セブンス・ワンダー
相変わらずスターシステムを採用しております
お楽しみいただければ幸いです
「ビィ!!!」
「をわっ」
僕は思わず飛び上がった
「驚かすなよ!」
僕がそういうと西村は笑った
「悪い悪い、まさかそんなに驚くとは思わなかったわ」
「ったく、ほら開いたぜ」
「よーし入るか、えーと教室の方向はっと・・・暗くてわからん」
「ん、懐中電灯」
「おう、気がきくな」
「いや、あれだけ忘れるなって念を押したろ」
「そだっけか」
はあ・・・
僕らは今深夜の学校にいる
高校最後の夏に肝試しでもしようって話
ありがちだけど、僕も含めてみんな盛り上がっちゃって
それで今から学校の7不思議を巡るわけ
12時に教室で待ち合わせの予定だ
今は11時50分
5分前集合には間に合いそうだ
おっと忘れてた、僕の名前は中島田熊
そして、こいつの名前は西村美野流
クラス委員長だ
このクラス委員長が夜の学校に不法侵入しようだなんて言い出したんだから笑えるよ
ちなみに、普通の高校なら防犯装置があるのは当たり前だけど
この学校は来年廃校になるような過疎校だからそんなものはないわけ
「おーみんなもういるみたいだぜ」
西村はそういうとかすかに明かりの洩れている教室のドアを開けた
「よっ」
今挨拶をしてきたこいつは薄井直哉
いつもマスクをしている変わり者だ
僕は薄井をシカトするとメンバーを確認した
「ったく、待ちくたびれたわ」
今文句を言ってきた天パは中村希、親友だ
「今日は夜食抜きか・・・やっぱやめとけばよかったぜ・・・」
このデブは直木太志、いつも何かを食っている
「今連絡があったんだけど森間はこれないみたいだよ」
こいつは高山剣、大人しいやつだ
「えー!森間はいないアルか!」
このテンションの高い中国人はカン・チャン、留学生だ
「びびったんじゃね?」
直木がチョコを食いながら言った
しかしその疑問は高山の一言ですぐに解決された
「森間のやつ来る途中に警察に補導されたみたいでさ、今警察署らしいよ」
「さて、それじゃあ七不思議をおさらいするか」
希はそう言うとメモを取り出した
「えーと・・・」
・音楽室の光るピアノ
・科学室の割れる人体模型
・13段目の階段
・屋上から飛び降りる人体模型
・3階女子トイレの鼻子さん
・校庭をうさぎ跳びする人体模型
・体育館で独りでにスピンするボール
「どこから突っ込んでいいのやら・・・」
「人体模型ネタ多くね?」
「そもそもまともなのがねーじゃん」
「じゃあ俺は女子トイレ担当で」
みんな言いたい放題だ
それもそのはずだ
僕も内容は聞かされていなかったけどこんなに酷いとは・・・
「そもそもアル」
みんなはカンに視線を向けた
「2人1組でこれを回る予定だったのに森間がいないから組めないアル」
みんなは再び唸った
「誰かが1人で回ればいいじゃん」
希が言った
ったく、自分はビビりのくせに
こんな深夜の学校を1人で歩きたい物好きなんて
「やるアル!」
いた
「おーし、決まり!後はどこに誰が行くかだな」
西村はそう言うとくじを取り出した
こういうものはしっかりと用意するのね
組み合わせはこうだ
僕と希ペアが音楽室の光るピアノ
薄井と直木ペアが科学室の人体模型
西村と高山ペアが13階段
カンが体育館
人体模型はこの学校には1体しかないので同時にいっても無駄だろうということで他は保留
「じゃーはい、行った証拠に写真撮ってきてね」
高山はそういうと笑顔で使い捨てカメラを差し出した
「お・・・おいおい・・・」
希が青ざめて受け取る
いよいよ出発だ
「そろそろ行こうか」
僕は希に声をかけた
「ちょっと待って腹が・・・イテテ」
希はそう言うとしゃがみこんだ
みんなは次々と教室を後にしていく
「怖いの?」
僕は笑いをこらえて希に尋ねた
「ばっ馬鹿言え!さっき食った泥で腹くだした・・・」
もはや言い訳にすらなっていない
「ほら行くぞ!」
僕はそういうと希を無理やり連れ出した
「ィャァァァアアアアア・・・」
希の悲痛な叫びが漆黒の闇に木霊した
「えーっと音楽室はこっちだっけか」
そういって歩き出す希の襟首をがっちりと掴む
「そっちは校門」
「マジで行くのかよ・・・ちょっ離れんな!」
「嫌ならここで待っててよ」
「行きます・・・」
こんなことを話しながら僕らは音楽室へ向かった
音楽室は校舎が別になっているので外に出ないといけない
「あー俺実は狼男で月見ると・・・」
僕は希をシカトして歩き出す
「ちょっウソウソ待って!」
音楽室のある建物は一階が科学室だ
もう薄井と直木は中にいるらしく窓からほんのりと明かりが漏れている
「さて、カメラは希が頼むよ」
「お、おう」
僕らは階段を上ると音楽室の扉に手をかけた
そっと開ける
昼間はピアノの音やらで賑やかな音楽室だが夜は静寂が支配している
危うくその雰囲気に飲まれそうになるが我に返ると希にシャッターを促した
「ねえ、どうせだからツーショットで撮ろうよ」
「え、ここから撮ればいいじゃん」
どうやら希は音楽室の中に入りたくないらしい
「じゃあ1人で撮ってくるから待ってて」
「行きます・・・」
希はそういうと恐る恐る音楽室に足を踏み入れた
「この辺でいいかな」
希は机の上にカメラを置くとタイマーをセットした
黒板とピアノを背に僕と希のツーショットだ
ジー・・・パチャ!
「よし、さっさと帰るぞ!」
希が駆け足でカメラを回収する
「うーん・・・」
「まだ何か!?」
「いや七不思議、ピアノ光るんじゃなかった?」
「そういえば・・・」
しばしの沈黙が訪れた
「何だよ!嘘かよ!最初からおかしいと思ったんだよ!」
希が一気に元気になる
「あの七不思議なんなの?」
僕が尋ねると希が言った
「あああれね、下岡に聞いたんだよ」
下岡は僕たちの担任だ
アイツが情報源となると途端に信憑性がなくなるな
「なーんだ、期待しちゃったじゃん」
僕はそういうとピアノに寄りかかった
ポーーーーーン
思わず飛び上がる
うっかり鍵盤を押してしまったらしい
「び、びっくりした・・・」
僕は恥ずかしそうに希を見た
倒れている
「きっ希!?」
気絶してる
「まったく・・・」
僕は取りあえず電気を点けようとスイッチを押した
パチッ
「ん?」
パチッ
「あら?」
夜は電源入ってないのか?
電気がつかない
僕は希を見た
運べそうにはないな・・・
その時ふと辺りが明るくなった
「おっ今さらかよこのオンボロ校舎・・・」
そういって振り返った僕の目に入ったのはほんのりと光るピアノだった
そしてその傍らに佇む・・・
「もう駄目だ・・・」
そういうとオレは倒れこんだ
「おいおい、どうした?」
薄井が手を差し伸べるがシカトした
「腹減った・・・」
「さっきお菓子食ってたろ!」
「足りるかよ・・・食パンくりぬいてハチミツためて飲みほしてえ・・・」
呆れ顔の薄井はさっさと歩きだした
「おおい、待てよー」
慌てて追いかける
「ちょっと宿直室にいって腹ごしらえしてくるから先行っててくれ」
「わかったよ、早くしろよ」
そういうと俺は薄井と別れた
ん?
宿直室に近づくにつれ香ばしい香りが鼻をついた
ほう、チキンラーメンか
夜食としては王道だな
醤油の香りに乗ってネギの香りが漂う
ネギ乗せか、それと卵にコショウ、粉チーズ・・・
なかなかアレンジの利いた食べ方だ
オレは宿直室に辿りつくとそっと中を覗いた
今は誰もいないようだ
ラーメンの様子を見る限りではすでに4分は経過していると見た
固ゆで派の俺としては少々残念だがこの際は仕方がない
オレはどんぶりからラップを剥がすと勢いよくスープをすすり込んだ!
香ばしい醤油にプラスされたネギの香りが程良いアクセントとなり俺の食道を駆け巡る!
そして飲みほした後はこってりとしたチーズの風味が口の中で遊びまわる!
しかしその風味を楽しんでいる時間はない!
オレはさらに勢いよく麺を吸い込んだ!
ほどよく半熟になっている卵の黄身がスープと共に口の中に広がり言葉では説明できないような絶妙なハーモニーを奏でる!
ふう・・・少々伸びた麺も悪くないな
そんなことを考えながらコショウの残り香に思いを馳せていたオレだが近づいてくる足音が耳に入り我に返った
!!
早くここを脱出しないと!
ここに来るまであと5メートル・・・4メートル・・・
ダメだ間に合わない!
オレはとっさに部屋の中に合った掃除ロッカーの中に隠れこんだ
「ふぃ~スッキリしたぁ~」
扉の隙間から室内を伺う
あいつは・・・下岡
宿直は教師が当番で回していると聞いたことがあるが今日は下岡だったのか
「さてさて、俺のチキンちゃ~・・・ん!?」
下岡が硬直する
「な・・・え?」
絶体絶命とはこのことか
観念して外に出るべきか隠れ続けるかの選択にオレは葛藤していた
「ま・・・まさか七不思議の人体模型!?」
え?
「噂は本当だったのか・・・お、俺のラーメンを・・・」
見る見るうちに下岡の顔面が漂白されていく
ガタッ
「!?」
しまった!
膝を扉にぶつけてしまった
恐る恐る下岡の様子を伺うとこちらを見つめている
「まさか・・・」
下岡がロッカーに手をかける
ええい!やけくそだ!
オレは勢いよく扉を開け放った
「すいませ・・・」
「びぇぇ・・・」
下岡はそう言うと白目を向いて気絶した
オレはビビって気絶した下岡にしばらく唖然としていたが我に返ると科学室へ向かった
科学室へ着くと薄井が人体模型を撫でまわしていた
「なにやってん」
オレが声をかけると薄井は少し驚いたようだった
「いっいや暇だからさ、カメラ持ってるのお前じゃん」
「そういやそうだったな、すまんすまん」
オレはそう言うと人体模型と薄井、科学室内をまんべんなくフィルムに収めた
「割れた人体模型か、割れてないし別に怖くないよなあ」
俺らはそう言うと科学室を後にした
「そういやここのニ階って音楽室だよな?」
薄井が階段を指差す
「そう言えば田熊と希が音楽室だったか?」
オレがそう言って階段に踏み入れた瞬間だった
音楽室から響いたピアノの音が静寂を切り裂いた
薄井が飛び上がりオレは階段を踏み外した
「な、何やってん、あいつら」
オレはそういうと再び階段を上り音楽室のドアに手をかけた
息を飲むとオレはドアを開け放った
懐中電灯で室内を照らす
そこには・・・
「い、いやあ」
僕は申し訳なさそうに頭をかいた
ピアノの横には直木と薄井がいた
ピアノが光ったように見えたのは直木の懐中電灯の光が反射してそう見えただけのようだ
入口のすぐ横にピアノがあるもんだからこんなことに
もちろん幽霊のように見えた人影も直木だ
あんな太い幽霊がいてたまるか
ビビった自分が情けないよ
「で、こいつは?」
直木が希を指差す
「ああ、ビビって気絶しちゃったみたい」
「はっ情けないな!」
薄井が笑う、ごもっともだ
「さて、写真は撮ったな?教室に戻るぞ」
直木はそう言うと希を背負った
「結局ここと科学室は何もなかったなあ」
僕らはそんな事を話しながら教室へと向かった
「なあ」
西村が言った
「何?」
ボクは警戒しながら懐中電灯で辺りを照らしていた
「13階段っていってもさ、学校のどこの階段よ?」
「え?知らないの?」
「うん」
ボクは絶句した
肝心なことを聞き忘れていた
「どうしよう・・・」
ボクは涙目で西村を見つめた
「しょうがないから、違うとこ行くか」
「そだね・・・どこにしようか」
「じゃあ鼻子で」
「ボクら男子だけど大丈夫かな?」
「問題ない、むしろ大歓迎だ」
何が歓迎なのかわからないけど僕らは3階へと向かった
ここが問題の女子トイレか
ボクは恐る恐る中を覗き込んだ
「ふんふん」
そんなボクを尻目に西村は平然と女子トイレへと入っていく
「早く来いよ、懐中電灯がないとよく見えないだろ」
「あ、うん」
ボクはそう言うと西村に続いた
「ほう、こんな風になっているのか」
西村がまじまじとトイレ内を見回す
「ほっほら、早く写真撮って帰ろうよ」
「おう、そうだな」
そういうと西村は辺りをカメラに収めた
「あれ?」
その時ボクはあることに気がついた
「ねえ、西村」
「何だ?」
「あれ・・・」
ボクはそう言って一番奥の個室を指差した
「あれって何?」
西村は気づいていないようだ
「何で一番奥の個室だけ扉しまってるの?」
「しるかよ、掃除用具でも・・・」
ガタッ
西村がそう言いかけた時だった
その個室の中から物音がした
ボクたちは見つめ合った
そしてしばしの沈黙が訪れた
「いくぞ・・・」
西村はそう言うと音も立てずにその個室の隣の個室へと入って行った
「ちょと!待って!」
ボクも慌てて個室へと入る
ガチャッ
外では隣の個室のドアが開く音がした
ボクは息を殺して縮んでいたが西村は違った
西村は便器の上に乗ると背伸びをして外の様子を恐る恐ると伺った
音で分かるが鼻子さんは今手を洗っているようだった
残念ながら位置的には顔は見えないと思うけど
西村の顔を見ると目を見開いて硬直していた
そして足音はトイレの外へ出ると遠ざかって行った
「だっ大丈夫?」
ボクが西村を揺さぶると西村は我に返ったように崩れ落ちた
「鼻子は男だった・・・そして今も探しているんだ・・・」
「え?」
「お前も鼻子の噂は聞いたことがあるだろ?あれは性別が逆だったんだ」
ボクはいじめられっこの鼻子さんがトイレで自殺をして
今もいじめっこを探しているという噂話を思い出した
「聞こえなかったか?鼻夫が口ずさんでいた名前・・・」
ゴクリ・・・
ボクは思わず息をのんだ
「その名前は・・・?」
「チキンちゃん・・・」
「はて、体育館はどこにあるアル?」
どうやら道に迷ってしまったみたいアル
「えーとここか・・・ってプールアル!」
うーん、暗いから道が良くわからないアルね
しょうがないアル、とりあえず校舎に戻るアルか
ってあれ?ここはどこアルか?
「離せー!!!俺は帰るんだー!!!」
天パが校門前で叫んでいる
「落ちつけよ、驚かしたのは悪かったって」
僕は必死に希に謝った
わざとじゃないのに何でこんなに謝らなきゃならないんだ
「鼻夫がうろついてるかもしれないんだぞ!」
「まーまー」
西村もなだめる
「せめてカンが帰ってくるまで待てって」
薄井がそう言うと直木が言った
「じゃあこうしよう、カンが帰ってくるまで待とう」
「そうだな、って俺言ったじゃん!」
「今朝のタロット占いの結果が不吉だったから来たくないって言ったのに・・・」
希がうつむく
「ん?あれは?」
すると高山が校舎の上を指差した
「あれって・・・ん?」
皆の視線の先には屋上の淵に立っている人影があった
「お、おい・・・あれって・・・」
希が青ざめる
「屋上から・・・飛び降りる・・・人体・・・」
僕が言いきる前にその影は宙に浮いた
そして真っ逆さまに落下していった
「危ない!」
直木が薄井を殴りとばす
バカン!!
ベニヤ板をたたき割ったような乾いた音があたりに響いた
僕は薄井から10mほど離れた場所に落ちた何かの元へ駆け寄った
「こっこれは・・・」
それはみんなの想像通りだった
そして一番そこにあってほしくないものでもあった
「人体模型・・・」
高山が呟く
「こんなに粉々になっちゃって・・・割れる人体模型ってこのこと?」
西村が1人冷静に分析している
「割れたというよりは砕けたって感じだけど・・・」
僕はそう言うと希に向き直った
「確かにこれは帰ったほうがいいかも・・・」
そこにはうつ伏せに倒れた希がいた
またか・・・
「どうやら七不思議には本物も混ざっているらしいな」
直木が引きつった顔で言った
「カンが・・・危ない!」
僕らはそう言うと体育館へと駆け出した
「ん・・・ここは・・・?」
目を開けると微かに醤油の香ばしい匂いが漂ってきた
確かトイレに行った後チキンラーメンを食べようとして・・・
はっ!
私は慌てて飛び起きた
「人体模型!どこだ!?」
にわかに信じがたい話かもしれないが、この宿直室の私のラーメンを人体模型が食べてしまったのだ
おまけにロッカーの中から飛び出してきて・・・
どうやら私は奴の魔力か何かで気絶させられていたらしい
私の名前は下岡好痔
この白鳩高校の教員だ
担当はイングリッシュ・・・英語だ
私の授業は分かりやすいと生徒の中で密かに評判らしく、生徒たちはいつも授業を大人しく真面目に聞いてくれている
そんな生徒のことを常に思いやり、尽くしているこの私に立てつくとはどうやら人体模型には体罰が必要らしい
私はロッカーの中からホウキを取り出すと構えた
奴は科学室にいるはずだ
それから私は耳と感覚を研ぎ澄まし科学室へと向かった
「やはりな・・・」
誰かが侵入した形跡がある
人体模型が動くという噂は本当だったのか
今さらだが気味が悪いな・・・
やっぱり帰ろうか・・・
いやでも奴は私の夜食を・・・
私は息を殺すとドアに耳を当てた
中から物音はしない
今だ!
私はドアを勢いよく開け放つと人体模型へ向かって疾走した
そして奴の頭にホウキを振り下ろした!
「ファッキン!!」
バキッ!
想定外の音と共に頭に激痛が走る
「もげっ」
思わず悲痛のシャウトが漏れる
見るとホウキが折れて私の頭に跳ね返ってきているではないか
「シット・・・カモン!」
私はそういうと人体模型を担いで歩き出した
こいつには制裁を加える必要がある!
それからの道のりはとても長く感じた
それもそうだ
こんな気味の悪い物を担いで歩いているのだから
「ふうう・・・」
私はやっとの思いで人体模型を運び終えると息をついた
やはり屋上は風が気持ちいい
ホウキではダメだったがここから落とせばこいつもひとたまりも無いだろう
私は人体模型を屋上の淵へ乗せるとそっと肩を押した
そして私は指を鳴らしキメ台詞を吐いた
「スイートゥ・ドリームス」(ネンネしな)
バカン!!
「いたか!?」
西村が叫ぶ
「いない!」
僕はそう答えるとしゃがみこんだ
くそ、カンの奴どこに行ってしまったんだ
体育館周辺をくまなく探してもまったく見当たらない
まさかもうすでにカンの奴・・・
頼む!無事でいてくれ!
「甘いメロディ♪風に乗れば今夜♪秘密めいた~♪扉がどこかで開くよ~♪」
う~ん今日はノドの調子がいいアルね~
それにしても体育館は一体どこにあるアル?
ん?
何やらあっちで沢山の明かりがチカチカしてるアル
行ってみるアル
「あ!カン!」
薄井が叫ぶ
「カンだって!?」
みんなが薄井の視線の先を追う
「いや~何かと思ったらみんなの懐中電灯の灯りアルか」
カンは僕たちの心配など知らずに相変わらずのマイペースだ
「ったくどこ行ってたんだ!」
直木が怒鳴る
「いや~道に迷ったアル」
カンが頭を掻きながら申し訳なさそうにする
まったく、どれだけ探したと思ってんだ
「何かおかしなことはなかったか?」
「ないアルよ」
ボクの質問にカンはあっさりと答えた
「じゃ、さっそく体育館に入るアルね!」
カンはそういうと俺らの背後にそびえ立つ体育館に歩みだした
「ちっちょっとまったあ!」
希がすかさずストップをかける
「なにアルか?」
カンが歩みを止めずに答える
「いやもうこの学校何かヤバいから中止になったんだよ、帰ろう!」
希が必死に説得する
「みんなだけ面白いものみてズルイアル!そうはさせないアル!」
カンはそう言うと体育館の扉に手をかけた
「体育館のカギは職員室に置きっぱなしだから安心しろ」
薄井はそう言って希の肩に手を置いた
ガラッ
「うひゃ~暗いアル~」
「んれ?」
薄井の間抜けな声が闇に木霊する
「みんな早くくるアルよ~」
カンはそういうと1人体育館へと消えていった
「1人で行かせるわけにもいかないだろう」
西村と直木、薄井はそういうと後に続いた
「しょうがない、行くか」
僕もそれに続くと1人外に取り残されることに慌てた希はしぶしぶついてきた
「暗くて何も見えないぜ」
西村が言った
「それに何もないみたい」
高山がずかずかと足を踏み入れる
「んだよ、期待してたってのによお」
希が調子に乗った瞬間だった
ドムッドムッ
ビクッ
ボールの弾む音を聞いた僕たちは思わず飛び上がった
「今の・・・」
直木が青ざめた顔でみんなに聞いた
「あ、ああ・・・」
薄井が返事をするがその声は震えているようだった
希を見ると白目を向いて直立していた
ドムッドムッ
僕たちは再び聞こえてきた音のするほうを恐る恐る振り向いた
そこには
弾んでいるボールがあった
そして
その傍らには僕たち以外の
人影があった
「ぱっ・・・ぱああああああああああああ」
希はそう叫ぶと体育館から飛び出した
希の絶叫が暗闇を引き裂くと同時に僕たちはまるで糸が切れたかのように恐怖に煽られ全員走り出した
「まっまじかよ!どうすんだよ!逃げるよ!」
直木が汗だくになりながら自問自答している
「なんかやばい感じがするアル・・・」
さすがのカンも動揺を隠せないようだった
「もう、限界かも・・・さすがにもう・・・」
そう言って立ち止まり振り向いた高山は目を見開き絶叫した
「っふぉああああああ!!」
後ろからもの凄い勢いで僕たちを追ってくる人影があったのだ
「うわあああああああああ!!!」
僕も叫ぶと無我夢中で走った
気がつくと僕たちは学校からそう遠くない駅にいた
もちろんこんな時間に電車が走っているわけがない
しかし、人影もさすがに学校の外までは追ってこないようだった
「あいつは・・・一体・・・」
薄井が息を切らせながら呟いた
「多分人体模型だろ」
西村が言った
「俺もうこの学校嫌・・・転校したい・・・」
希が涙目で訴える
「親に言え、もうクタクタだぜ」
直木はそう言うとマヨネーズとケチャップを取り出すと交互に吸い始めた
「とりあえず、今日はもう解散するアル、このことはくれぐれも内密にアル」
みんなはカンの言葉に無言で頷くと各自家へと帰って行った
僕は希がどうしてもと言うので家まで送り届けてからの帰宅になった
「ふう、いいワークをしたぜ」
私は憎き人体模型をブレイクし終えると再びハングリーな気分になった
「空腹を紛らわせるにはやはりボディをムーブさせるのが一番だ」
そう思い立った私は職員室へ向かうと体育館のキーを入手し体育館へと向かった
夜の学校を自由に使えるのは宿直の特権だ
体育館へ向かう私の足取りは軽かった
「さて、まずは肩慣らしにラグビーでもするか」
私は暗闇の中ラグビーボールを見つけるとそれをそのまま抱え体育館の中を走りだした
え?なぜ暗闇なのかって?
校長や他の教師に見つかったら面倒なことになるからな
それはさておき、私の青春はラグビーだった
この男らしいマッスルでストロングな肉体はラグビーが授けてくれたと言っても過言ではない
体育教師になるべきだったって?
ザッツライ、たしかに
君の言いたいことはよーくアイキャンアンダースタン
バット、運動ができてしかも頭もいいほうがクールだとは思わないかい?
運動神経はもちろん頭脳も優れているってことを証明したかったのさ
私がパーフェクトな自分に酔っていたその瞬間だった
体育館のドアが静かにオープンした
「びぇ・・・」
私はゴーストが現れたと思いその場に腰を抜かした
続々と入ってくる人影
「こっここはゴーストの集会所だったのか・・・!」
私はあまりの出来事に思わずボールを離してしまっていた
「のぁっ」
ドムッドムッ
私は慌ててボールを追いかけるとそれを拾おうとしてうっかり蹴り飛ばしてしまった
ドムッドムッ
再び体育館にボールの弾む音が響き渡る
しまった!
終わった、そう思った時だった
ゴーストたちが絶叫すると次々と体育館を飛び出したのだ
その瞬間私のスイッチが入った
無意識のうちにボールを抱えるとそのままゴーストたちの後を追いかけたのだ
タックルでもかまして退治しようとでもしたのだろうか
とにかくそのときの私は必死だった
たとえるなら決勝戦試合終了数秒前という感じか
補欠だったからよくわからないが
気がつくとゴーストは消え
私は校門にボールを蹴り入れゴールを決めていた
私はなんとも言えない達成感に浸りながら汗をぬぐった
それから宿直室へ戻り清々しい気分で眠りに就いた
翌日
「よっ」
教室に入ると薄井が挨拶をしてきたがそれをシカトすると僕は席に着いた
いつも通りいつものメンバーで会話をしていたが昨日のことは誰も話題にしなかった
それもそうか
遊び半分で肝試しに行ってしかもそのほとんどが本当だったってんだから
ネタにして呪われたくない、そんなことをみんな思っているのだろう
ガチャッ
担任の下岡が教室に入ってきた
「グッモーニンエブリワン、今日はベリーインポータントな話がある」
下岡が深刻な顔つきで話し出した
「今朝私が校門近くで粉々になった人体模型を見つけた、心あたりのある奴はあとで職員室にカムヒアー」
僕たち、つまり昨日学校に忍び込んだメンバーは顔を見合わせた
僕は挙手をすると下岡に質問した
「昨日の宿直の先生に聞けば何かわか・・・」
「私語は慎めサノバビッチ!!!」
下岡は僕の発言を途中で遮るとそのまま教室を出て行った
「昨日の宿直は下岡だぜ、どうせサボってて何も知らないんだろ」
直木が言った
「それと、これ」
直木が差し出したのは写真だった
「昨日のやつか」
薄井が寄ってきた
「俺らの写真には何も写ってなかったぜ」
西村が笑みを浮かべた
「僕もだよ」
僕は言った
「ちょ、え」
直木が差し出した写真を見ている高山の顔がみるみる青ざめていった
「えー何アル・・・」
覗き込んだカンも思わず絶句した
希は絶対に見まいと寝たふりだ
「僕にも見してよ」
僕はそう言うと高山が差し出した写真を受け取った
END