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☆
「明海~?」
2階には、直也の部屋、美音の部屋、明海の部屋、和子の部屋と大きな物置き部屋がある。
明海の部屋は2階の一番端っこ。
その隣に美音の部屋、直也の部屋…、と、兄妹の部屋は並んでいる。
「明海…自分の部屋にいるのかなぁ?」
2階の廊下は暗く、独り言がよく響き、美音はすこしゾッ…とした。
2階の奥まで来た。
『AKEMI』
ドアにプレートがかかっている。星型の木材が散りばめられたドアプレート。これは直也が作ってくれたものだ。もちろん、美音も直也も持っている。
美音は、コンコン…と、ドアをそっとノックした。
ドアの下のすきまから光がもれていない。明海の部屋に電気がついていないのだ。
「明海、いるのかな…」
美音が入るのをためらった時、風の音がした。
ヒュー…………、ゴウッ…………
誰かのささやきのように聞こえる。
「…部屋の窓、開いてるんだ…」
美音はそのままドアをそっとあけた。
ドアが開くと、暗い廊下と部屋がつながり、同じ空気が流れ始めた。
美音が部屋に入ると、風の音がやんだ。美音はキョロキョロ明海がいないか部屋を見回した。
すると…部屋の奥のベランダのほうから、明海が歩いてきた。さっきから風のつよいベランダに立っていたのだろう、明海の髪はぐちゃぐちゃだ。せっかくさっきシャワー浴びたのに。
「…あれっ、お姉ちゃん…?」
明海は、眠そうな目で美音を見つめた。
美音はさっきまでベランダで何をしていたのか明海に聞きたかったが、その感情を噛み砕いた。そして、そのかわりに、明海にこう伝えた。
「明海、いつもの原っぱに行くって、お兄ちゃんが。今からすぐ着替えて、行こう?」
すると明海は、大きな瞳を輝かせて、大きくうなずいた。
「やったぁ~!行く行く行く!オシャレして行くの!お姉ちゃん、あっち行ってて!」
「…はいはい。」
明海は最近「おしゃれ」に興味があるらしい。
でも明海はどうして急にそんなものに興味がわいたのか、美音にはわからない。きっと、明海にもわからないだろう。
美音は明海の部屋を出た。
「私も着替えようかな。」
小さくつぶやいて自分の部屋に入ると、自分の机がはっきり見えた。電気をつけていなくても見えるということは、暗闇に目が慣れたか、それとも―…
美音はふと、机の奥のベランダを見つめた。美しい満月のあやしい光に、危うく心を奪われそうになる。
―……ふうん、月の光ってこんなに明るいんだ。
美音はそう思ったが、ベランダに出ようとはせず、クローゼットに近寄った。
「どうせ原っぱだし…。」
美音はそうおもって、ジャージを着た。カーディガンも羽織った。
部屋から出る。
パタン…とドアが自然にしまる。
暗い廊下を歩く足音が頼りない。
「……明海……」
着替え終わったかな、という声が出なかった。