24、サクラ
桜。
その花言葉は 、「優れた美人」「純潔」「精神美」「淡泊」など。
どう考えても、私にはそぐわない。
なのに…。
「お店の名前は、サクラ亭だよ。」
と言われた時の私の気持ちを考えて欲しい。
「アイリの髪の色が、似ているから。」
そんな安易な考えで、決めていいの?
ねぇ?ねぇ⁈
確かに桜も、ピンク色も好きですけど!
この世界にも、桜は咲くらしい。
ただ、その存在は、伝説や、おとぎ話のような感じで捉えられている。
そりゃここに四季は無いものね。
桜は咲かないわな…。
何処かの地で、ひっそりと咲く、桜。
出会う事が出来たら、どんな願いでも、その木に宿る妖精が叶えると。
この世界では言われる。
まぁ、木の下に、死体が埋まっていないだけ、マシか…。
いや、今は違う。
店の名前だ。
「もう無理だよ。看板も頼んだし。」
スポンサーであるティークの一声で、店の名前は決まってしまったのであった…。
とほほ…。
私は、知らなかったのだ。
街の人たちが、私のことをどう見ていたのか。
どう思っていたのか。
ティークは知っていたと言うのに。
ほぼ出来上がった店を見に、久しぶりの街へと出かける。
ダニィさんはついてこなかったが、ティークがついてきた。
暇なのかしら。
「…チェリーだ…。」
「妖精様だ…。」
「…どこから…。」
街の人々の囁き声に、戸惑う。
チェリーというのは、桜の木に宿ると言われている妖精の名前だ。
「ね、無理でしょ。」
ちらりと上目遣いでティークを見たら、そう返された。
「ピンクの髪が、おとぎ話と一緒だからね。妖精だと思われちゃってるのさ。」
妖精に、ネコミミとネコしっぽは無いと思うんだが。
「だから、店の名前は、サクラ亭。」
「願いを叶えるとか、出来ないのに…。」
本物じゃないからね。
「少なくとも、ボクの願いは叶いそうだけどね。」
はいはい。
店には、桜の木を描いた看板がかかっていた。
中はそれほど広くなく、とりあえずは私一人か…もう一人、誰かいれば回せそうな広さだった。
二階もあるらしいが、とりあえずは、閉鎖。
宿屋の名残りらしい。
キッチンは、望んだ通りに窯があった。
魔力点火のコンロも、三台。
型やボウルが、棚に収まっている。
「食材は、開店する前の日に運び込んでもらうようにしたから。
まぁ、日持ちする物は、さらにその前から作って持ち込むのだが。
「さて…、アイリは、この店をどんな風にしたい?」
「どんな風に…。」
と、言われましても。
「来た人が、ご飯を食べて、笑顔になれる場所。」
桜のような、儚い物にしない為にも。
抽象的だが、そうとしか言いようがない。
ここに来て、初めて物を食べた時のショックを思い出す。
…うん、あれは無いと思うんだ…。
「分かった。じゃあ、ボクは最大限の協力をするよ。ダニィもだ。」
腰掛けていたテーブル(お行儀が悪い!)から、立ち上がるティーク。
「アイリは、何も考えずに、料理を作ること。」
「…ん?」
何か不都合でもあるんだろうか…。
「人を雇うよ。二階もこの分だと、直ぐに開ける事になるかな。」
「…はぁ。」
ぽんぽんと決めていくティーク。
「それと、腕の立つ人も何人か。揉め事は遠慮したいんだけど…しょうがないか。」
何やらぶつぶつ考え込みだす。
「あのう…。」
結局、ティークが帰って来るまで、暫くかかりましたとさ。