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15、初めての魔法教室

ティークもダニィさんも、魔法の仕組みは知らなかった。


小さい頃に、親や兄弟から教わるもの。


それが魔法だったのだ。


だから、この世界のほぼ全員が魔法を使えることになる。

その中で、攻撃魔法に特化したのが、俗に言う「魔法使い」に当たる。

日常に必要な、火を点ける、水を出す。

この二つは、間違いなく出来る物なのだとか。


今、私がしていることは、ティークの手のひらから出される魔力を感じること。


これが出来れば、その二つは出来るようになるらしい。


私の手のひらから、20センチほど離されたティークの手のひら。


そこから放たれている筈の、魔力。


目には見えないそれを感じようと、私は感覚を研ぎ澄ます。


「どう?」


「んー…、なんかあったかい?」


「お、せいかーい。じゃ、次ね。」


魔力の性質を変えたらしい。


「あ、冷たくなった。」


「分かってきたね。」


ダニィさんが大きなたらいを持って来た。

身体を流す時に使っていたやつだ。


「今度は、水を出す訓練。」


ティークが見本を見せてくれる。


「まずは、使う魔法をイメージする。出す量も調節出来なきゃでしょ?だから、こっちね。」


そう言って、さっきまで水を飲んでいたカップを指差す。


すると、あっという間に水で埋まった。


「こんな感じ。」


カップの水をたらいに入れて、ティークは私にカップを手渡した。


「イメージが大事。やってみて。」


水を出す…水を出す…。


ざばーという音がしそうな勢いで、カップから水が溢れ出した。


「ちょっ、アイリ、やり過ぎ、やり過ぎ。」


慌ててダニィさんが、床を拭いている。


「それの上でやろうか。」


言われた通りにした方が、被害は少なさそうだ…。


たらいの上でカップを持って、水を出すこと数十回。

溢れたり、底にちょっぴりだったりを何回も繰り返して、私はやっとコツを掴んだ。


ようは、イメージだった。

ティークの言う通りに。


頭の中で、水を入れる物を思い描く。

今回なら、カップを。

そして、それに水を注ぐ。もちろん頭の中で。

思わず水道の蛇口を想像したが…。

それでも大丈夫なようだった。


要領を掴んでからは、簡単だった。

コンロに火を点けるのも、危なげなくすることが出来た。

家を燃やされるかと、ダニィさんは、戦々恐々だったらしいが…。


身を守れるように、と、外で木を的に、火をぶつけてみようとしたのだが…。


全く持って、出来なかった。


水でも、同じこと。

どうやら、攻撃魔法は想像が出来なくて、ダメなようだ。

魔法を使って、チートして、世界征服!とか思っていた私の夢を返して欲しい。


攻撃には、使えない。

でも、もしかしたら…。


キッチンで、大きめな器に、卵を一つ割り入れる。

そして、その器を見ながら、想像してみる。


泡立器で、混ぜている所を…。


器の中で、卵が泡立ち始める。

音もなく泡が増えて行くのは、はたから見たら、不思議な光景だろう。

しかも私はじっと器を見つめているだけなのだ。


魔法を使ってあれこれする私に、ついて回っていたティークと。

こぼしまくった水を拭いて、たらいを片付けたダニィさんが、その光景を見ていた。


「ほぅ…。」


「これは、これは。また不思議な。」


「アイリの魔力は底知らずかもね。でも、攻撃魔法使えないから、使い所がないと思ったけど…。」


「いやはや、その他には使えそうではないですか。」


外野はガヤガヤと賑やかだったが、自分は必死だ。


見えない何かが、泡立てた卵を持ち上げる。

頭の中で、泡立器を持ち上げたからだ。


トロトロと流れ落ちる卵。

ちょうどいい固さ。


しかし、この卵どうしよう?

考え無しに泡立てたが、使い道が…。


頭の中のレシピを引っ張り出して、ふわっふわなホットケーキを焼いてみる。


火力は、魔法でなんとかしてみた。


「ふわふわー。」


「おお!これはまた美味しいですな!」


ティークとダニィさんが、取り合うように食べたのは、言うまでもない。


結論、料理に魔法は使える。


使えるのなら、発酵も出来そうだ。

型さえあれば、ケーキも焼けそうな気がしてきた。

オーブンは、かまどを作って温度調節は魔法かもしれないが。

魔力釜か、ファンタジー。


その後、二人の気が済むまで。

卵を泡立て、ホットケーキを焼くことになった。

泣きたくなるほど、重労働だった。

気を抜くと、イメージが飛ぶからだ。

さっき食べたクレープは何処に行ったのだろう…。


ティークもダニィさんも、泡立てるのに挑戦してみたが、結果は撃沈だった。

泡立器をカタカタと回す、あれが想像出来ないようだった。


二人の気が済む頃には、夜になっていた。

異世界に来て二日目は、卵を泡立てるだけで終わったような気がするのは、きっと気のせいだろう。


気のせいだと、思いたい。

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