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生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――  作者: 私市よしみ
第八章 生徒会の「活動」昭和五十九年度・一学期
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晒される日

「なんだってー! トモに妹いるのかっ!」

 小夜子会長が驚いたように僕に言う。


「あれっ? 会長、僕言ってませんでしたっけ?」


「なんだよそれ、初耳だぞ! だいたい前にトモの家に行ったときには妹なんかいなかったじゃないかー!」


 僕が何気なく言った一言で、生徒会室の中がざわつき始めた。


「トモくん、妹さんいるの?」

 優子ちゃんがまじまじと僕を見つめながら言う。


「トモっちの妹かー……どんな子かなぁ」

 さっちゅん先輩も僕の妹に興味津々なようだ。


「トモ先輩、もしかして妹さんからは『お兄ちゃん』とか呼ばれているとか?」

 由加里ちゃんまでもが僕の妹に興味があるようだ。なんか面倒なことになってきた。


「だいたい、トモみたいな甘ったれは一人っ子って相場が決まってるんだけどなぁ……」

「会長ぉ~……僕、そんなに甘ったれてますかぁ~?」

「おまえのそういうとこが甘ったれてるんだよっ!」

 僕は小夜子会長に一喝されてしまった。まあ、いつものことだが……


「それじゃ、今日はこれからトモの家にいくぞー!」

 小夜子会長がいきなり言い出す。もう僕の妹のことが気になって仕方がないようだ。


「かっ……会長ぉ~……ちょっといきなり過ぎますよぉ……僕にも美樹子にも都合ってもんがあるんですからぁ……」


「へぇー、トモの妹は美樹子って言うんだ」

 どうやら僕は墓穴を掘ってしまったようだ。


「しかしまあ、友樹に美樹子かぁ……兄妹で同じ字があるってありがちだよなぁ……」

 小夜子会長は変なところで関心する。


 結局のところ、生徒会の女子たち四人は半ば成り行きで僕の家に押しかけ、妹を拝見という流れになってしまった。



「ただいまー」

「お兄ちゃん、おかえりー……って、なんで女の子が四人もいるのよ!」

 帰宅した僕を迎えた美樹子の前に、突然目の前に四人もの七高の制服姿の女子高校生がいるのだから驚くのも当然だ。


「あっ……えーと……生徒会のみんなが美樹子に会ってみたいって言うもんだから……」


「ほぉー……この子がトモの妹かぁ……」

 小夜子会長が顎に手を当て、美樹子をじっと見つめる。


「もしかして会長さん? いつもお兄ちゃん……じゃなかった、兄がお世話になっています」

 美樹子が小夜子会長に笑顔で挨拶する。


「トモと違ってよく出来た妹だなぁ……なんかつまんねーなぁ……」

 小夜子会長は、僕をじと目で見ながら言い放つ。


「とりあえずみなさん、上がっていってください」

 美樹子は手際よく、女子たち四人分のスリッパを用意する。


「おじゃましまーす」

 僕、小夜子会長、優子ちゃん、さっちゅん先輩、由加里ちゃん、そして美樹子までもが僕の部屋に納まる。

 さすがに六畳に六人ともなるとちょっと狭い。


「それじゃ改めて紹介するけど……僕の妹の美樹子です」

 僕が妹を紹介したとたん、


「好きな食べ物は?」

「誕生日はいつ?」

「星座は何座?」

「どんな男の子がタイプ?」

「服とかどんなのが好き?」

「お風呂はどこから洗うの?」


 生徒会の女子たちは、矢継ぎ早に美樹子に次々と質問を浴びせる。

 にしても、お風呂どこから洗うとかって、僕だって知らないし……でも、僕が小学生のときまで美樹子と一緒にお風呂に入っていたなんて、ここでは絶対に言えないし、言ったらたぶん確実に生徒会の女子たちに殺されそう……


「あっ、お茶淹れてきますねー」

 美樹子が立ち上がると、

「わたしも一緒に手伝っていいかな?」

 さすが紅茶職人とも言える優子ちゃんだ。


「優子さんって、美味しいお茶淹れてくれるんですよねぇ……いつもお兄ちゃ……兄から聞いてます」


「美樹子ー……もう無理しなくて普通に『お兄ちゃん』でいいからさぁ……」

 僕はさすがに何度も言い直す美樹子がちょっとかわいそうになってきたので、思わず言ってしまった。


「ありがとう……お兄ちゃん……」

 美樹子の顔が少しばかり赤くなった感じがした。


「やっぱおまえは『お兄ちゃん』って呼ばれてるんだー、まあ『アニキ』という柄じゃないよなぁ」

 小夜子会長が呆れたように言う。


 しばらくして、美樹子と優子ちゃんが紅茶の乗ったトレイを持って僕の部屋に戻ってきた。

「みなさん、お茶淹れましたよー」

 僕の部屋の中、いつもの生徒会室のような光景が繰り広げられる。


「お兄ちゃん、わたし優子さんにお茶の入れ方教えてもらったんだー」

「美樹子ちゃん、筋がいいって言うか……お茶淹れるセンスあるかも」

 紅茶職人とも言える優子ちゃんにセンスがいいと言われるとは……美樹子もお茶淹れの才能があるのだろうか。


 僕たちは、美樹子に生徒会の様子やらを話していると、


「わたしもお兄ちゃんと同じ七高に入りたいなぁー……」

 美樹子は何気なく呟く。


「んなら、ちょっとあたしと制服を交換してみるか?」

 小夜子会長がいきなり変なことを思いつく。


「するするー! わたし、七高の制服、一度でいいから着てみたくって」

 美樹子が小夜子会長の思い付きに乗ってしまった。

 しかし、七高の制服と美樹子の通う三中の制服は紺のブレザーの上下で、形も似ている。強いて言えば、スカートのボックスプリーツの数と、上着の下に着ているベストのボタンの数が違うこと、あと、ネクタイの色が七高は赤で三中が水色といった違いだろうか……


「んじゃ、ちょっと着替えてくるから……美樹子の部屋行くぞ。あっ、覗くんじゃないぞっ! トモっ!」

「覗かないって!」


 そして、数分後……


「見て見てー! わたしもこれで高校生に見えるかな? お兄ちゃん?」

 小夜子会長から借りた七高の制服を着た美樹子が嬉しそうに僕に聞く。


「あっ……美樹子、似合ってるよ……」

 中学生である妹が、自分の通っている学校の制服を着ているというのも……違和感はあるがなんだか新鮮だ。


「ありがと、お兄ちゃん! ……でもー……なんかちょっときついかなぁ……この制服……胸のあたりとか……」

 美樹子の言う通り、小夜子会長から借りた七高の制服は美樹子にとってはサイズが少し小さいのか、全体的にぴちぴちした感じで胸のあたりが窮屈そうで、そしてスカートの丈も太股が半分以上出るくらいの短い丈になっている。


 一方、美樹子の三中の制服を着た小夜子会長は、普段の七高の制服以上にブカブカな感じだ。袖なんか完全に長すぎる感じで、スカートの丈も膝が隠れてしまうくらいにズルズルと長い。


「なんかさー……あたし今、もの凄ーい殺意が沸いてるんだけど……なぁ? トモっ!」

 小夜子会長が恐ろしい形相で僕を見つめる。僕は、小夜子会長がどうしてそんなに怖い顔をしているのかがいまひとつ理解できなかった。


「かっ……会長っ……どうして僕をそんな怖い顔で見るんですかぁ? ぼっ……僕が何をしたと言うんですかぁ?」

「うっさいうっさいうっさい!」

 そう言って、僕の頭をスリッパで連打で叩きまくる。しかも両手で……


「痛いっ! 痛いですよぉ~……何するんですかぁ~」


「うっさいうっさいうっさいうっさいっ!」

 そう叫びながら、小夜子会長は僕の頭を叩き続ける。


「何なんですかぁ……僕が会長になんか悪いことしたんですかぁ?」

 すると、


「もぉー……トモくんはさよちんの乙女心がわかってないみたいね」

 優子ちゃんがそう呟く。


「乙女心? 僕は男だし……何のことやらさっぱり……」


「トモっち、どーでもいいから今すぐさよっちに謝った方がいいぞ」

「さっちゅん先輩までー……いったい何なんですかぁ~?」


「トモ先輩、なんかサイテーですよ」

「由加里ちゃんまでー……もう……わけがわからないよぉ~」


「なんか納得いかないなぁ……そうだ、トモに女子の制服着せるか! なんかそうしないとあたしは納得できないっ!」

 小夜子会長が不敵な笑みを浮かべる。


「トモだったら……優子あたりの制服がサイズ近そうだしなぁ~」


「かっ……会長っ……僕……その……ごめんなさいっ!」

「うっさい、今から謝っても無駄だーっ! みんなかかれーっ!」


 そして数分後……僕の部屋の中に、七高の女子の制服を着た僕がいた。生まれて初めて『スカート』なるものを履いた……こんな姿、絶対に誰にも見せられない……しかし、目の前には四人の生徒会の女子と、妹の美樹子までいる。


「トモくんかわいいー」

 そう言う優子ちゃんは僕の制服を着ている。そして、僕が着ているのは優子ちゃんの制服……なんか、いろいろと……ドキドキしてしまう。


「ちょっと……みんなぁ……あんまり見ないで……」

 僕が言っても、五人もの女の子の視線に晒されている。


「お兄ちゃん……なんか似合いすぎてこわい……」

「美樹子……このこと、絶対に友達とかには内緒にしてよね」



 昭和五十九年五月……いつの間にか、僕の部屋の窓からは夕陽が差し込んでいた。

 いやぁ……今回はトモくんの妹が晒され、そしてトモくんの超絶に情けない姿が晒されてしまいました。

 と言うか、なんかいろいろと羨ましいぞトモくん。まあ、女子たちに愛されるいぢられ役なんでしょうか……

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