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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

紅き校舎

掲載日:2026/07/06

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 どのような日であっても、必ずやってくるものといったら日の出と日の入りといえるでしょう。

 白夜、極夜の人にとっては笑わせんなかもですが、たいていの人にとっては1日のはじまりであり、終わりのタイミングでもあります。明かりを確保しづらい環境であれば、お仕事を区切るによい頃合いでもありましょう。

 区切ることを約束された時間。なんだか、特別な香りがしませんか、つぶらやさん?

 あらゆることをしでかせる可能性を、たったひとつのために集めて、作りだした時間ですよ。結果的に他愛ないことで終わったとしても、そこにはすごい力が働いているかも……なんて考えたりできませんか?

 そうなると学校とか仕事場とか、みんなが時間を結集して活動するところって、怖いですよねえ。無数の可能性を溜め込んだパワースポットみたいなものですから。なにか不思議なうわさがささやかれるのも、無理ないと思っているんです。

 わたしの学校での話なのですけれど、聞いてみませんか?


「日の紅いときに、校舎のトイレを使うな」


 かつて、そのように先輩から教えられたことがあります。

 他の友達も似たような経路で耳にして、学校中のほぼみんながこのことを共有していました。

 想像するに、夕方ごろの話でしょう。実際、先輩たちもそのようなケースのときを考えているようでしたね。

 夕陽が校舎に差し込む時間帯に、学校のトイレを使うべきではない。なぜなら、そのときは「光」がトイレを使う時間であるからだ、と。

 昼間に利用していた人が少なくなり、他のものがようやく好きに使えるようになるタイミング。その邪魔をすることは機嫌を損ねることであり、何をされるか分からない。

 そのように言われてきたんですね。当時はけっこう迷信深い性格でしたから、その手の言いつけはしっかりと守るタイプ。他の人がやるぶんにはともかく、自分はそうならないようにしないと……と強く思っていました。


 ですから部活動の帰りがけに、友達がどうしてもトイレに行きたいから、待っててくれといわれたときは、ちょっと嫌な顔をしましたよ。

 先輩の話していた夕方へ、今まさに差し掛かろうとしていた時間でしたから。友達としては家までどうしても持ちそうにない、ということで、私にカバンを預けてトイレへ直行。

 わたしはその子の後を追いかけたんですが、すさまじい速さで。トイレに通じる曲がり角のところで見失ってしまったんですよ。

 でも、気配までは隠せない。トイレの入り口から奥へ物音が遠ざかっていくのは分かりましたし、ここで待機しようと思ったんです。

 しかし、窓から入ってくる陽の光がにわかに熱を強めた気がして、わたしはふと振り返ってしまいます。


 山へ半分ほど身を沈めようとしていた太陽。そこから放たれる光は、たいていの日で見るような橙色ではありませんでした。

 開いた花の花弁を思わせる、真っ赤な色合いで、窓からリノリウムの廊下たちを照らし出します。明らかに、まずい状況ですがトイレ中に声をかけるのもどうかと思い、ひたすらに待ちの一手でした。

 早くトイレから出てこないものかと、足をトントンと踏み鳴らしかけたところで。


「よ!」


 トイレと反対側から、肩を叩かれました。

 あの友達です。「早く帰ろうぜ」と、わたしが持っていた荷物をひょいと取り上げたのですが、にわかには信じられません。

 わたしが彼を見失っていたのは、ほんの数秒。ここ以外の別のトイレに移動するのに、私の視界から逃れるスキはないはずなのに、どうして?

 すると彼はトイレ奥を指差し、「驚かせようとして、ひとつ上へ上った」などと言い出す始末でした。


 普段から奇行が目立っていましたし、やりかねないのが困りもの。

 わたしは確認のため、しぶしぶ男子トイレに入り、奥の窓から上を見上げてみます。

 ここのすぐ上もまたトイレ。足を滑らせなければ登れますが、滑らせたなら一大事。その校舎の壁面には、彼がよじ登ったときにつけたと思しき、水の点がいくつかと。

 本当にやりかねない……と思いかけたところで、彼はというと「はやく、はやく」とこちらを促してきます。

 下校時間ももう間近。私もまた足早にトイレから出ると、先行する彼を追いかけて下駄箱へ。靴を履き直したときにはもう、グラウンドを横切ろうとしていました。

 私の方もまともに見ない突っ走り具合。彼であればなくもないのですが……ちょっと私の勘がうずきましたね。

 いくらなんでも、一緒に帰ろうと誘った私のことが眼中になさすぎると。


 私はトイレへとって返しました。

 彼を待っていたほうではなく、上っていったと話していたフロアのトイレへです。

 そしたら、いたんですよ彼が。あの荷物を持ってグラウンドを突っ走っていったはずの彼が。トイレの床で倒れて、気を失っていたんです。

 声をかけたら、すぐに意識を取り戻してくれましたが、いったい何があったのかに関しては詳しくは分かりません。ただ用を足して、いざ戻ろうとしたところで後頭部を強く殴られてしまい、それっきりだったとか。

 私はことの次第を話すも、最初は首をかしげられました。無理もないと思います。

 けれども、彼の荷物がグラウンドを出る直前の校門前に転がっていたこと。そこに真っ赤な水たまりが広がっているのを見ると、黙っちゃいましたけどね。


 その赤も、血とかじゃありません。もっとさらさらして臭いもなく、私たちがたどり着いてからほどなく土へ溶け込んじゃいました。

 校舎に差し込んでいた紅と、よく似た色合いをしていましたよ。

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