう……どうしよう……どうしよう……


「あっ……あのっ……ゆっ……優子ちゃん……そのっ……当たってるんだけど……」

「トモくん……その……ごめんね……」


 さすがに優子ちゃんも意識してしまっているようだ。しかし、僕も意識しているどころか、もう心臓が破裂寸前なくらいにドキドキしている。


「おい! おまえら、さっさと部屋行くぞ!」


 小夜子会長が先頭を切ってズカズカと歩く後に、僕と優子ちゃんがピッタリとくっついた状態でソロソロと歩く。僕のドキドキはより一層激しくなって、そしておそらく顔や耳の先までも真っ赤になっているだろう。


「トモくん……ごめんね……」

「優子ちゃんは悪くないよ……僕で役に立てれば……」


 僕は背中に優子ちゃんのふくやかなモノを感じながらも慎重に歩く。ホテルの廊下ですれ違う人は、僕たちを奇異の目で見ている。まあ高校生の男子と女子がお互い体をくっつけて歩いてるのだから……


「あははははーっ! ミニの浴衣ってのもなんかいいなー」


 僕と優子ちゃんの『なんだか恥ずかしい状況』をよそに、さっちゅん先輩は嬉しそうにはしゃいでいる。あんまり動くと……その……見えちゃうんですが……



「よっしゃー、着いたぞー」


 小夜子会長が今晩泊まる部屋に真っ先に乗り込む。さっちゅん先輩と由加里ちゃん、そして遅れて僕と優子ちゃんがようやくたどり着く。


「やっと着いた……」


 僕も優子ちゃんも、とりあえず安堵の表情になる。とりあえず、優子ちゃんの胸は僕が誰にも見られないようなんとか守り通した。


「で……また僕は……女子と一緒の部屋なのね……」

「いいじゃねーかよー、去年と変わらないんだし」


 小夜子会長は当たり前のように僕に言い放つ。僕はまださっきのドキドキが止まっていないのに……まだまだドキドキしなければならないようだ。


「それじゃ、僕は去年と同じく衝立で囲んで寝ますから」


 とは言ったものの、この部屋をよく見渡すと衝立や間仕切りに使えそうな物がない。


「会長っ、この部屋……間仕切りに使えそうな物とかないんですけど……僕はどうすれば……」

「なんだトモ、別に普通にあたしらと一緒に布団並べて寝ればいいじゃないか。去年なんかいつの間にかみんなのど真ん中に潜り込んできたしな」


「トモ先輩っ! 何なんですかそれって!」


 事情をしらない由加里ちゃんが僕が罪人かのごとく睨み付ける。


「由加里ちゃん……それはね、去年の生徒会の合宿でね、会長の策略で僕が寝ている間さっちゅん先輩が僕を抱きかかえてみんなの布団の真ん中に寝かせたわけで……僕は何もしてないんだよぉ……」

「ほんとですかー?」

「ほんとだよぉ……僕の言うこと、信じて……くれるよね?」


 由加里ちゃんが僕のことを軽蔑するかのような目で見つめる。


「ゆかりん、大丈夫だよ。コイツは自分からは何もしてこない臆病で人畜無害な奴だからさ」

「それもそうですね……まあトモ先輩って自分からはまず動かない人ですからねぇ~」


 臆病で人畜無害……で、自分から動かない……確かに……そうかもしれないけど……男子としてはちょっと情けないと言うか……そもそも彼女たちは僕のこと『男子』ということをあまり意識してないのも事実だが……


「んじゃ、寝る場所はジャンケンで決めるからな、最初はグー……」



「……で、どうして僕の布団の場所はここなんですかぁ?」

「うっさい! ジャンケンで勝った順に場所決めたんだから文句ねーだろ?」

「かっ……会長……確かにそうかもしれないけど……」


 僕の寝るべき布団は、右を優子ちゃん、左にさっちゅん先輩、そして頭の脇には小夜子会長、足下には由加里ちゃん……四方を見事に女子に囲まれてしまって逃げ場すらない状態だ。


「本当にこの状態で寝るんですか?」

「トモっ! 決まったことは守るのが生徒会ってもんだろ?」


 小夜子会長にバッサリと言われてしまった。


「さてと、そろそろみんな寝るとするか」


 小夜子会長がそう言って部屋の照明を消す。

 気が付くともう夜も十時過ぎ……明日のことも考えるとそろそろ寝た方がいいのだが……僕の布団の周りは完全に女の子に固められてしまっている。


 ……どうしよう……これじゃとても眠れそうにないよぉ……


 右を向いたら優子ちゃんは早くも眠りに入っていたのだが……例の子供サイズの浴衣を着たままで胸のあたりが無防備なままだ。

 僕は優子ちゃんをとても直視できないので左を向いたら、こっちにはさっちゅん先輩が……しかも彼女も子供サイズの浴衣のままで、そしてめくれ上がった掛け布団からは、脚というか太ももと言うか……そして『下に履いているおそらく白いもの』までが見えてしまっている。こっちも僕は直視できない……どうしよう……僕はどうすればいいんだ……

 頭の脇には小夜子会長がくーくーと寝息を立てているし、足下には由加里ちゃんがすやすやと静かに眠りについている。四面楚歌……今の僕はまさにそんな状態だ。こんな状態で寝ろという方が無理な話だ。


 ……どうしようどうしようどうしよう……そう思いながらも僕の意識はだんだんと遠のく。



「……ぉきろよ……起きろ! バカトモっ!」


 かすかに小夜子会長の声が聞こえる。僕は……いつの間にか眠りについていたようだ。


「あっ……おはようございます……」


 僕は四人の女の子に囲まれたまま寝てしまったようだ。そして、僕は四人の女の子の笑顔の中にいる。


「まったくー、トモって普段はおとなしいのに夜になると大胆でさ-」


 小夜子会長がなんだか不吉なことを言い放つ。


「えっ? 僕……会長に何かしましたかぁ?」

「そりゃもう、凄いのなんのって」

「ぼぼぼ、僕は何もしてませんよぉ……本当に……絶対に……」

「本当かぁ?」


 僕には全く身に覚えのないことだ。とりあえず今は否定するしかない。


「えーっ? 僕……何かしたんですかぁ? みんなも何か知ってたら教えてくださいよぉ……」


 しかし、優子ちゃんも、さっちゅん先輩も、由加里ちゃんも……誰も答えてくれない。しばらく微妙な沈黙が続く。

 やっぱり僕……女の子の誰かに何かしたのか……不安な気持ちになっている中、小夜子会長が突然高らかに笑い出した。


「あはははははっ! 嘘だって! おまえ本当にこういうの引っかかりやすいよなぁ」


 また僕は小夜子会長にはめられたようだ。去年に続き今年も……


「ひどいですよ会長ぉ~……」

「でも、そういう純粋なとこがトモのいいとこなんだよな」


 小夜子会長は僕のことを褒めているのか、それともけなしているのか……ともあれ、僕はどうやら無罪放免なようだ。


「しかしまあ、トモ先輩は本当になーんにもしてこないんですよね。女の子四人に囲まれているというのにね」


 由加里ちゃんが呆れたような感じで言う中、僕はどんでもないことに気付いてしまった。彼女たちの浴衣が寝ているときにはだけてしまって……いわゆる『肌色成分』がとても多いことになってしまっていた。特に、優子ちゃんとさっちゅん先輩は……肌色の他に身に付けている『下に着ける白いもの』が見えてしまっている。この状況……僕は彼女たちに伝えるべきか……でも、下手に言ってしまうと、僕が彼女たちの浴衣から覗く『肌色成分』を見ていたと誤解されかねない。とりあえず、僕は今すぐここから逃げたい。


「さてと、そろそろ着替えるか」


 小夜子会長がそう言ったことで、僕はほっとした……と思ったのも束の間、彼女たちが僕の目の前で着替え始めたのだ。


「ちょ……ちょっと待ってよ! 僕ここにいるんですから」


 僕が慌てると


「何だ、トモも早く着替えろよ」


 小夜子会長の素っ気ない返事。


「そういえばトモくん男の子だったね」


 優子ちゃん……僕を男子として認識してなかったのか……


「トモっち-、細かいことは気にしない気にしない」


 さっちゅん先輩も随分とアバウトだ。


「トモ先輩だったら見られても別にかまわないかな」


 由加里ちゃんまでなんだか素っ気ないと言うか……

 僕は彼女たちにからかわれているのか、それとも信頼されているのか……どうもよくわからない。しかしまあ、嫌われているわけではないことは確かなようだ。


「トモっ!」

「トモくん」

「トモっち」

「トモ先輩」


 九州の地でも、僕はいつものように彼女たちに振り回されるようだ。



 昭和五十九年八月……高校生になって二度目の夏が終わろうとしている。

 お待たせしました、今回は夏合宿のハーレム話です。浴衣です。

 いつもハーレム話ですって? まあ、そうなんですが……

 どうぞ、主人公クンになったつもりで楽しんでください。

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