13、文明の機器は
ティークに案内された先に、お風呂はなかった。
当然か、日本のようなお風呂場を想像する方が間違いだわな。
大きな金盥二つと、中くらいと小さめな木で出来たたらいが一個づつ。
床は土がむき出しだったけど、入り口から半分くらいまでは、すのこが敷かれていた。
ティークからは、布を二枚手渡された。
「一枚は着替えね。もう一枚で身体を拭いてね。」
使い方は…。
「大きいやつに、お湯と水が入ってるから。お湯は熱いから気をつけて。小さいので汲み出して、お好みの熱さでどうぞ。一緒に草を丸めたのが置いてあるから、それで身体をこするといい。下は砂だし、水は染み込むから、気にしなくていいよ。」
ということで。
渡された布は、身につけていた物より、肌触りが良かった。
綿のような、柔らかさ。
絹とかもありそうだな。
きっと高級品だな。
色は白だった。
たらいのそばには、言われたように草を丸めた物があった。
たわしちっくだったけど、思ったより柔らかくて肌には優しかった。
何より、こすったら、泡が出て驚いた。
水分を含ませて揉むと、泡が出る植物らしい。
その泡で、ついでに頭も洗っておいた。
ちょっときしきししたけど、まぁ、仕方ない。
便利な品もあるようで…。
お湯は、ティークが魔法で沸かした物だそうな。
だったら、ちょうどいい温度で沸かしておいてくれ、とちょっと思ってしまったが…。
生活必需な魔法は、皆さん大概使えるそうで。
水を出す、火を点ける、は、後で教えてもらえることになった。
これで、自分のお湯は、いい温度で沸かせるようになるだろう。
髪を洗い、身体を洗い、お湯で流す。
しっぽも耳も、もちろん洗いました。
耳に水が入りそうで、慌てたことはもちろん内緒である。
髪はピンク色なのに、しっぽや耳の毛色は白だった。
不思議。
手や足や体つきは人間なのに、耳としっぽだけ猫のような自分。
もっと不思議。
さっきと同じパレオ方式で、布を巻いて、最初にいた部屋まで戻る。
「お、出たか。」
座っていたティークがおいでおいでしてる。
「なぁに?」
ここに座れと、さっきまでティークが座っていた場所を指されて、大人しく座ることにした。
「何するの?」
「髪を乾かすの。」
私の後ろに立ったティークが、手を頭に翳す。
程なくして、温かな風が耳に当たりだした。
くすぐったい。
ひょこひょこ、意図せずに、耳が動く。
「ほら、じっとする。」
「むっ…無理…。」
笑い出しそうなのさえ、耐えてるっていうのに!
どこからともなく、ティークはブラシのような物を出して、髪を梳かす。
…あ、後ろにダニィさんがいたのか…。
梳かしながら、温風で髪を乾かすティーク。
ドライヤーがあるとは思わなかった。
意外だ。
長い長い、腰より下まである髪。
結ってある時には、気がつかなかった長さ。
ティークの長さは肩までくらいだった。
さらり、さらりと、ティークの手によって、私の髪は乾かされていく。
乾かしたついでか、そのまま髪を編み、結い上げてくれた。
「はい、終わり。」
ついでに頭もぽんぽん。
どうも子供扱いされてる気がするぞ。
「あ、この魔法は教えないからね。ちょっと難しいし、扱える人は少ないんだ。」
と、言うことは、その度にティークに乾かしてもらうことになるのか…。
ふんわり髪も乾いた所で、ご飯にしよう。
寝かせておいた生地も、もういいはずだし。
「火傷したり、手を切ったりしないようにね、アイリ。」
こりゃもう、子供扱い確定だな。