かわいいねこは、誰よりも近い場所で撫でられたい
春のチャレンジ企画に参加しました!
テーマは『仕事』です。
「かわいいねこ」
言われてヒトに連れてこられた。1年くらい過ごしたかなぁ。子どもの頃に学んだこと。長い髪は引っ張らない。ブランドバッグで爪を研いではいけない(最高に気持ちがいいのに)
◇
太陽がムカつく夏はヒトの開ける冷凍庫の側に寄って涼んだ。冷凍餃子の焼ける匂いが好きになった。ヒトの得意料理だ。ねこは食べられないらしい(ネギとニンニクのバカヤロ〜)
心地よく眠れる秋は瞬きする間に過ぎ去り、冷たく痛い冬はヒトの膝に乗って過ごした(柔らかい頬に耳を当てると気持ちいいんだー)
そして、春。
ヒトは明るかった髪を黒くして、全身黒ずくめとなり、鏡の前で頭を下げている。
(儀式かな?)
かかとが赤く滲んでる。ほらぁ、慣れないかたい靴なんて履くから傷になってる……。
(仕方ないなぁ)
──ぽすん。
よく分からないけど、傷口には「ねこ」が必要でしょ。だって、尻尾を巻いて『握手』したら笑顔になってくれたもん。
「ちぃ。ストッキングとスカートに毛がつくから、今はやめようね」
どうして。昔ならねこを笑顔で撫でてくれたでしょ。ねこ、嘘つかないよ。
「にゃあ!」
(……笑顔になってくれたもん!)
不機嫌な顔をしても、ヒトはねこじゃなくて鏡を見て頭を下げては『おはようございます・こんにちは・こんばんは・おつかれさまです』と言い続けている。
(怖い。ヒト、おかしくなった)
ねこは知ってる。もっと良い笑顔のヒトのことを。誰だ。誰がヒトをこんな気持ち悪いロボットに変えたんだ!
「にゃあ!」
ヒトの視界に映るように鏡の前に立った。きっとヒトは悪い奴に変えられてしまった。だから毎日変なことをするんだ。
鏡が、なくなればいい。
鏡なんて、なくていい。
「にゃー!」
(ねこの目に映るヒトが、本当のヒトだよ!)
だから、もうやめて。
自分をおかしくしないで!
ねこは鏡にキックした。びくともしない。蹴った足がとても痛い。でも、ヒトのかかとも、大変なことになってる。ヒトの足が壊れたら、冬のもふもふも無くなるかも知れない。
(ねこ、そんなのやだー!)
何度も、こんな鏡!
何度も、蹴って、蹴って!
(こんな、こんなピカピカに、ヒトを閉じ込めるなー!)
返せよ!
ヒトを返せ!
「にゃあん」
(冷凍餃子を食べているときのヒトの顔に戻ってよ)
「にゃぅ……?」
(ねこの耳、気持ちよくないの……?)
「にゃあああ!」
(こんなのやだよぉおおおお!)
足が痛みのピークに達したとき、ヒトはねこを果物みたいに包んで抱っこした。
「ちぃ。これは、私の戦いなんだ。受験のときは逃げちゃったから。だから、今度は、仕事からは逃げたくないんだ。嫌いな同期とかうまくいかない仕事とかたくさんある。だけど……」
なーに?
ねこを見て笑いかけるヒトは、やっぱり優しくて綺麗で、耳をあてたくなる……柔らかい肌。
「大変だけど、ちぃの姿を見るとホッとするんだ。守りたいって思う」
守られてるのは、ヒトの方なのに?
「ちぃ。私、がんばるよ。負けたくないから」
ねこ、なんの応援もできないよ。どうしてねこはねこなんだろう。悔しいな。そうだ、尻尾で鏡をぶん殴ってやろう。えい!
「ありがとう、ちぃ。鏡拭いてくれてるんだね」
……違うけど。
(まぁ、いっか)
「にゃあ」
(応援してるよ)
誰よりも近いところから。ねこは誰よりも、ヒトの笑顔が魅力的なのを知ってる。
絶対に、ヒトは勝つ。つよいから……ねこと一緒だから、もっともっと、つよい。
『しごと』なんかに、負けない!
「にゃ〜ん!」
(ヒト、自分の好きにやってしまえ〜!)
ボロボロになったら『かわいいねこ』を触るといいよ。笑顔になるからね。
そのほうが、ねこも嬉しいな。
おしまい
最後まで読んでくれてありがとうございます!
ฅ^•ﻌ•^ฅ(ねこは、これからもずっと、ヒトの心の相棒になり続けることでしょう!)




