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外の景色

オカダユミは、目の前のグロテスクなゾンビにまた気を失いそうになったが、ホダカの狂人のような怒鳴り声で我に返った。


早く救急箱を出せ!


救急箱? オカダユミは素っ頓狂な声を出した。


探せよ! 今度は野生動物に恐怖した。身長が185cmもある柔道で鍛えた厳つい身体の男から発せられる野太い声はさながら、ライオンが暴れる寸前の鳴き声だった。オカダユミにはなぜこんな獣と同じ檻の中に自分がいるのか皆目見当もつかなかった。


ライオンはメスの子供を咥えていた。メスの子供を艦長室につれて、そのままベッドに下ろした。


ねえ、大丈夫かな?


コスモがこれまでの強気とは一転して、か細い声で獣に聞いた。ライオンは無視して、イシイメイが来ているワイシャツを強引に破いた。


脇腹から出血していた。


おい!ナガト! 


ライオンの雄たけびにナガトは即座に反応し、救急箱を探した。オカダユミのように硬直してはダメだと直感した。しかしそれも、何かを作業しているというアピールでしかなかった。いろいろやっているふりをしている場、そのうち誰かが見つけてくれる。先ほど艦長を気取っていたとは思えない無責任な男ーしかし実際にはナガトはそういう人間だった。


SS521 医務室はどこだ! 何度聞こうとナガトの声にクジラは答えなかった。


どぉんと大きな音が鳴り、船が揺れた。突然アラームが鳴った。医務室かどこか教える代わりにクジラは17歳の艦長にさっさと潜れと提言した。


ナガトは逃げた。血を流し、立ってられずに座り込むアズマを無視し、ホダカの呼ぶ声を無視した。涙目のコスモを無視した。ハッチ前でケンザキヤエとヤナギダクニオ、トミオカセイジがたむろしていた。ヤエとトミオカは座り込み、立っていたヤナギダと目が合ったがお互いに黙っていた。ハッチを見上げると微かに赤く明るい光が見えた。ナガトはハッチを登ろうとした。一度ヤナギダにやめろと言われた。だが外に出たかった。


ナガトはロケットの打ち上がる姿を初めて自分の目で見たのは潜水艦の上からだった。トマホークミサイルが明るい光を発しながら、虹のような綺麗な尾を描きながら、轟音とともに発射された。美しいロケットがこれからどこへの行くのかー頭で考えるまでもなかった。だが、それでもその悪魔的美しさは人類の科学、憧れていたSFの世界そのものだった。ナガトは笑顔だった。遠くの海のほうからまた轟音が響いた。同じくミサイルが発射されたのだ。ミサイルから吹き出される炎から船がほんの一瞬明るく映し出された。かなり小さかったがアーレイバーク級とは違うことが形から分かった。


ホバート級かーナガトは嬉しそうに呟き、再び17歳のネモ船長が戻ってきた。ヤナギが戻るように言っている気もするが、そんなことはどうでもいい。ナガトは大きく息を吸った。潮の臭いと薬莢の臭いが交じり合い、複雑な香りがした。


アーレイバーク級は炎上していた。船員たちが必死で消火活動をしているのが見えた。どうやら船尾を損傷したらしく、少し斜めに傾いているように見えた。アーレイバーク級はそれでも応戦していた。CIWSが激しく唸りをあげ、迫りくるミサイルに対処しているのだとナガトは理解した。轟音とともに一瞬のうちに何かが目の前を通り過ぎ、アーレイバーク級にそれがあたり、爆発した。何かがナガトの耳元をかすり、思わず耳を抑えた。手についた生暖かい赤い液体を見て、初めて目の前の出来事が映画ではないことをナガトは気づいた。ふいに自分の足元を見た。視線をそのまま海のほうへやると誰かが溺れているのが見えた。やがてその誰かは自分の足元に近づいてきた。その人は生気を失い、海水に濡れた状態でナガトの前に流れた。彼はナガトと顔を合わせることなく、悲しげに俯いていた。ナガトは下半身を失い、誰も見向きもされないままこの広い海で息絶えた白人の亡骸に恐怖より哀れみ、そして敬意を払いたかった。


下半身のない死体を見て俯くネモ船長の襟を何かに強い力で引っ張り、彼をハッチから潜水艦の中に叩きつけた。

ほんの一瞬だったが、ホダカが睨んでいるのが見えた。


出せ!ーホダカがまた怒鳴り、ハッチは閉じられた。

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