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EP4 とある新婚さんの疑い

 お春は躊躇いがちに、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

 「・・・・優しかった夫がここ最近、ほとんど家に帰ってこないんです。

 理由を聞いても“仕事が忙しい”の一点張りで、私とても不安で・・・・」


 よく聞く話だ。新婚の妻を想って仕事に精を出しているだけかも知れない。

 「ダンナさんの仕事は?」

 「商売をしてるって聞いています。確か、坂越屋(さかごえや)って商家で番頭をしてるって・・・・」


 番頭か。坂越屋って商家がどの程度かわからないが、番頭ともなればそれなりに銭はありそうだ。

 銭があれば女も寄ってくると言うものだが・・・・・いや、男もだな。

 「それだけですかい?本当にダンナさんの仕事が忙しいだけかも」

 俺の当然の疑問もお春は首を横に振る。


 「・・・・私、不安になって夫のこと少し後つけたんです。

 そしたらあの人・・・・色街なんかに入っていったんです!!色街ですよ色街!

 私ビックリしてしまって。あんな優しい夫が色街通いしてるなんて・・・私に至らない所があったのかもしれないです」

 はぁ、色街ねぇ・・・・。

 「あの、一応の確認なんですが遊女との遊びも浮気に入るんですかね?」


 俺の質問にお春は、驚きのあまり目を見開く。俺が何を言っているのか、一瞬意味がわからなかったようで目を丸くした後、俺の言葉をお春的に理解したのか、眉間にしわを寄せて鬼の形相で否定してくる。

 「あ、あ、あ、当たり前です!!何で遊女なら大丈夫だと思うんですか!?

 どんな相手だろうと立場だろうと、情を通じるような事があればそれは立派な浮気でしょう!!」


 「わ、わかりましたから落ち着いて。あくまで確認ですから。

 もちろん、どんな相手だろうと情を通じたら浮気ですよね!もちろんわかってますよ!ははははは・・・・」

 あ、危ねぇ・・・怒らせるところだった。厳しいな。商売女も浮気に入るか。

 まぁ、新婚ともなれば少しでも別の女の影があれば、苛立つのも無理ないか。


 「ただ・・・あの優しい夫が、本当に色街で遊んでいるか今でも信じられないんです。

 もしかしたら仕事の付き合いでイヤイヤ足を運んだだけなのかも・・・・」

 「流石にそれはないんじゃ・・・・」

 「え?」

 「あ、いや、それら全ての可能性を含め調べるのが依頼ですよな、ハハ」

 怖ぇ怖ぇ、この女。夫の話してるとき、目に光がないんだよ。

 滅多なことを言ったら、夫より先に俺の方が刺されそうだ。


 「あーとにかく、浮気してるしてないは横に置いて、ダンナの沢田長次郎さんの素行を調べればいいんですよね?

 それじゃあ、色街を中心に仕事場や周りも見ながら、ダンナさんを調べてみようと思いますよ」

 「は、はい・・・・・お手数ですが、よろしくお願い致します」


 お春は深々と頭下げる。

 ダンナを疑いながらも、心の底では勘違いだと思いたい。そんな心情が垣間見える、様に俺は勝手におもんばかる。

 まっ、人の考えなど本当のところわからんがね。この後、前金や成功報酬、経費など細々とした話を詰めていったのだった。


      ☆☆☆☆☆☆


 さてさてさて、善は急げ思い立ったが吉日、果報は寝て待て・・・・は違うな。

 いずれにせよ、さっさと浮気調査に入りますか。

 別に浮気調査など乗り気じゃないが、受けた仕事はキッチリこなす。

 これが俺の信条なのだ。・・・・ホントだよ。面倒な仕事は素早く終わらせたい、なんて露ほどにも思っちゃいないさ。ハハハ・・はーあ・・・・。


 俺はお春から聞いた話を頼りに、44番街へと足を運ぶ。

 話によればどうやらここに、お春のダンナ長次郎の務める商家、坂越屋があるという。

 ・・・・・そんなものあったかな?


 別に東城京に特別詳しい、などと言うつもりはサラサラないが44番街は、どちらかといえば古い建物が並ぶ治安の悪いゴロツキ共の吹き溜まり、みたいな印象のある場所だ。

 ちなみに坂越屋にはお春自身も行ったことはないらしい。

 夫にそれとなく、止められていたらしいのだ。


 というわけで、まずは浮気ダンナの職場探しからだ。

 俺はそれらしい場所を見つけては、周りの暇そうな奴らに声をかけ坂越屋を知らないか聞いて回る。

 全くもって地道な作業だ。

 だが・・・・・いねぇ!聞いて回るが坂越屋を知る者が誰も居ない。


 どういう事だ?坂越屋がそれほど大きくなくても、番頭付きの商家なら誰か知っててもおかしくはないと思うのだが。

 もしかしたら、何年か前に立ち上げた若い商家なのかも知れないが、それでも一人くらいは知っていてもおかしくはないだろうに。


 まずいな。まさか、最初の職場探しでつまずくとは。

 大体長次郎が家に帰ってこないから、職場を張るなんて面倒な手を使うハメになったのだ!

 ったくよう、浮気はしてもいいから家くらいちゃんと帰りやがれってんだ。


 そんな愚痴をこぼしながらも俺はせっせと坂越屋を聞いて回る。

 なんて仕事熱心なんだろう、俺。誰も見ていないところでも、仕事に手を抜かず黙々とこなすよろず屋の鑑!

 こんな姿が世に知れたら、東城京の女どもが俺を放って置かないだろうな!ははは!

 ・・・・・あーあ、虚し。


 「サカゴエ屋?あー・・・そういえば、そんなの聞いたことがあるなぁ」

 半ば諦めていたところ、惰性で聞き回る俺に地べたに座る半裸のおっさんがそんなことを口にしたのだった。

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