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唐傘の勘違い

ねこのて屋くろねこ支店のくろいねこが人やモノの依頼をこなしていきながら旅をする話です。

ほかの支店との絡みや依頼をしてきた人やモノとの会話など、いろいろな話を書くつもりです。楽しんでいただければ幸いです!

背の高い草の小道にくろいねこが一匹。唐傘が一本。曇天のそら。

ここは、東の大地のとある広場。子供たちが遊んでいる。空を見上げ怪しい雲を指さす子もいれば、輪のようなものを握って走りまわる子供もいる。くろいねこは広場を歩いていた。その時、子供のグループが広場の出入り口に向かって走っていった。何かと思うとくろいねこの鼻に水滴が落ちるのを感じた。くろいねこは、少し急いだ様子で広場にある少し大きな木の下に向かう。その途中、赤い何かを見た。くろいねこは、それに近づいてこういった。

「雨宿りをさせてくださいませんか?」

そこにいたのは、壊れた唐傘だった。唐傘はあぁとつぶやいた。くろいねこは自分の体に合った荷台をおろし、開いた傘の下にもぐり腰を下ろした。

「嬢ちゃん、雨は好きか?」

「そうですね。好きか嫌いかでいうと嫌いなほうかもしれませんね。なんて言ったって、濡れてしまうと毛が乾かなくって寒いですから。」

「そうか。俺も雨は嫌いだ。」

「あら、傘なのに?あなたの仕事場じゃないですか。」

くろいねこがそういうと唐傘は暗い声色で言った。

「あまり働きすぎると壊れちまうからな。嬢ちゃん何者だ?こんなに物と話せるなんて」

「私は、ねこのて屋くろねこ店の店長をしております。」

「どうりで物と話せるわけだ。それはそうと雨は上がりそうにねぇな。ここはひとつ俺の話を聞いていくかい?」

くろいねこは微笑みながら言った。

「えぇ、ぜひ」

唐傘は、老人が店主をしている傘屋で生まれた朱色の見事な傘だった。そんな見事な傘はある日男に買われた。男は、傘を広げるのに苦戦しているようだった。店主は大事にしてほしいと願い男はその通りそれは大事に晴れの日も、もちろん雨の日だってそばに置き唐傘を使った。

「それは、とてもよかったのでは?」

「ここまではな。俺もすべての思い出が細かく思い出せないくらい毎日が楽しくて、長い時を一緒に過ごしたさ。でも、傘は見事ではなくなった」

男は毎日のように傘を持ち出し何度も開いたり閉じたりを繰り返した。傘を開きながら、水たまりの上で跳ねたりした。男の楽しそうな顔を見れば唐傘も楽しくなった。使い続けた唐傘にはついに穴が開いた。骨が一本折れてしまった。それでも男は使い続けた。唐傘は、穴が開いていしまったや骨が折れてしまったことに傷ついたが男との散歩を重ねていくうちに唐傘は気にしなくなった。そして傘はある日開けなくなった。一番太い骨が折れてしまった。男は開かなくなった唐傘を見てもう、一緒に遊べないんだと悲しんだ。何日も泣いた。それを見て唐傘も悲しくなった。この程度で壊れてしまう自分に怒りも感じた。周りは、新しいのを買えばいいと男にそう言った。でも男は、唐傘を持ち歩き続けた。唐傘は開けなくあっても持ち歩いてくれる男を見て喜んだ。だがある日、男は唐傘をこの背の高い草の小道に置いてどこかへ行ってしまった。どうしたのだろう。そう思っても唐傘は男を待ち続けた。自分で動けるわけでもないけれど。どれだけ待っても誰かが来る気配はなかった。毎日子供の遊ぶ声が聞こえるだけ。何日もそこに置かれて唐傘は悟った。もう、あの人は迎えには来ないのだと。なぜあの人は自分をここに置いていったのだろうか。自分の状態を考えればすぐにわかることだった。骨が折れていて穴だらけこんな実用性のない傘をだれがずっと持っておくのだろうか。唐傘は捨てられたのだった。

それを聞いたねこは少し上を向いてから言った。

「勘違い、ではなくて?」

くろいねこは、広場を見渡した。骨が折れた唐傘に必要なものを持っていた子供がいたはずだ。

「勘違い?こんな傘、だれがとっておくんだ。捨てるだろう」

「それが少年なら取っておくでしょう。なにせ傘屋でみつけた友人なのだから」

とおくでは男の声が聞こえた。それは、少年の声だった。

「少し待っていてください」

真っすぐをあるところを見ていたくろいねこは濡れるのをかまわず唐傘の下から出た。どうせ穴だらけで少し濡れていたのだから。すこしするとくろいねこはずっと広場に残り、走り回っていた少年をつれて唐傘のもとへ帰ってきた。

「僕の傘!おいて行ってごめんね!」

少年は唐傘を拾い上げると慣れた手つきでずっと持っていたテープで自分のポケットからだした傘の手持ち部分と太い骨の部分をぐるぐるとくっつけ始めた。そして今度は閉じなくなってしまった傘を差して小道の向こうへと歩いて行った。少年は傘屋で親に傘を買ってもらった。気に入った少年は毎日持ち歩いた。友達のような唐傘は年月がたつごとに壊れていった。だがそんなこと少年は気にしなかった。少年にとっては大切な友人だったからだ。両親に買い替えを提案されても友人に変わりなどいないから少年はずっと唐傘を持っていたのだろう。そして少年はある日、遊んでいたら傘が邪魔になって傘を地面に置いた。その衝撃で傘は金具が折れて開いてしまった。そして少年は置いて帰ってしまったことに気が付かなかった。少年は今日まで唐傘を見つけることができなかったのだろう。寄りにもよって背の高い草のそれも小道に傘を置いてしまったのだから。これが、唐傘の勘違いの真相だろう。くろいねこは歩く少年の背中を見ながら考えた。

「雨が上がりましたね」

くろいねこはそう呟いて歩き始めた。唐傘と少年はもう見えない。

「まったく。あの唐傘、お礼くらいあってもよかったじゃないですかね」

道の先はくろいねこも知らない。だが、くろいねこはこの道の先でもいろいろなものの話を聞くのだろう。それがねこのて屋なのだから。


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