暇つぶし短編①(黒焦げ黄門様)
水戸黄門の撮影現場で起こった悲劇。
ドラマ水戸黄門の撮影現場。これから悪代官側、黄門側に分かれての大立ち回り直前、渥美格之進は迂闊にも懐の印籠を落としてしまう。葵の御紋に気づいた悪代官と越後屋は思わず条件反射的に「ハハーッと」地べたにひれ伏す。結局、今回は殺陣シーンなく撮影終了。
冷徹なプロデューサーの声、「斬られ役の方々、お疲れ様です。申し訳ありませんが本日は交通費だけとなります。なお、お弁当は各自ご自由にお持ち帰りください」。
怒号が飛び交う。
「ふざけんなよ、格之進。テメーのせいでギャラなしかよ。許せねえ」
怒号が止まらない。それはそうだ。斬られてばかりの人生。子どもが学校でイジメられることもある。「お前の父ちゃん、また斬られてんな。何回死ねば済むんだよ。ギャハハー」とか、、、
格さんの印籠ミスであてにしていた収入を絶たれてしまった。現場に漂う不穏なムード。
身の危険を感じた出演者及び関係者は素知らぬ顔でその場を立ち去った。しかし老体ゆえ黄門様は逃げ遅れた。囲まれる光圀公。顔は青ざめ体はブルブル震え出す。そして天下の副将軍に対する情け容赦ない雨あられ暴行が始まる。殴る、蹴る、髪を引っ張る、唾を吐きかける、おしっこをかける、興奮した男は灯油を持ち出し黄門様の全身にぶっかけた。そして火を放った。燃え上がる炎、「熱い、熱い、助けて、うわー」という絶叫。炎の中でご老公の動きがしだいにスローモーになっていく。やがてその動きがピタッと止まり体が崩れ落ちる。炎は未だ燃え盛っている。そこにあるのは、もはや何物とも判別できない黒焦げの塊。「ザマーミロ」、「今まで偉そうにしやがって」、喝采の声が挙がる。
奇しくもその日は9月の第三月曜であった。
二度とこんな悲劇が起こって欲しくない。




