21、奇天烈怪奇な
「あうー…。」
「あっ、頭が…。」
「それが二日酔いってやつです。これに懲りたら、全部飲まないで下さい。」
毛皮の上にぐたーと伸びた二人のそばに、水を置いておく。
「はい…。」
「分かった…。」
分かればよろしい、分かれば。
葡萄酒が出来て、数日後。
魔力合成で、ブランデーのようなお酒も作り出す事に成功した。
よくよく考えれば、ブランデーはワインから出来ていると言っても過言ではない。
何かのついでで調べた知識が役に立ったのだ。
蒸留。
なんで、それを忘れていたんだろう…。
と、言うことで、葡萄酒を魔加工してやったのである。
最初の何回かは、爆発とか…しなかった。
ただ、どう嗅いでも、消毒用のアルコール!という代物が出来上がってしまった。
精密すぎたらしい。
きっと測ったら、アルコール度が90%以上あったに違いない。
蒸発する勢いだった。
材料をとっかえひっかえして、出来上がった蒸留酒に、果物を漬け込む。
麦で作った蒸留酒が、一番出来が良かった。
そして、出来上がった色んなお酒を、味見と称して、二人が飲む。
見事な二日酔いが二人、出来上がりだ。
でも、ノッピィさんに持って行くのは、ブランデーにしておくことにした。
葡萄酒を作り、それを魔蒸留して、木の樽に入れる。
さらにそれを熟成させるために、魔力を込める。
その辺の加減は、掴んできた。
流通させるのであれば、年月をかけてやっていくしかないだろう。
こんな魔法は存在しないらしいので。
そんな風に、何個も並ぶ木の樽に、魔力をつぎ込んでいたある日。
人が来た気配と、ティークに呼ばれる声がした。
「はーい。」
貯蔵庫代わりの部屋から、ティークたちがいつもいる部屋へ。
「おう、嬢ちゃん。」
「ノッピィさん!」
そこにはいつぞや会った、ドワーフさんがいた。
「出来たぞ、ほれ。」
手に持っている布を、開く。
私も近くに寄って、覗き込む。
ティークも興味津々で覗いていた。
ダニィさんもだ。
「…わお。」
見間違うことない、針。
全てが白銀色に輝いていて、糸を通す穴がきちんと開いている。
それが、五本あった。
穴の大きさが、少しづつ違う、五本。
「流石は、ノッピィさんだね。」
ティークもしげしげとそれを眺めていた。
「おうよ、この穴を開けるのが一番苦労した。細さもだがな。先も言われた通りに少し丸めておいたぜ。」
「これは、素材は?私めは見たこともありませんが…。」
眺めていたダニィさんも、首を捻る。
「ミスル銀だ。」
「「ミスルっ⁈」」
二人の声が揃うのを、初めて聞いた。
ぽかーんとしている私に、ティークが説明してくれる。
「ミスル銀はね、ドワーフ族の、門外不出な金属だよ。魔力が込められて、折れず、曲がらず、切れ味が鈍ることもない。剣を作れば、切れない物がないと言われる、希少金属。」
「ふえっ⁈」
今度は、私が変な声を上げる番だった。
「なに、この針とやらを作るのに、一番向く金属がこれだったってだけだ。ミスルなら、細くしても、折れる事はないだろうからな。」
針を刺した布をまた包み直し、ノッピィさんは私に手渡した。
「あ…ありがとうございます…。」
そんな凄い金属で出来た物をもらってしまっていい物なのだろうか…。
「おう、それと剣だな。」
剣は先に、ティークに手渡された。
「…こりゃ、また。」
ティークが苦笑する。
白地に透けるように、桜のような花の模様が細工された、鞘。
同じく白地の持ち手も同じように、桜が咲いている。
微かな音と共に、抜かれた刃は…。
「ミスル…銀…。」
針のような細く小さい物では分からなかった。
白銀の刀身からこぼれるような、七色の光。
「…ミスル銀に、白竜の皮に、白竜の骨。ノッピィさん、お金払えませんよ、これ。」
「要らんよ、どうせ余り物だ。」
「はぁ…。」
よ…よく分からんが、高そうな物なのは、なんとなく理解出来たぞ。
それを目利き出来る、ティークもどうかしてると思うが。
剣を鞘に戻して、ティークがぶつぶつと何かを呟く。
持ち手の桜の一つが、淡くピンクに染まる。
もう一つの花は、青に。
「護身の為の術と、探索の術をかけておいた。」
さらっと告げてますが…だいぶ凄い事をされた気がします…。
「あ、そうだ、ノッピィさん、お礼にご飯食べて行きませんか?」
ついでに、お酒も提供出来るし。
「うん、そうして下さい。」
ティークが後押ししてくれる。
「そうか。ご馳走になるかの。」