第2話 異世界転生
俺は死んだ。確かに意識が遠のいていくのを感じた。
老女の青ざめた顔が思い浮かぶ。あの老女は助かっただろう。
俺があの老女をかばって、死んだのだ。
元々、俺はあのままどこかで野垂れ死んでいただろう。死ぬ間際に人の役に立っただけましだった。
俺の意識は次第に薄れていき、ついに思考が停止した。
と、思ったのだが、意識は戻った。
助かったのか。
視界がゆっくりと開いていくのを感じた。
すると、誰かの、何かの声が聞こえた。
何を言っているのかはっきりと分からなかったが、おそらく日本語では話していないと思った。
ここはどこだ?病院なのか?外国の病院か。いや、何かがおかしい。
体を起こし、周りを見渡そうとしたが、体は動かない。
声を出してみた。
「あーー、うあー」
聞きなれた俺の声が聞こえるはずだった。
嫌な予感がした。俺の声は、もう失われているのか。
トラックで轢かれたことによる影響なのか?
ここは日本ではないのだろう。外国まで連れてこられたのだろうか。
そこまで重症なのか、俺は。
これから先の人生に不安しかない。
そもそも、俺の手足はなぜこんなに小さい?事故による欠損なのかもしれない。
しかし、とりあえずは今生きていることに感謝しなくては。
ふと、ある1人の女性が俺を抱える。その女性を手助けする人や、近くで緊張した顔で見守る男性もいる。明らかに日本語では話していなかったが、何故だろう。だんだんと言葉が理解出来ていく。
「奥様!産まれましたよ。元気な男の子です!」
数人の女が言う。
「よく頑張ったな、マリナ。」
男が安心した面持ちで言う。
産まれた?誰が?
女は緊張してはいるものの、涙ぐんだ顔で嬉しそうに此方を見ている。
「アルクス、私がお母さんよ」
アルクス?誰のことか分からない。
なんで俺の方を見て言う?
2人の男女は抱き合い、喜びを分かち合っている。
そこで、俺はようやく自身の置かれた状況を理解した。
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どうやら俺は、生まれ変わったらしい。
いわゆる、転生というものだ。本当にあるんだな。
前世の記憶を持ったまま、新しい人生を生きていく。
人々の妄想が現実になるとは信じられないことだが、本当に起こってしまった。
転生して1週間がたった。
前世での事故の影響は特になく、生まれたばかりの赤ん坊になっている。
俺を抱きかかえた男女2人が、俺の両親らしい。見たところ、30歳はまだ超えていないのだろう。
俺の新しい名前は、
「アルクス・クランロード」というらしい。
母親は「マリナ・クランロード」
まだ若々しく、活発で美しい金色の髪をしている。
父親は「カルロ・クランロード」
マリナと同様に若々しく、THE強い男という感じだ。筋肉質な体で、よくトレーニングをしている。
二人とも金色の髪をしているため、ヨーロッパのどこかの国なのだろう。
言葉に関しては、転生して直後は少ししか理解できなかったが、今はかなり理解できている。
意外と簡単な言語だが、ヨーロッパにこんな言語あったか?と疑問に思う。
おそらく、かなり地方なのだろう。知らなくても不思議ではない。
転生して1週間が経つが、どうやらここには電子機器がないらしい。
そんなことあるのか?今時外国の貧しい国でもあるのに、1つも見当たらない。
困ったな。ネットサーフィンできないじゃないか。
パソコンが生活必需品である俺にとって、これはかなりまずいことだった。
それにしても、転生か。今でも信じられないことだ。日本に帰ることはできるのだろうか。
もっとも、帰ったところで行くところもないが。
___
転生して1か月が経った。
ようやく自分の意志で歩くことができるようになった。
まだよちよちと手足を使って動くことしかできないが、不便さに退屈していたので初めて
動けた時には感動が凄かった。
人はこうやって成長していくんだな。
「アルクス~!もう動けるようになったの!?」
母親のマリナだ。
「成長が早いな、アルクスは」
父親のカルロだ。
「初めは全然泣かなくて心配だったのよ。自分で動けるようになってよかったわ」
「泣かないのは今も変わらないんだけどな」
「まあ、元気なのはいいことだわ」
うーん、泣いた方がいいのか、やっぱり。ただ中身の俺は25歳だ。流石に泣いて喚くのは躊躇する。
というか、マリナとカルロは何歳なのだろうか。
見た感じ、30は越えていない。もしかすると、俺より年下かもしれないな。
同じという可能性もあり得るだろう。まあ、俺は高校卒業から完全に引きこもっていた。
人生経験を考えると、確実にこの2人の方が大人だろう。
俺からすると、ほぼ同じ年齢のやつが親なんて受け入れがたいように思うはずだが、
なぜかそこに関しては問題がなかった。転生し、赤ん坊として2人の息子になったからだろう。
ふと、家の外はあまり気にかけていなかったなと思い、窓から外を眺める。
凄いな。あまりにも田舎だ。俺が今まで見たことのないほどのどかな風景が広がっていた。
もちろん高い建物は全く見当たらず、畑がそこら中にあり、
限りない緑に包まれている。
「なーにー?アルクス、外が気になるの?」
マリナが話しかけてきた。天真爛漫で無邪気な様子がある彼女だが、
まだ若い年齢で子供を産み、もう一人の母親となっている。
「マリナ、修行に行ってくる。この前手に入れた新しい剣を試してみたくてな。」
カルロが言う。
修行?滝に打たれにでもしてくるのか?
「そう、いってらっしゃい。でもその前に、魔法をかけておくわね。」
魔法?魔法って、あれかい?
ファンタジー世界でよくある、あれかい?
「女神クレシアの加護を」
マリナがそう言うと、カルロの身体は優しく暖かな光に囲まれる。
「今日もありがとう、マリナ」
女神さん?もしかして何かの宗教?
「これで今日もあなたは安全よ。女神様の加護が守ってくれるわ。」
「じゃあ、夕方には戻ってくる。それまで、アルクスをよろしくな。」
「ええ、任せて」
俺は自分の目を疑った。
この世界に、魔法なんてあるわけがない。
ここは異世界だ。元の世界では、人々の妄想でしかなかった、魔法。
この世界では、魔法が現実のものなのだ。
本で調べたところ、この世界では剣と魔法で溢れているらしい。
俺は、剣と魔法の異世界に転生してきたのだ。




