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Silver Pendulum  作者: 迦月
2/11

survival game

 セントラルエリア西大通りを北に3ブロック進んだ右手、角に面して建つ5階建ての館『星宿館』。

 一見静かに見えるこの星宿館だが、その中ではとても『静か』とはかけ離れたことが起こっていた。 



 ―星宿館 4階5番廊下―


榎璃「出てこい鴻!こそこそ隠れてるんじゃないわよ!!」

 そう叫ぶ少女―榎璃は、真っ白な薙刀『巴御前』を持ち、長い黒髪を靡かせ廊下を爆走する。 普通なら銃刀法違反として捕まるところだが、この世界にそんなものはネい。

 ヒュッと風を切る音がして、後ろから横を麻酔針が通り抜ける。

 それを見送ることなく180度向きを変えて、榎璃は針が飛んできた方へ走る。

 こんな状況になったのは54分前の出来事。




―1時28分 星宿館1階ホール―


万里ばんり「…訓練しましょうか。」

あきら「……は?」

榎璃えのり「訓練って…なんで急に?」

とき「あれ?二人とも知らなかったの?」

 探偵―もとい、万屋『Silver Pendulum』の本部である『星宿館』には、いつものごとく万里、榎璃、祥、鴻のメンバーが集まっていた。

万里「ちゃんと掲示しといたはずなんですけどね。」

鴻「私見たよ。そこのコルクボードに張ってあるやつ。」

榎璃・祥(いつの間に?!)

万里「まあ、あれですよ。最近、思いっきり体を動かすAな依頼来ないでしょ。だから、訓練しましょ。腕が鈍らないうちに。」

 そう言って、万里は西側の部屋に入った。

 その部屋は応接室に使われていて、ソファーとテーブルが置いてある。その横に置いてある古い洋風の衣装棚の戸を万里がバンッ、と勢いよく開けた。

 中に入っていたのは、日本刀、薙刀、銃…などのメンバー達の武器だった。

万里「それに、コイツらも使ってやらないと可哀想ですし。」

榎璃「うん…まあ、やるんなら別に良いけど。」

鴻「ルールは麻酔銃で相手を眠らせたら勝ちだって。」

祥「なんで鴻がルール知ってんの?」

鴻「だって掲示板の紙に書いてあるんだもん」

万里「そうですよ。まあ、死なない程度なら怪我させてもいいんで。タイムミリットは4時まで。あ、ホール以外の部屋には入るのは無しで。」榎璃

「でも一人で三人倒すんでしょ?時間足りないんじゃない?」

万里「…誰もそんな事は言ってませんよ?」

祥「…え?じゃあ……」

鴻「祥達が三人で組めばいいんだよ」

祥「お前は?」

鴻「一人」

万里「…じゃあ、頼めますか?俺が一人をやろうと思ってたんですが…」

鴻「うん。楽しそうだからね」

榎璃「でも3対1で大丈夫なの?」

鴻「…榎璃ちゃん、私が学園にいたってこと忘れちゃった?」

 …そういえば、この双子は、……それなりの所で暮らしていた。

祥「でも、やっぱズルくない?」

鴻「じゃさ、私がトラップを仕掛けるってのはどう?」

万里「俺はそれでいいですよ。時間は2時からってことで。」

榎璃「異議なーし。」

祥「俺も。」



 そして、訓練が始まって50分。

 チームを組んだ三人は、バラバラに鴻を追い込んで一発KOを狙う…はずたったのだが、関心の鴻が出てこない。

 探しす間にも、鴻の仕掛けたトラップが発動して足止めを食らってしまう。

 それでも、三人はトラップと不意打ちに気をつけながらターゲット鴻を探していた。



 ―星宿館 4階5番廊下―


榎璃「ったく……どこなのよ!」

 榎璃は悪態をつきながら、弾丸が飛んできた方に走った。

 角を曲がったところで何かにぶつかった。

祥「っ!」

 …祥だった。

祥「ご、ごめん榎璃!」

榎璃「大丈夫。それより鴻は?」

祥「トラップの影にいたのを見つけて撃ったから、もう終わりだよ。」

榎璃「…さっき飛んできた麻酔針ってあんたが撃ったの?」

祥「いや、鴻が撃った。それより、万里を探さないと。あ、鴻はそこに置いといたから。」

榎璃「やるときはやるじゃん!じゃあ、あたしは鴻を起こすから、祥は万里を探してちょうだい。…にしても、ずいぶん走り回ったの?紙紐が取れちゃってるよ。」

祥「俺が起こすよ。だから榎璃は万里を―」

榎璃「いいからさ。早く探して―え?」

 榎璃は確かに、ぐったりと柱にもたれかかった鴻を見た。

 しかし、その人物の伸びた襟足は紙紐で結ってある―祥だった。

榎璃(じゃあ、あいつの紙紐がないのは元からで―)

鴻「くすっ。あーあ、バレちゃった。おやすみ、榎璃ちゃん。」

榎璃「っあんた!」

 『ぱすん』

 その音と同時に榎璃の意識は途切れた。



万里「…手の込んだことするなぁ。」

 万里はそのとき、一つ上の5階3番廊下のトラップを発動させてしまっていた。

 飛んでくる無数のナイフを、愛刀の『青麻』と得意の体術で次々と払い落としていく。

 その時。

榎璃『あんた!』

 下の階から榎璃の声が聞こえた。

万里「下か」

 万里が左側の壁をドンッと叩くと、あったはずの壁がぽっかりと消えて下へ降りる螺旋階段がその奥に現れた。

 階段を素早く降りて4階の3番廊下に出た万里は、周囲を警戒しながら声が聞こえた方―5番廊下へ走った。

 角を曲がった先には、床に倒れた榎璃と祥。

 そして、銃を片手に一人立つ鴻。

万里「見つけましたよ。」

鴻「あ、万里。う〜ん…最後に万里かぁ、失敗したなぁ。」

万里「何がです?」

鴻「私、万里に銃向けるって抵抗感があるんだよね。」

万里「残り10分。そんなこと言ってたら俺は倒せませんよ。」

鴻「ま、そうだよね。でも…」

 『ガダンッ』

万里「っ!」

 いきなり消えた足元の感覚がなくなり、すぐ下の階に落下する。

 うまく着地した万里が見上げると、空いた穴の上から鴻が首を覗かせてきた。

鴻「『引き分け』ってのもアリでしょう?」

万里「それも一つの選択かもしれないけど、俺は嫌ですね。」

 そう言った万里はタンッと軽く床を蹴ると、落ちてきた穴をくぐり抜けて再び鴻と対峙する。

鴻「うわぁ…。それってアリ?」

万里「もちろんですよ。」

鴻「やっぱ失敗だった、ねっ!」

万里「…くっ!」

 鴻が床に叩きつけた物が廊下いっぱいに煙を吐き出した。

万里(煙幕か…)

 しかし、もともと目が良い万里は、この煙幕の中でも十分視界を確保できている。

万里「鴻―!」

 この煙幕で逃げたであろう鴻を追おうとした万里が、何かに躓いて盛大に滑った。

万里「っ痛ぅ…!」

 万里が躓いたのは…

万里「榎璃!?」



 ちょうど万里が榎璃に躓いたのと同時刻ほど。

 鴻は1番廊下の突き当たりに置いてある、花瓶の陰に隠れていた。

 鴻の心拍数は、メトロノームよりも速くなっていた。きっと全力疾走のせいだ、と冷や汗を拭う。

鴻「まいた…かな?」

 声に出してみると、とたんに安堵感が出た。

鴻(榎璃ちゃんが大声出すとは思わなかったなぁ…。万里にも煙幕使っちゃったし…。)

 鴻も、鴻なりに反省点があるらしい。

鴻(やっぱり、万里にやってもらえばよかった…。)



 それから5分後。

 あの後も鴻を探していた万里だったが、結局鴻を捕まえられず、両チーム引き分けとなった。

榎璃「せこくない?!」

鴻「こういうのを戦法っていうんだよ、榎璃ちゃん。」

祥「わりぃ…。さっさと『槐』使えばよかった…。」

万里「前から気になったいたんですが、二人はどちらが強いんです?」

祥「基本的には、互角だな。前に二人で素手でやってみたら、2時間30分くらい続いて飽きてやめた。」

万里・榎璃(…化け物か、コイツらは………!)

榎璃「ってか、あんた、万里撃てたのに逃げたんでしょ?」

鴻「それは、まぁ、許可を得ているとはいえ、後が恐―……恩人に麻酔針打ち込むなんて、ねぇ。」

万里(だから俺がやるっていったのに……)

榎璃「あ・た・し・は・い・い・っ・て・の?!」

 榎璃はそういいながら鴻の後ろ襟を掴んで持ち上げる。

 しかし、猫のように持ち上げられた鴻の膝蹴りが丁度腹に当たったため、榎璃は倒れた。

万里「榎璃ーっ!?」

祥「鴻…腹はダメだよ。せめて普通のキックで首の付け根にしよ?」

鴻「うん…。でも、苦しまないようにちゃんとツボ狙ったよ?」

万里「それでもダメですっ!!」

 何はともあれ、鴻に蹴られた榎璃が丸2時間眠ったこと以外は、訓練は無事に終わった。




 ―深夜 星宿館―



 『ジリリリリリ…ジリリリリリ…』

 真夜中。

 星宿館の黒電話が鳴った。

鴻「はい、もしもし…こちら万屋『Silver Pendulum』です…。どちら様でしょうか…?」

 声・表情ともに今にも寝てしまいそうな鴻が応接間の電話を取った。

 

?「その声は…鴻か?」

鴻「っ?!」

 一瞬で目が覚めた。その声には聞き覚えがある。

鴻(こいつは…っ!)

 反射的に受話器を戻そうとすると、その相手が回線の向こうでストップをかけた。

?「だーーっ!!待てって!依頼だ!」

鴻「…依頼?私等を連れ戻すんじゃなくて?」

?「おう。まぁ、連れ戻す予定はあるが…今回は依頼だ。ってか俺のこと覚えてるよな?」

鴻「卯木うつぎでしょ?で、依頼内容は?」

卯木「せっかちだな。もう少し愛想好くしたらどうだ。」

鴻「……切っていい?」

卯木「悪かった。だから切るなよ?」

鴻「早くしてよ。こんな利にならない事で睡眠を邪魔されるのは気に食わないの。つーか今現在即刻切りたい気分なんだけど。」

卯木「わかったよ。仕事の内容は…もしかしたらお前らに有益かもしれないな。」

鴻「…は?」

卯木「ボスが何かするつもりらしくてな…。そのデータを盗ってきて欲しいんだ。」

鴻「そんなのあんたが出来るでしょう。」

卯木「いいじゃん。面倒くせぇし。勿論、報酬は払うぜ。15万pp。」

鴻「是非とも引き受けましょう!」

卯木「そう言うと思った…。さっきお前ん家の玄関先に報酬は放り込んどいたから。先払いだ。」

鴻「毎度…万屋『Silver Pendulum』をご利用、ありがとうございます。」

 卯木「他の二人も来るんだろ?万里と榎璃だっけ。確か佐藤と阿部の人間だよな…会ってみた―」

鴻「…なんで知ってるの?」

卯木「え?」

鴻「聞こえなかった?何でそれを知ってるのか、って聞いたんだけど。」

卯木「…組織をなめるなよ。」

鴻「…………………依頼は一週間以内に行う。データは門の隣の柱の中に入れておくから、自分で取りに来な。3メートルの柱の上なんて誰も見ないでしょ?」

卯木「よろしく頼む。それと、近いうちにボスがお前らを連れ戻すかどうか判断するそうだ。たぶん―一年以内に連れ戻しに行くと思う。」

鴻「……そう。でも、あの二人に被害を加えるようならあんたたち、潰すからね?」

卯木「好きにすればいい。」

 卯木がそう言うと、電話は切れた。

 鴻の耳に入って来るのは『ツー…ツー…ツー…』という無機質な音だけ。

鴻「祥……。」

 鴻の隣には、もう一つの受話器(館内盗聴用)を持った祥が立っている。

祥「あいつらか?」

 鴻がこくんと一つ頷く。

鴻「祥…どうしよう。」

祥「…明日、みんなに伝えよう。一部修正して、な。」

鴻「……うん。」







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