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人が思い、教えてくれること

作者: 久川智子

ある人は思う。

青く澄み渡る空、潮風が吹くと心地良く感じるものが、地上はそれらと比例して悲惨な光景が広がっていた。瓦礫の山、散乱する家や車、埃と泥の異臭がして、静かで平和だった街並みが一変していた。

絶望に打ちひしがれる、ただ立ち尽くすことしかできなくて涙がでてこない。

ただ、生きていることが奇跡だと思わせて、有り難味を感じていた。

どうすれば、希望をもち生きていくことができるだろうか。なにかも失って残ったのは自分の身ひとつ。


ある人は思う。

悲惨な映像をみた。わが事のように身が震えた。自分にできることをしようと思った。なにもできないはずはないと、自分に言い聞かせた。少しでも動くことができたのなら、それで良しとしようとした。

明日はわが身。何かを失ったわけじゃない。しかし、自分の中で何かが壊れた気がした。

震えたこころを平穏に戻すにはどうしたらいいのだろう。何不自由ない自分自身がここにいるというのに。


ある人は思う。

生きててくれたら、それでいい。生き延びてくれてたら、いつか希望にであう。苦しんでいるのはあなたひとりだけではないから、一人苦しまないで欲しいと。頑張らないでほしい。自分で自分を苦しめないで欲しい。

この思いは日増しに強くなり、伝えたくても伝えられない思いをどうしたらいいのだろうと考える。

あなたを思っているわたしがここにいるから、こころが苦しくなってしまう。


ある人は思う。

失ったものはたくさんあるかもしれないけど、大切なものは失わないでほしい。思いやる気持ち、敬う気持ち、かばってあげる気持ち、人として生きていくのに大切なものだから、失わないでほしい。そして、自分を大事にする気持ち。生きていることが素敵なことだと感じていてほしいから、自分のことは大事にしてほしい。自分をないがしろにしてまで、他人を思うことには通じないから。


その思いは教えてくれる。

思っていれば伝わる。言葉を発していれば伝わる。そして、その伝わりが束のように強くなって、相手を守ってくれる。伝わった相手は応えてくれる。思いあっていれば、呼応していれば、こころが守られていく。多くの人があなたを思っているから、あなたは安心していられる。あなたのこころが守られていることを知ることができれば、思っている人たちのこころが守られていく。

思いはいつか必ず伝わると信じていれば、あなたに届く。そして、あなたのこころは守られる。

あなたの笑顔がわたしに届いたのなら、わたしのこころは強くなる。

その思いが教えてくれる。思いあっていれば、こころは守られる。

「当たり前の日常が幸せだったんだ。」

小学生か中学生の女の子が語った言葉でした。

その言葉に応えて、わたしは文章を綴ってみました。


阪神大震災を経験したといっても、さほど失ったものはありませんでした。

なにもないことが幸せであると、実感できるのは、なかなかありません。

なにもないからこそ、強くなれないこともあります。

守ってあげたい、強くなってほしい、そして、一刻も早く、復興してほしい。

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