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第7話 再織された家紋

外套の仮縫いを進めるうちに、私は青銀百合の針数違いが偶然ではないと確信した。


 正規の百合紋は、外輪三十六針、葉脈十二、花芯六。けれど王都の礼装と、北の倉庫に残っていた見本布の一部だけが、なぜか外輪三十八針になっている。


「誰かが誤って覚えたにしては、ずれ方がきれいすぎる」


 私は作業台に見本を並べた。


「古い頁を写した人間が、最後の二針を飾りだと思って足したんです」


 エルザが腕を組む。

「つまり、見本帳を見たことはあるけど、本物を理解してない奴の仕事ってことか」


「ええ」


 私は母の補助台帳を開く。そこには、見本帳の各頁に対応する運用上の注意が書かれていた。


『青銀百合は外輪の終端二針を裏へ落とし、表からは三十六に見せること』


 切り取られた頁がなくても、母は別の形で答えを残していた。


 私は思わず、胸の奥で息を吐く。


 母は死んでもまだ、私の仕事を助けてくれる。


「再現できる?」


 クラウスが尋ねる。


「できます。むしろ、再現した方がいい」


 私は工女たちへ針を配り、正規の青銀百合をその場で刺してみせた。裏へ落とす二針の感覚は、昔、母に何度も直された記憶そのままだった。


「すごい……表から見えない」


 若い工女が目を輝かせる。


「見えないから意味があるの。目立つためではなく、正しいものだと示すための印だから」


 その言葉を口にした時、自分へ言い聞かせている気がした。


 夜、エルザが古い箱を持ってきた。中には数年前に王都から戻された不良在庫の礼装片が入っている。


「気味が悪いから誰も触らなかったけど、あんたならわかるだろ」


 箱の底から出てきたのは、百合紋の胸当てだった。やはり三十八針。そして縫い代の内側に、北方織房の検収印が半分だけ残っている。


「検収後に切り取られて再縫製されています」


「王都で?」


「ええ。北を出た後で」


 ならば、北方織房は最初の偽物製造元ではない。少なくとも一度は本物が出ている。


 問題は、誰が王都で切り開き、誰があの見本帳の頁を抜き、誰がセレナの礼装へ偽物の理屈を着せたかだ。


「入口が絞れたな」


 クラウスが箱を覗き込みながら言う。


「宮廷衣装局の内部です」


「戻るか」


 私はすぐには頷かなかった。


 王都へ戻れば、また灰色に押し込められる気がしたからだ。


 でも今の私は、一人ではない。


「まだです。ここで証拠をもう少し固めます」


「そう言うと思った」


「どうして」


「君は、怒ると足場を作ってから殴る顔をする」


 あまりに的確で、私は笑いそうになった。


 北の夜は冷たい。でも、仕事の熱が消えないうちは平気だ。


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