潜る世界線①
2話目でございます。
前回と同じ、1000字程度を目標に書いています。
あの後、ヒイラギはそれはもう大変な思いをした。
・・・
「匿ってください!!」
「――はぃい??…………はぁ、分かった。」
少女は確信していたように、その口角を少しだけ上げた。
「先、風呂入ってくれ。」
ヒイラギは皮をちぎらんばかりに唇をかみしめて言った。
風呂に入れるのは、まだ先のようだ。
「フロ...ああ!あれねっ!知ってるよ!」
ほんの数秒、少女の瞳が赤く染まる。
風呂に入れないなら仕方ないと、明日の分の仕事に手を付けておく。
今回の任務は、とある教団への潜入捜査である。
もうすでに調べておいた資料を、画面に表示する。
ギブド教団
古代から続く、長い宗教、その教団。
唯一の神『零』と、その天使5人を信仰する集団であり、
この国、『ユマノ共和国』の各地に教会が点在する。
教団の軍事力はまるで分らない。得体のしれない技術を持つという噂もある。
ギブド教団の、鎧を着た兵士。肩からオレンジ色のマークが光っている。
その画像を開いていたところを、
「あっ!それ私を追いかけてきた人!」
見られてしまった。
潜入捜査なのにバレてしまっては、とも考えた。が、
「――今、なんて言った?」
疑問が勝った。
「んー?」
少女に、部屋を勝手に見られていた。
やっぱり、匿うべきじゃなかったな、と思った。
ヒイラギは問う。
「お前、何者だ?」
少女は答える。
「そういえば、自己紹介してなかったね。私の名前は、モミ、だよ。」
――いや、そういうことじゃない。
「違う、そうじゃない……追われる心当たりは?」
モミは、首を傾げた。
「ない!……っあー、でも、『裏切者』って、言われたよー…な?」
「裏切者……か。」
ま、いい。とヒイラギは立ち上がる。
「風呂、入ったんだろ?俺も入ってくる。……パソコンはいじらないでくれよ?」
「はーい…?」
ヒイラギはとても心配になった。
「絶対だぞ!」
・・・
結論から言うと、風呂に入ることは叶わなかった。
水蒸気が痛いほど熱く、湯舟はからっぽ。おまけに石鹸が真っ二つ、だ。
もはや地獄であった。
今から湯舟にお湯をはっては時間が足りないし、飯を作らないといけない……
「――いや、無理だな、デリバリーにしよう。」
今はすごい時代だ。アプリで注文すれば、料理がすぐにワープポットで生成される。
そんなことを考えながら、疲れ切った体でメニューを眺めるヒイラギだった。
・・・
深夜、街灯が光る人のいない通りに、少女が一人。
季節に合わない陽炎をまとい、赤い瞳が神々しく輝いている。
雨をかき消すような熱が、銀色の髪を僅かに揺らした。
楽しんでいただけたでしょうか。
登場人物
・ヒイラギ
作中で風呂に入りたがってたやつ。別に風呂がめっちゃ好きなわけでもない。
・モミ
いわずと知れた銀髪・金の瞳の少女。石鹸を真っ二つにした張本人。
用語
・ユマノ共和国
”人間の・人類”といった意味合いをもつ”ユマノ”がついた国。
ある禍災によって、もはやこれ以外国は存在せず。一部部族が他にいるだけである。
・ワープポット
その名の通り、ワープができる。仕組みは後ほど。
・ギブド教団
結構過激な集団。
技術を盗むプロが、各団体に潜伏している。
意見、感想、考察ありましたら、ください。