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「ふぅん、じゃぁ春休みは1カ月くらいしかないのね~。」
…その日の夕飯。
美音たちの母親の和子が、にこやかにご飯を盛っている。
「あ、うん。明海も同じだった気がする。……あれ?そーだったかな?そーいえば、明海だけ、まだランドセルだもんね~!!」
「ふんにゃぁ…ほはへはほほひふへぇ!」
「こら明海、口のなかにご飯が入ったまましゃべるなといっただろう?」
美音の家庭…つまり渡辺家にはお父さんがいない。だから、いつも直也がお父さん役をしている。自然にそうなってしまったのだ。
「あ、ごちそう様っ!」
明海が、まだご飯を食べ終わってないのに席を立った。
そして、ダイニングを出て横の階段をあがって2階に行く。
「…またか」
引きとめる間もなかった、と、直也はため息をついた。
ご飯を飲み込んでから、美音は口を開いた。
「いっつもこの時間だよね。…8時ごろ。いっつも2階で…何してるんだろ、明海。」
「部屋で勉強でもしてるんじゃないかしら。」
和子がのんびりという。直也と美音はそうかなぁ…と、心のなかでつぶやいた。
「美音、食べ終わったか?」
直也がふわりと笑いながらきいた。直也がこんな表情をするのは珍しい。
(こんな表情ってことは…また「あれ」かな?)
美音はそう思いながらも「うん」とうなずいた。
「そうか、じゃあ3人で外に行こう。いつもの原っぱな。明海を呼んできてくれ。僕は先に準備しておくから。」
「あ、うん!」
美音が笑いながら大きくうなずくと、直也もかるく笑いながら美音の頭をなでた。
そのまま直也は玄関に歩いた。
「行ってくる」
和子は気に留めない様子で、「行ってらっしゃい!」と言った。
「んじゃ、私もごちそう様!…あ、あとでお皿洗うよ!」
美音はそう言って、笑顔を見せた。
「いいって。はやく明海を呼んできたら?お兄ちゃん待ってると思うわよ。…原っぱで?」
和子もそう言って、笑った。
「…あ、そっか。そうだね!じゃぁ明海呼んでくる!」
美音はそう言い終わらないうちに階段を上がり始めた。