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かわいいねこは、誰よりも近い場所で撫でられたい

作者: 白夜いくと
掲載日:2026/02/28

春のチャレンジ企画に参加しました!

テーマは『仕事』です。




「かわいいねこ」


 言われてヒトに連れてこられた。1年くらい過ごしたかなぁ。子どもの頃に学んだこと。長い髪は引っ張らない。ブランドバッグで爪を研いではいけない(最高に気持ちがいいのに)



 太陽がムカつく夏はヒトの開ける冷凍庫の側に寄って涼んだ。冷凍餃子の焼ける匂いが好きになった。ヒトの得意料理だ。ねこは食べられないらしい(ネギとニンニクのバカヤロ〜)

 

 心地よく眠れる秋は瞬きする間に過ぎ去り、冷たく痛い冬はヒトの膝に乗って過ごした(柔らかい頬に耳を当てると気持ちいいんだー)


 そして、春。


 ヒトは明るかった髪を黒くして、全身黒ずくめとなり、鏡の前で頭を下げている。


(儀式かな?)


 かかとが赤く滲んでる。ほらぁ、慣れないかたい靴なんて履くから傷になってる……。


(仕方ないなぁ)


 ──ぽすん。


 よく分からないけど、傷口には「ねこ」が必要でしょ。だって、尻尾を巻いて『握手』したら笑顔になってくれたもん。


「ちぃ。ストッキングとスカートに毛がつくから、今はやめようね」


 どうして。昔ならねこを笑顔で撫でてくれたでしょ。ねこ、嘘つかないよ。


「にゃあ!」

(……笑顔になってくれたもん!)


 不機嫌な顔をしても、ヒトはねこじゃなくて鏡を見て頭を下げては『おはようございます・こんにちは・こんばんは・おつかれさまです』と言い続けている。


(怖い。ヒト、おかしくなった)


 ねこは知ってる。もっと良い笑顔のヒトのことを。誰だ。誰がヒトをこんな気持ち悪いロボットに変えたんだ!


「にゃあ!」


 ヒトの視界に映るように鏡の前に立った。きっとヒトは悪い奴に変えられてしまった。だから毎日変なことをするんだ。


 鏡が、なくなればいい。

 鏡なんて、なくていい。


「にゃー!」

(ねこの目に映るヒトが、本当のヒトだよ!)


 だから、もうやめて。

 自分をおかしくしないで!


 ねこは鏡にキックした。びくともしない。蹴った足がとても痛い。でも、ヒトのかかとも、大変なことになってる。ヒトの足が壊れたら、冬のもふもふも無くなるかも知れない。


(ねこ、そんなのやだー!)


 何度も、こんな鏡!

 何度も、蹴って、蹴って!


(こんな、こんなピカピカに、ヒトを閉じ込めるなー!)


 返せよ!

 ヒトを返せ!


「にゃあん」

(冷凍餃子を食べているときのヒトの顔に戻ってよ)

「にゃぅ……?」

(ねこの耳、気持ちよくないの……?)


「にゃあああ!」

(こんなのやだよぉおおおお!)


 足が痛みのピークに達したとき、ヒトはねこを果物みたいに包んで抱っこした。


「ちぃ。これは、私の戦いなんだ。受験のときは逃げちゃったから。だから、今度は、仕事からは逃げたくないんだ。嫌いな同期とかうまくいかない仕事とかたくさんある。だけど……」


 なーに?

 ねこを見て笑いかけるヒトは、やっぱり優しくて綺麗で、耳をあてたくなる……柔らかい肌。


「大変だけど、ちぃの姿を見るとホッとするんだ。守りたいって思う」


 守られてるのは、ヒトの方なのに?


「ちぃ。私、がんばるよ。負けたくないから」


 ねこ、なんの応援もできないよ。どうしてねこはねこなんだろう。悔しいな。そうだ、尻尾で鏡をぶん殴ってやろう。えい!


「ありがとう、ちぃ。鏡拭いてくれてるんだね」


 ……違うけど。


(まぁ、いっか)


「にゃあ」

(応援してるよ)


 誰よりも近いところから。ねこは誰よりも、ヒトの笑顔が魅力的なのを知ってる。


 絶対に、ヒトは勝つ。つよいから……ねこと一緒だから、もっともっと、つよい。


 『しごと』なんかに、負けない!


「にゃ〜ん!」

(ヒト、自分の好きにやってしまえ〜!)


 ボロボロになったら『かわいいねこ』を触るといいよ。笑顔になるからね。


 そのほうが、ねこも嬉しいな。



 おしまい

最後まで読んでくれてありがとうございます!

ฅ^•ﻌ•^ฅ(ねこは、これからもずっと、ヒトの心の相棒になり続けることでしょう!)

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