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16、私を証明する物

覚えた魔法が嬉しくて、散々使いまくり。

疲れ果てて、床に敷いてあった毛皮の上で寝てしまった次の日。


「んん…。」


私は寝た所と、違う部屋で目を覚ました。

ここは…、自分用にあてがわれた部屋だ。

干し草の上に布をかけただけの、簡素な布団。

掛けていたのも、布。

ここまで運んできたのは…、一人しかいないわな。


起き上がって、ため息を一つ。

そりゃ、見た目は11歳かそこらの子供かもしれないが…。

なんともこう、複雑な気分だ。


部屋には、木で出来た窓が一つ。

今は開けられていて、朝らしい日差しと、風を送り込んでくる。


…こうしていても仕方が無い。

ティークを探しに行こう。


探すといっても、そう広くもないこの家。

いる所は、だいたい分かる。


「おはよー、ティーク、ダニィさん。」


「お、起きた。おはよう、アイリ。」


「おはようございます。」


うん、ダニィさんは、やっぱり礼儀正しいのね。


ティークたちがいたのは、やっぱりというか、居間のようなトコロだった。

ご飯もここで食べるし、ティークはここで寝ているらしいから、居間のような所ということで。


「さて、アイリも起きたことだし、行こうか。」


「行こうかって、何処へ?」


素早いダニィさんが、渡してくれたお茶を飲む。


この世界、お茶はあった。

ルキ茶という、植物のお茶らしいが、私にはよく分からない。

味も色も、烏龍茶そっくりなので、普通に飲んでいる。


「街へ。色々買い込みに。」


ティークもダニィさんも同じお茶を啜っている。


「うん!行きたい!」


何があるか、色々見てみたいし。

ダニィさんも一緒に行くそうな。


私が頷くと、ティークはダニィさんから一つの首飾りを受け取って首にかけた。

紐は皮のような茶色の紐。

ペンダントトップは、金で、複雑な形をしていた。


「これはね、王家の紋章さ。」


ティークは近くでよく見せてくれた。


二匹の竜が向かい合い、手を組んでいる。

口には、月を模しているのだろう。

丸い物を一つずつ咥えていた。

手からは、透明な石と、青い石が下がっていた。


「透明な石は、王家を。青いのは、ここの領主を表しているんだよ。」


しげしげと眺めていたら、そう教えてくれた。

石は宝石のようにも見えたし、そうで無いようにも見えた。

不思議な作りだった。


「これをつけていれば、店の物はたいがいタダになる。けど、ボクは払うよ。」


みんな生活があるんだから、と呟くティーク。


「今日つけていくのは、ちょっとだけ、この力を使うからさ。」


来た時と同じように、布を被ろうとしたら、要らないとティークに言われてしまった。


手こそ繋がないものの、ティークの横には、私。

その後ろから、ダニィさん。


街に降りて行くと、ティークはあちこちから手を振られていた。

慌てていて覚えてないけど、私を連れて来た時にも、きっとこんな感じだったのだろう。


私を連れて、ティークはどんどん街の中へ進んでいく。

私の姿を、もの珍しそうにみる人も増えていく。


「やっぱり…、してきた方がよかったような…。」


好奇の目に晒されるのも、苦痛になってきた。

見世物のパンダじゃないんだぞ!と言って、暴れたい気分だ…。


「まぁ、まぁ。」


一つの建物の前で立ち止まるティーク。

そこそこ立派な建物。


「まずは、アイリのことを、証明しなきゃね。」


ざっくり言ってしまえば、住民登録のような物だった。

いや、ざっくり言う必要もないか。

住民登録そのものだったんだから。


建物は、役所のような仕事をしていた。

住民登録、依頼管理、等々。

もっとも、ティークが声をかけたら、飛び上がる勢いで慌てた受付のおねーさん(美人!)は、偉い人を呼びに行ってしまい。

飛んで来たおじさんに、別の部屋に通されてしまったんだが。


「で、孤児を拾ったと。身分証明書がないから、ここで登録して欲しいと。と言われましても…。」


難しい顔のおじさん。

名前はタッドさんというらしい。


ティークは上手く話を作りあげていた。

旅の途中で、孤児を拾ったが、住人登録されてないようで、証明書がない。

この先、何処へ行くにもいる物だから、作って欲しい。

と、言ったもの。


証明書は、本当であれば、無くしてはヤバイ物らしい。

これがない人は、斬り殺されようと、奴隷にされようと、文句がいえないそうな。


「しかし…。」


まだ言い淀むタッドさんの前に、ちゃりんとあのペンダントが翳される。


「ステイ王国の王子にして、このシャリークの領主、ティーク・ステイの名を持ってしてもか?」


はぁ、と盛大なため息が聞こえた。


「今回だけにしてくださいね、ティーク王子。」


字は書けないので、ティークの代筆だ。

読めても、書ける人は少ないらしい。

そういう人のために、代筆屋もいるらしいが、そこは王子。

さらさらと書いてくれた。


「名前は…アイリ。親は…不明…。」


本来なら、三歳位の時に作る物だけに、親の名前を聞かれたりするらしい…。


「籍は…、シャリーク…。」


適当に作るの上手ですね、ティークさん。


この世界に、苗字があるのは、王族だけらしい。

なので、私も苗字は無しだ。

ダニィさんも、タッドさんも、苗字無しか。


「はい、書けた。これでいいかな?」


書き上げた書類を渡すティーク。

紙では無くて、大きな木の葉らしいが。


「はい、不備はありません。」


さっと目を通して、タッドさんは書類に手を翳した。

するすると書いた文字が、手のひらに吸い取られていく。


「アイリは髪がピンクだから、ピンクのがいいな、と思ってたんだ。」


ティークがペンダントになっている、ピンクの物を手渡す。

ご丁寧にハートに加工されたそれは、ガラスのような透明度を持っていた。


「これはまた、高級そうな…。」


渡されたそれを、タッドさんはしばらく眺めてから、手を翳した。


ぽうっと淡い光が、石に灯る。


光が静まると、タッドさんはそれを私に手渡した。


「無くさないようにね。」


石の中には、細かい字が刻まれている。

ティークが書いた、字だ。

不思議に思って眺めている私の横で、ティークは頭を下げていた。


「ありがとう、すぐにやってくれて。」


「ここには私しか出来る人がいないことを、ティーク王子は知っているでしょう。わざわざ、そんな物まで引っ張り出してきて。」


「権力は、上手く使う物なんですよ。」


ティークは笑って、出されたお茶を啜っている。

朝と同じお茶。


「さて、満足したかな?」


「うん。」


仕組みは、帰ってから、ティークに聞こう。


ティークは私の手からペンダントを受け取ると、当たり前のように、首にかけてくれた。


「ありがとうございました。」


タッドさんに、頭を下げる。


「いやいや、お礼なら、ティーク王子に。」


「じゃあ、ボクが代わりに。タッド、ありがとう。」


「やめてください、ティーク王子まで。」


このままだと、終わらない不毛な戦いになりそうだ…。


「さ、買い物行こうか、アイリ。」


あっさり、さらりなティーク。

さすが、と言った所か。


「うん!」


街に、何があるか、楽しみだ。

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