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ここから出して

「AIだよ」


突然喋りだしたクジラに、ホダカは一瞬絶句したが、ナガトの一言で我に戻った。


「コイツはAIをつんでいる。おまけに喋る。こんな機能、潜水艦に必要かは知らないけど、あったほうがいいと判断したんだろうよ。自衛隊は」


ナガトは続けて言った。


「この船は台湾に近い、中国の軍事基地に対し、ミサイル攻撃する指令を受けている。だからミサイル発射できる地点までこの船は移動する。オレたちは何もせずともー」


「ふざけんな!」


淡々と得意気に説明するぼさぼさ頭の耳に、悲鳴にも近い怒鳴り声が聞こえた。


イシイメイだった。


これまで班員たちとロクに会話に参加することもなかった彼女が唐突に発した言葉にナガトはもちろん、その場にいる全員が萎縮した。メイは異性とはあまり話したがらず、クラスでは、コスモたちといつも一緒だったが、その輪に溶け込んでいながら、不思議と彼女はその輪から少し引いていた。そんな彼女が明らかに怒りに満ちた声を上げた。


ナガトは自分が批判されると思って、瞬時に自分の身を守るための言葉を頭の中でかき集めようとしたが、その必要はなかった。メイが泣き始めたからだ。


「どうして…どうして…早くここから出たい」


家でも出したことのない怒りの声を出した今年17歳になる少女はその場に泣き崩れてしまった。


すぐにコスモが泣き崩れた彼女の背中をさすった。こういう時のコスモの動きは良くも悪くも素早い。再びナガトは身構えた。しかし、これも空ぶった。


「とにかくここから出して…なんでもいいから」


コスモも目を赤くして拍子抜けするぐらいか細い声で言った。意外だった。普段交戦的で、誰にでも食って掛かる彼女は男たちからかなり嫌われていた。そんな女が初めて見せるか弱い姿に、ナガトは不意を食らったように驚き、他の男たちは少し口角を上げた。


「どうでもいいから、ここから出してくれ。ここが本当に潜水艦の中ならハッチくらいあるだろ?」


アズマが言った。


ナガトはアズがが現状を理解していないと思い、今までの説明をもう一度しようとすると、アズマは上昇して海面に出ればいいとだけ答えた。


「AI積んでんだろ。上昇くらいできるだろ?」


自分の言葉を遮り、同じことを二回言った友人の言葉に怒りがこもっていることにナガトは初めて気づいた。


分かった。それでいいなーナガトはそんな眼差しで班員たちを見ると、クジラに言った。


「SS521、ソナーは何か探知しているか」


さながらこの船の艦長のように振る舞うナガトと、それを止められない自分自身にホダカは腹立たしさを覚えたが、今そうなことに腹を立てている場合ではないと、自分を戒めた。


「周囲にコンタクトありません。ルートを変更しますか?」


ナガトの質問にクジラが丁寧に答えると、ナガトは軽く唾を飲んで言った。


「浮上してくれ。ソナーにコンタクトがあったら、すぐに知らせるように」


「了解。浮上します」


クジラが返答すると、すぐに自分たちのいるコントロールルームの外からブクブクという気泡ができる音が聞こえた。揺れる船内で、ナガトが不意に操縦席の近くにあるデジタルモニターに目をやると、150と表記された数字が徐々に下がっていることに気づいた。


今、夜なのか、昼なのかを確認するためにナガトは自分の腕時計にふい目をやった。時計を見ると針は15時50分を指していた。だが、腕時計がとうの昔に止まっていたことを彼は忘れていた。


深度は100mを切った。







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