ライオンは寝ている!?
「すっかり暖かくなったなぁ……」
三月……三年生は卒業し、学校には二年生と一年生だけになったせいか、どことなくゆったりとした感じがする。まあ、七高は一学年に四百人くらいの生徒数なので、明らかに人口密度も減っているんだろうけど。
「おつかれですー」
今日も放課後、僕はいつものように生徒会室に入る。すると、
「しーっ」
優子ちゃんとさっちゅん先輩が人差し指を口先に当て、僕に静かにするように暗示する。
「えっ? どうしてですか?」
僕は状況が飲み込めず、何故静かにしないといけない理由が知りたい。
ふと、来客用ソファーの方に目を向けると、そこには小夜子会長が気持ちよさそうに、すやすやと夢の中の住人となっていた。
「会長……気持ちよさそうに寝てますね」
そこには小夜子会長の、まるで子供のような無邪気な寝顔があった。
「こうして寝顔を見てると……いつも僕に葉っぱをかけている会長とは別人ですよね」
そう、普段とは違う表情の小夜子会長……眠れる獅子……というよりは、正直に言ってかわいい。
とりあえず、僕は丸テーブルのいつもの席に座る。
「トモくん、お茶どうぞ」
優子ちゃんのいつもの紅茶……今日は小夜子会長が寝ているからいつもよりゆっくりと味わえそうだ。
「会長……普段もこういう感じだったら、僕は助かるんだけどねぇ……いつもは僕に対して凶暴だし……」
「トモくん、そんなこと言ってー……さよちんが聞いたら怒るわよ」
すかさず優子ちゃんに釘を刺された。まあ、女の子に『凶暴』なんて言葉使った僕も悪いんだけど……
「えっ……でも……僕……普段から会長に怒られてばかりですよぉ……」
「トモっちはさよっちに怒られているイメージしかないなー」
「さっちゅん先輩まで……ひどいですよぉ~……」
「でも……さよちん、ここ最近は前に比べるとトモくんを怒らなくなったし、物で叩くこともめっきり減ったよね」
確かに、優子ちゃんの言う通りここ最近になって以前よりは怒られることも減ったし、上履きやお菓子の缶の蓋とかで叩かれることもなくなったような……
「トモっち、もしかして背伸びた?」
「あっ……気が付きました?」
さっちゅん先輩の言う通り、七高に入ってから僕の身長は三センチも伸びた。
七高に入って、そしてなりゆきで生徒会の役員になってもうすぐ一年になろうとするけど、小夜子会長にあまり怒られたり叩かれなくなったということは、僕もそれなりに成長している証なのだろうか……背も伸びたことだし……
僕はソファーで寝ている小夜子会長の前に立つ。そして、小夜子会長の顔を覗き込む。そして、
「会長……僕を生徒会に誘ってくれてありがとうございます」
そう呟いたそのとき、
「うーん……なんかよく寝たー……優子、お茶くれっ!」
小夜子会長が、むくりと起き上がった。眠れる獅子のお目覚めだ。
「トモっ、なーにそこに突っ立ってあたしのことボーっと見てるんだぁ?」
「いっ……いやっ……なんでも……何でもないですよぉ……」
「まったくぅー、何だよその挙動不審な態度はっ! トモは生徒会に入ってもうすぐ一年近くなるのにちーっとも成長しないなぁ……」
「そっ……そんなぁ……僕だって一応成長してますよぉ……背だって三センチ伸びたし」
「三センチ伸びただとー? それ、あたしに対しての当てつけかよっ!」
小夜子会長がそう言ったかと思った瞬間、
「パコーン」
「いたたっ……痛いですよぉ……」
久々に小夜子会長の上履きチョップが僕の頭上に直撃した。
「会長ぉ~……僕何か悪いこと言いましたかぁ~……?」
「うっさい! おまえの背が伸びてもあたしにはなーんにもいいことないんだっ!」
小夜子会長はポニーテールの髪を振りかざし、僕の前に仁王立ちになる。どっかで見たような光景……これって、僕が生徒会室に拉致られたときと同じ……
やはり僕は、小夜子会長が言う通り、高校生になってからも成長してないのだろうか……
「まあ、トモも生徒会に入ったときよりはだいぶマシにはなったけどな……最初はハズレ掴んだかと思ったけどさ」
「会長っ、ハズレって……ひどいですよぉ……」
僕がそう言うと、優子ちゃんも、さっちゅん先輩も笑い出す。小夜子会長も、そして僕もいつの間にか笑っていた。
さっきまで静かだった生徒会室が、いつもの賑やかな生徒会室に戻っていた。
昭和五十九年三月……季節がめぐるのは早いもので、僕は七高で二度目の春を迎えようとしている。
しばらく新エピソード上げられなくてごめんなさいでした……
久々の新エピですが……本来ならば三月中にアップしたかったんですけど、
なんかPCの組み替えとかいろいろやっているうちに四月も中旬になってしまいました。
さて、次回は生徒会メンバーはいよいよ進級ですね。
期待とかしてくださると……嬉しいかな……




