12、しょくりょうじじょう
はーい、アイリちゃんクッキングのじっかんだよー。
今日の食材は…。
食材は…。
…。
「小麦粉です。それから、街の方から頂いた野いちごと、ミルク。野生の蜂から採った蜜と、…。」
ダニィさんに案内されたキッチンには、材料は豊富にあった。
意外なことに、フライパンがあった。
ついでに鍋も。
ボウルやザルは、この際他の物で代用である。
食器類は、木かティークが持っていたような土器さん。
泡立器や、おたまやフライ返しは、なかった。
便利な物は、望めないと言うことだ。
もちろん、ベーキングパウダーのような、食品添加物も。
コンロの火を点ける所が見当たらなくて四苦八苦してたら、ダニィさんが魔法で点けていた。
一回点けたら、消すまで燃料要らず。
便利だ…。
今度、覚えよう。
魔力はくれるって「あれ」も、言っていたし。
お米は見当たらなかった。
ダニィさんに聞いたら、仕入れることは出来るらしい。
調理法は、煮るだけ。
お粥ですね。
小麦粉をパンにするイースト菌の存在は、知られていなかった。
天然酵母を仕込んでみよう。
上手くいったら、バンザイくらいのつもりで。
主食に使えそうな物が、小麦粉しか見当たらなかったので、芸がないと思いつつ、懲りずにクレープを焼くことにする。
何の卵か知らないが、卵もあったからだ。
「手伝える事があれば、手伝いますよ。」
と言うダニィさんのありがたーいお声がかかったので、ミルクを蓋が出来る入れ物に入れて、手渡した。
「これを、ひたすら振ってて下さい。」
そう、バターを作ってもらうのだ。
小麦粉を卵とミルクで溶き、蜂蜜を入れておく。
野いちごを細かく刻んで、蜂蜜で和える。
包丁の代わりは、ナイフ。
まな板の代わりは、ダニィさんに持ってきてもらっておいた、木の板。
ミルクに卵に小麦粉があれば、カスタードも作ることが出来る。
甘みは、砂糖の代わりに蜂蜜でつけてみた。
ミルクと格闘しているダニィさんを横目に、他の食材を漁ってみる。
野菜が意外と多い。
なんじゃこりゃな野菜も多かったけど、分かる野菜も幾つかあった。
ただ、トマトは紫色だった。
ジャガイモの断面は赤かったし、人参らしき野菜は白かった。
トマトソースのピザを焼いたら、紫色か…、食欲は湧かないかもな。
ポテトサラダは、赤いのか…物騒だな。
ジャガイモがあるなら、いももちでもよかったかな。
あ、でも、醤油がないし、海苔もないか…。
チーズもなさそうだしな…。
その前に、赤いいももち…うーん…。
「アイリさん…ところで、これはいつまで…。」
あ、ダニィさんが、だいぶぐったりしてる。
「あ、ごめん、ごめん。」
ダニィさんから容器を受け取って、耳元で振ってみる。
じゃばじゃばという水音に混じって、固形物らしき物がぶつかる音がする。
「出来た、ありがとう。」
蓋を開けると、見慣れたバターよりは少し色の薄い塊が出来上がっていた。
ちょこっと掬って、舐めてみる。
うん、無塩バター。
塩を入れて混ぜるのは、ダニィさんにお任せして、塩の入っていないバターを、溶かす。
牛乳で溶いた小麦粉に溶かしバターを入れて…、さらに塩を少し。
さて、本来ならば、このクレープ生地は寝かさないといけない。
少なくとも、30分位は。
さてさて、どうしよう?
ボウル代わりの器を前に悩んでいたら、ティークがひょっこり顔を出した。
「あ、アイリも汚れ落としておいで。」
相変わらず見事な腰巻きで。
「ん、分かった。ダニィさん、それそろそろいいので、そのまま置いておいて下さい。」
そう暑くもないし、常温でバターが溶けることもあるまい。