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「明海…、明海…待って!」
「ふん、待たない」
「でも明海、そっち原っぱに行く道じゃないよ?」
「……」
明海は振り返った。暗くてよく見えないが、きっと顔が赤くなっているだろう。
そして明海は…口を開き、つぶやいた。
「…バカ。」
「は?」
「……バカ。」
「………なんで?」
「…」
「じゃ、原っぱ行こ?」
明海に手を差し出すと、思いのほか素直に手をにぎってくれた。
そのまま歩き出すと、明海も歩いてくれる。
美音には今の明海の気持ちがなんとなくわかる気がした。美音にも似たようなことがあったから…。
明海は今きっと、すねている。
さっき母親と美音に子ども扱いされたからだろう。
自分だって大きくなった。もう11歳だよ、だから同じ扱いをして…。
と、いう感じだろう。
美音は広い道路のはじをかなり速いペースで歩いた。
ゆるやかに左に曲がっている道をそのまま進んだ。
「…ついた」
そうつぶやくと、50cmくらいの段差を飛び降りた。下はふかふかの草原だ。
「明海、ほら」
美音は上を向いて腕を広げた。明美はもうすぐ小5だが、段差を飛び越えられるほどの体力はついていない…はずだ。だから私がだっこを…
「どいて」
「え?いいの?」
「うん、おりれる」
言われるがままに、美音はどいた。
暗いのに大丈夫かな~…というのが美音の本音だ。
明海は軽くとんだ。そのままきれいに着地する。
「ふふん、ど~だ!」
「…明海、マジでどうしたの」
「一応陸上クラブですから」
そうか、忘れていた。明美は美音よりはるかに運動神経が良いのだ。
明海はそのまま、美音を置き去りにして走った。
「お兄ちゃ~ん!」
明海の声に反応するように、闇の奥でライトが点滅した。
明海と美音は、その光に向かってかけだした。