18、そこはお決まりの
真ん中に通る大きな通りを抜け、入り組んだ小道の果てに、そこはあった。
店先には、剣が下がっている。
剣を模した何かではなくて、剣そのものがぶら下がっていた。
安物なんだろうか。
「こんにちはー、いますかー。」
大声で店の人を呼ぶティークの後ろから、中に入る。
整然とした店内には、剣やら槍やらが飾られていた。
「おう、呼んだか、坊主。」
低くて太い声と共に、奥から人が出てきた…。
「…ドワーフ?」
ええ、お約束のドワーフ族のお方でした。
ファンタジーの世界だと、何処でもお約束なんだろうか?
「うん、呼んだよー。あのね、今日は注文に来た。」
「そうか、で、何を作れってんだ?」
低い背に合わせるように、背を屈めるティーク。
「詳しい話は、アイリに聞いて。アイリ、ノッピィさん。」
おいでおいで、と、手招きされたので、近くまで行って、頭を下げる。
「アイリです。」
「おう、ノッピィだ。で、何を作らせようってんだ?」
えっへんと言わんばかりに、胸を反らすノッピィさん。
あれ?待てよ?
仲悪いんじゃなかったのか?
「彼はね、ちょっとした伝手があってね、仲良くなったの。それで、今はここに居て、武器を作ってる。」
「坊主の剣の腕がもうちょい上手くなったら、また剣を叩いてやらぁ。」
なんてことはない、と、言わんばかりに、鼻を鳴らすノッピィさん。
稼ぎはあるんだろうか…。
「えっと、針を作って欲しいんです。」
「針?なんだそりゃ?」
ノッピィさんに、大まかなイメージを伝える。
終いには、絵まで描いて説明してみる。
紙とインクは、ダニィさんが出してくれた、
物持ちがよろしいようで…。
紙と言っても、大きな葉っぱだったけどね。
「ふんふん、こりゃそこらの鍛冶屋じゃ手に余るわな。」
私が描いた下手くそな絵を片手に、ノッピィさんは頷いた。
「細さもそうだが、この穴を開けるのは、ちょいと骨が折れそうだ。」
糸を通す為の穴を指差す。
「坊主、いつまでだ?」
「うーん、特にないよ。出来たら、持ってきてもらえたら。」
ノッピィさんと二人で話し込んでる間、一本の剣の前で悩んでいたティークは、そう告げる。
ティークが見ていた剣は、持ち手を含めても30センチくらい程の、短い剣だった。
持ち手には、細やかな幾何学模様が描かれている。
「時に、ノッピィさん、この剣の鞘は?」
「なんだ、坊主。その剣買うのか。」
「いや、ちょっとね。」
言いよどんだティークと、私を眺めて、ノッピィさんは、一つ頷いた。
「護身用の剣なら、この嬢ちゃんに似合うの作ってやる。そんなの買うなや。」
「いや、それは…。」
流石にそれは、高くてもらう気になれないぞ!ティーク!
「うん、じゃ、お願いね。」
当人を置いてきぼりにして、話をまとめないで下さい!
「ちょっ、ティーク、流石にそれは高くてもらえない。」
食材なら、ティークも食べることだし、気にはしなかった。
けど、剣は、…ねぇ?
「なら、嬢ちゃん、剣は俺からだ。久方振りに面白い物を打たせてもらえるな。」
絵を描いた紙をひらひらさせて、ノッピィさんが、笑った。
「なら…もらいます…。」
どのファンタジーのドワーフさんも、気に入らないと剣は打たないが、ここのドワーフさんもそうらしい。
テンプレ通りのドワーフさんなら、きっとお酒も好きだろうな。
お礼にしたいな。
「じゃ、よろしく。」
「お願いします。」
ノッピィさんに頼んで、店を出る。
この店先に下がっている剣も、ノッピィさんが作ったのなら、結構な物なんじゃないだろうか。
「ティーク、ティーク。」
つんつんと腕を突つく。
「なぁに?」
「ノッピィさんに、お礼で、お酒を渡したい。」
「お酒?」
ティークの不思議そうな声がする。
「うん、お酒。」
「ねぇ、アイリ。お酒って何?」
この世界には、お酒もないのか!
もう、やだ、この世界。
ティークに説明した結果、酒類はあった。
ただ、幻の品だった。
なんと魔族の方々の間でしか、流通してない物らしい。
文化は魔族さんたちが一歩リード、と言った所か。
醸造の知識…ワイン位しか無いのだが、大丈夫だろうか…。
先行きが不安だ。
ティークの説明を聞きながら、まだ二日目の家へ帰り着く。
家の後ろに広がる森で、兎を狩ってくるとティークとダニィさんは直ぐに出かけて行った。
剣や弓をその手に携えて。
その間に、色々仕込みを始めましょうかね。