11、夢と企み
「ボクの夢はね、種族間の争いをなくすことなんだ。」
差し出された手を握ることも出来ずに、ほけっとしていたら、ティークが話し出した。
「この世界はね、あっちでもこっちでも、戦争してる。種族間の争いさ。正直ボクはそんなのどうでもいいんだ。」
差し出した手の行き先に困ったのか、わきわきと手を握ったり閉じたり。
そのまま、私の頭をぽんぽん。
いい歳でやられると、恥ずかしいわぁ…。
「みんな仲良く、なんて、偽善だと、自分でも思う。でも、目指して見る価値はあるんじゃないかと思うんだ。争いじゃなくて、支配や奴隷じゃなくて、共存出来る方法がきっとあるってね。」
ティークは、笑った。
その笑いは、悪巧みを思いついた子供のような笑いだった。
「アイリは、この世界に身寄りも何もない。生きていくだけの糧もない。だから、取引しない?」
「…取引って?」
「簡単なことだよ。ボクは、アイリを保護する。暮らしていけるように。アイリは、ボクに話してくれた、料理や服を作る。ボクはその作ってくれた料理や服で、他の種族と取引する。どう?」
確かに…理には叶っているけど…。
床に座ろうとしたら、すかさずダニィさんが別の毛皮を敷いた。
素早いよ、執事さん。
「それに…アイリ、ボクと離れたらどうなるか、想像したことある?」
ティークはじっと私を見つめている。
「アイリの体格じゃ、誰かに襲われても、抵抗出来ないよね。良くて奴隷落ち、悪ければ、そのまま殺されるよ。」
視線が、反らせない。
ティークの言っていることは、正しい。
反論どころか、言葉を出すことさえ、ままならなかった。
「さて…アイリはどうする?ボクと取引する?」
もう一度、差し出される手。
ティークは、狡いな。
私がどうにもならない所まで追い込んで、それから手を差し出すんだから。
「…する。」
今度は、手を握り返すことができた。
「いい雰囲気なところ、申し訳ありませんが。」
ティークの横に立っているダニィさんが、こほんと一つ咳払いをした。
「先に旅の汚れを落として頂きたいです、王子。」
「そうだね、じゃ先に失礼する。」
するりと私の手をすり抜けて、ティークが立ち上がる。
「ダニィ、アイリの部屋といる物を見繕ってやって。」
「はい。」
「じゃ、アイリの手料理、楽しみにしてるねー。」
手をひらひらと振りながら、ティークが扉の奥へと消えていく…。
手料理…。
手料理⁈
「執事さん…じゃなかった、ダニィさん!この家には、何がどの位ありますかっ⁈」