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生徒会S59(せいとかいえすごーきゅう)――あのゆるふわな僕の日常――  作者: 私市よしみ
第七章 生徒会の「活動」昭和五十八年度・三学期
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ちょこっとしたこと

「まったく……誰がこんな企画考えたんやら……」

 今日は二月の十四日……なんでも世間一般ではチョコが乱舞する日らしいが……僕は今までその恩恵を受けたことがなかった。まったく、お菓子メーカーも余計な企画立ててくれるもんだ。


 今年も……妹と母親だけなのかな……チョコ……

 でも、生徒会の女の子たちからとか……いやいや、なんかまたからかわれるだけかもしれないし……でも……ちょっとは期待してもいいのかなぁ……と。


 そう思いつつ、僕はいつものように登校し生徒会室に入る。


「おはようございまーす」


「おっ、トモか……おはようさん」

 小夜子会長はいつもと特に変わった様子はない。


「トモくんおはようございます……今日も寒いわね」

 優子ちゃんもいつも通りの柔らかい笑顔で迎えてくれた。


「トモっちー、おはよー」

 さっちゅん先輩も、いつもと変わらず元気な挨拶だ。


 三人とも、特に変わった様子はなかった。いつも通りの彼女たちだった。

 そして、そうこうしているうちに朝のホームルームの時間となってしまった。


 やっぱり……僕はあくまで生徒会役員であって……チョコとかそういうのとは関係ないのかなぁ……

 僕はそう思いつつ、教室へ向かう。


「おはよー……」

 僕は自分の席に座る。すると後ろの席の長瀬から声が掛かる。


「おい、津島ーっ」

「長瀬……なんだ?」

「津島っ、ついに俺も二月十四日の恩恵に預かることができたぞ! ほれっ!」

 そう言うと、長瀬は僕に小さな包みの物体を自慢げに見せる。


「ああ……長瀬……よかったな……」

「どうだー、いいだろー」


「どうせ僕には縁の無いことだよ……」

「なんだよ、まさか生徒会の女子からチョコ貰えなかったのかぁ?」

「そのまさかだよ……」

「ごっ……ごめん……津島っていつも生徒会の女子たちと仲いいからてっきりチョコ貰ってると思って……」

 長瀬が僕に弁解する。おそらく僕はとっくに生徒会の女子からチョコを貰っているものだと思っていたのだろう。



 放課後、僕は重い足取りで生徒会室へ向かう。

「今年もやっぱりチョコは妹と母親だけか……義理チョコでもいいから……欲しかったなぁ……長瀬もチョコ貰ったんだよなぁ……義理だろうけど……」

 そう思いつつ、僕は生徒会室に入る。


「おつかれさまでーす」


「おう、トモか-」

 小夜子会長は、やはりいつもと変わらない。


「トモくん、お茶どうぞ」

 優子ちゃんもいつものように紅茶を淹れてくれるが……今日は紅茶じゃなくてチョコの日……なんだけど……


「トモっち-、ちーっす!」

 さっちゅん先輩も普段と待ったく変わらない。


 僕は丸テーブルのいつもの席に座る。いつもの生徒会室と変わらない光景だ。目の前には優子ちゃんが淹れてくれた紅茶のカップと、クッキーやらビスケットやらのお菓子が並ぶが、肝心の『チョコ』の類が一切ない。普段なら必ずチョコ系のお菓子はあるのだが、今日に限っては全く見当たらない。どうしてなのか……わざとなのか……僕は余計なことを考えてしまう。


「えーと……今日って……二月十四日ですよね……何の日でしたっけ……ねぇ……?」

 僕は紅茶を飲みつつ、わざとらしいとは思ってはいるがさりげなく呟いた。


「二月十四日か……優子、さっちゅん、何の日だっけ?」

 小夜子会長はわざとらしさ丸出しに、とぼけた感じでまるで何も知らないかのように言う。


「さて……何の日だったかしら……」

 優子ちゃんも、わざとらしく何も知らないかのように言う。


「何の日だー? あたいも知らないなぁ……」

 さっちゅん先輩も、とてもわざとらしい。


 いつまでこんな妙な芝居が続くのだろう。まさか僕が自分から彼女たちに『チョコください』とか言うわけにもいかないし……かと言って、このままだと彼女たちからチョコが貰えないまま帰宅時間になってしまいそうだし……そもそも、最初から僕に渡すチョコなんか存在してないのでは……


「ぼっ……僕には……やっぱり関係ないんですよね……どうせ……」

 僕は半ば投げやりになっていた。そして、いつの間にか涙が出てきた。すると、


「まったく、おまえは世話の焼けるやつだなー……最後の楽しみとして帰り際に渡そうかと思ったけど……ほれっ、トモにこれやるから泣くな!」

 小夜子会長から、リボンの付いた包みが手渡された。十センチ四方くらいの薄めの箱だ。


「かっ……会長……僕に……あっ……ありがと……」

「いっ……いつも世話になってるし……一応、あたしの手作りだからなっ……心して食べるように……なっ!」

 小夜子会長の手作りとは意外だ……普段は乱暴だけど、こういうところがやっぱり女の子なんだなぁと……


「トモくん、わたしからもこれ……いつも細かい事務仕事とか……ありがとね」

 優子ちゃんからもリボンで飾られた箱が貰えた。こちらはちょっと大きめの長方形……と言うか、以前どこかで見たような形……


「ありがとう……優子ちゃん……って、これってまさか……」

「そう、ウチのデパートで独占販売している『あの』チョコですよ」

 やっぱり……前に優子ちゃんが酒乱になったときの、あのチョコなのか……


「トモっち、あたいからもだ。いつも生徒会の仕事、ご苦労さま」

 さっちゅん先輩からもリボンの付いた箱が貰えた。赤い包装紙が印象的だ。


「さっちゅん先輩……ありがとう……」

「トモっち、このチョコは『ロシアンルーレット』になっていて、十個のうち一つは辛子入りなのだー」

 さっちゅん先輩の遊び心というか……真っ赤な包装紙はそういう意味なのかなと……


 でもまあ、これで僕も家族以外からのチョコの恩恵を受けることができた。やはり嬉しいもんだ。


「さーてと、トモもチョコ貰えてこれで気が済んだだろ? 来月のホワイトデーではしっかりお返ししてもらうからなっ!」

「ホワイドデー? 何なんですかぁ? それって……」

 僕は耳慣れない言葉に戸惑う。


「ホワイトデーってのはな、最近始まった『バレンタインデー』のお返しをする日だっ! ちなみに三倍返しが相場だからなっ!」

 小夜子会長が満面の笑みで僕に言う。優子ちゃんも、さっちゅん先輩も笑顔で僕に迫っている。

 僕も……彼女たちの期待に応えないと……来月にはちゃんとお返ししないと……ね。


 昭和五十九年二月十四日……生徒会室には甘い香りが漂う……

 ……というわけで、季節外れもいいとこだけど「バレンタインデー」の日の話です。やはり2月の話となると避けて通れないですしね。

 というか、トモくんは女の子にプレゼント貰いまくりだなぁと……


 ちなみに「バレンタインデー」にチョコを贈るというのは日本独自らしくて、諸説はあるけど、大森の京浜東北線からも見える某チョコレート会社と新宿東口にある某老舗百貨店の企画らしいです。

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