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1.帰宅部たち

初投稿です。見て分かる通り国語は苦手です。

十月一日ー

広島はこんなに暑いのかー

ナガトはイラつきながら、10月だというのに未だギラつく太陽を睨んだ。

原爆ドームの下は日陰になるかと思ったが、彼のいる場所は運悪く太陽の光がもろにあたる場所だった。

こう思っているのは彼だけではなかった。彼のクラスメートたち全員がそう思っていた。

最もクラスメートと言っても、どこの学校でもそうであるように、仲のいい人間と悪い人間同士がごった煮になったものがクラスという存在だ。だが、ことーこのクラスいや教員含めこの学校にいるほとんどの人間が異常なほどお互いを嫌悪し、それぞれの派閥を作っては互いに罵りあっていた。

その大半の理由はあいつは勉強ができるとか、モテるとか、本当にどうでもいいだった。

本当にどうでもいい連中ーそれでも、この季節外れの暑さと、教員たちがなぜ高校最後の修学旅行を例年の沖縄から広島へ変えたのか、この二つの不満はクラス、そして都立東山高校2年生一人一人から吹き出る汗に交じって体臭として発せられた。

「あいつら、俺たちをいつまでここにいさせるつもりなんだ?」

日に焼けろと言わんばかりの太陽にあたる生徒たちをしり目に日陰にいる教員たちにアズマは言ったが、

ナガトはそれを無視して原爆ドーム近くの平和の鐘を鳴らす白人のカップルを凝視していた。

ナガトのいる場所からでは、二人の言葉は到底聞き取れず、二人が白人であるということ以外、どこの国の人間あるかなど分かるはずがない。フランス人?イギリス人?イタリア人?それともロシア人?

しかしナガトはその二人がアメリカ人であることを信じて疑わず、あるいは白人がその鐘を鳴らしていることそのものが無性に気に入らなかった。


ー貴様らにその鐘を鳴らす資格はない。地獄に落ちろとー


「はーい!注目!ほら、静かに!」

やっと、愛称ドロボウこと教員西田が大きい声を説明を始める。

「これからクラスごとにみんなで、平和記念資料館に入ります。ガイドの方が付きますので、その人に付いていくように!くれぐれも他の方にご迷惑を掛けないこと!」

うるせえよ。ナガトはそう思った。「それからー

ここが爆心地であることを肝に銘じて閲覧してください。」

一瞬、みな沈黙した。心のどこかにある日本人としてのー何かに訴えられた気がした。

そして、西田先生がなぜ沖縄から自分の故郷広島を修学旅行先に変更させたのかもその場にいる全員が理解した。ただ一人、オガタユミを除いてはー


「それではそれぞれ一列になって私についてきてくださいー」

ガイドの若い女性が声に導かれながらナガトたちは資料館に入った。

若い女性だからとアズマが下世話なことを言ったが、頭に入らなかった。こういう時、ナガトは真面目にせねばならないと彼の中で自然とフィルターがかかる。それは批判的な両親の下で育ち、いい子でないと叱られるという子供じみた考えからいまだ脱せない彼の一面をあらわしていた。

教科書で見た光景ー、焼けただれた防護衣、けろいどの写真、熱線を浴びてコンクリートにくっきり残った人の影。当時の状況を描いた絵画は白黒写真が大半を占める資料館の中でも、色彩のせいで、残酷さが増していた。だが、ナガトにとって何より強烈だったのは教科書で何度も見たはずのキノコ雲を別角度で映した写真だった。

それは爆心地から一山離れた場所で撮られた写真だった。山を越える巨大なキノコ雲は火山の爆発とは異なる人工的なものであることをナガトは写真から認識できた。

ああーこれはやっぱり使ってはいけないものなんだー

分かっていたはずだが、彼はより直感的にそれを理解した。


一通り見て回り、出口に出ると、彼一人だった。他の生徒たちに遅れたかと一瞬思ったが、徐々に生徒たちが出てくるのを見て、自分が一番最初に出たのだと認識した。アズマがナガトの前にケロッとした顔で現れたのは、彼が出て20分も後のことだった。

なんで遅れたのか、というよりなぜ自分は誰よりも早く出てきてしまったのか?ー見るべきものは見たはずだ。というより、普段から文句や下品なことしか言わないこのろくでもない友人があの資料館で何を見て、学んだのか?ー自分は人が本来感じ取るべきものを感じ取っていないのではないか?

そう思い、ナガトは自分が恥ずかしくなった。


十月二日ー

この日は、班ごとに自由行動が許された。

ナガトの班は全員で9人。班長のホダカヒロシ(穂高博)、アズマイチロウ(我妻一郎)、ヤナギダクニオ(柳田邦男)、トミオカセイジ(富岡誠二)、オワラナガト(小原長門)、イシイメイ(石井メイ)、ケンザキヤエ(剣崎八重)、ワダコスモ(和田コスモ)、そしてオガタユミ(岡田由美)。

お互いを忌み嫌うクラスーと言いつつ、この9人は割と息が合っていた。

そして彼らみな帰宅部だった。

中学生にしろ、高校生にしろ普通みな血気盛んなものだ。部活に打ち込む者も恋する者。みな何かに熱中する。しかし、彼らはそうでなく、ただひたすら家にまっすぐ帰る。することと言えばー

だから、彼らは自ら同じ班になった。


班長ホダカは早速、本日のスケジュールに目を通した。と言っても、他の班のように修学旅行ならではの限られた時間でいろんな観光地を回るような忙しいスケジュールは9人全員が嫌っていた。だから行く場所は一か所にした。大和ミュージアムこと呉市海事歴史科学館。

これを押したのはナガトとだった。他の8人は広島駅から遠い呉にわざわざ行くのに反対したが、ナガトは一人一人説得し、というより狂気じみた演説をし、押し切った。

この狂気じみた演説とは何を隠そう、ロシアウクライナ戦争にある。ナガトはこの戦争に強い衝撃を覚え、ニュースで軍事専門家が解説する戦況や兵器に関心を示しいてた。過去の戦史、現在の戦闘、そして日本の現状を出来る限り情報を得ていた。情報を得て分かったことの一つにこの国への不満がある。彼はそんな不満を班員に演説に変えて説得した。そして、彼はこの広島旅行最大にして唯一の楽しみである大和ミュージアムへの切符を手にしたのだ。


都心に住む彼らにとって広島とは言え、一地方の電車に乗るのは初めてであり、都心よりやや旧式な車両に乗ることはかえって新鮮だった。

「なんで厳島行かないんだよ」

大和ミュージアムに行くことに反対していたコスモは、その華やかな名から考えられないほど刺々しい口調でスマートフォンでネットサーフィンしてるナガトに食ってかかった。ナガトは黙っていた。自分の演説も含め、自分の意見を押し切ったことを少し後悔していたのだ。

「帰りに行こう」

ホダカが言った。

「間に合わない」

「ならここで降りろ」ホダカは何のためらいもない冷淡な回答にコスモは黙るしかなかった。

こういう時、ホダカは妙に強かった。いや正確に言うと彼は物理的にも強かった。中学までは剣道部に所属し、県大会で優勝しており、高校でも剣道部からスカウトされたが、受験に励みたいという理由で断った。県大会で優勝するような奴が受験を理由に辞めるのか?班全員がそんな疑問を持ちつつ、この男のガタイの良さから際立つ揺るぎない自信にみな期待し、乗り気でない彼を無理やり班長にしたのだ。


「おい、あれか?」ヤナギダが車窓を指さして言った。

皆車窓を見た。彼らの目には灰色の船たちが見えた。彼らが目にしているのはまさしく大和が80年以上前に戦艦大和が建造された場所だった。

喧嘩を売ってきたコスモも前のめりで車窓を眺め、皆それなりに興味があるようでナガトは少し安堵した。ナガトには、皆が興味を示す船、いや護衛艦がなんであるか、ある程度分かっていた。車窓から見える護衛艦、潜水艦を一つずつ当てていった。あれはあたご型イージス艦?まや型かな?ーああ、あれはおおすみだ。そして海上自衛隊初の空母かが。改修が終わり、ついに最新鋭のステルス戦闘機F-35Bがあそこに積まれている。皆、興奮は止まらなかった。しかし、誰よりも前のめりなはずのナガトが不思議なほどより興奮、いやこの場合、興味を示したのは充電中で激しく蒸気を上げる他の船に比べ、小柄ながら黒々として厚みを感じる潜水艦だった。たいげい型潜水艦だろうか?彼はそう考えた。彼は防衛省がこの潜水艦にVLSつまり潜水艦発射型弾道ミサイルを撃てるようにする計画があることを知っていた。


大和ミュージアムはまさにナガトが求めたものそのものだった。巨大な大和の模型。大和に搭載されていた零式観測機。主砲から機関室まで残っている。我を忘れ写真を撮り続けていると、アズマから、あっち行ってみないか?と声を掛けられた。彼の指さす先には鉄のクジラー潜水艦があった。

ナガトは一人大和だと興奮していたが、どうやら班のみんなはあっちに興味があるようだった。


ナガトはあれが海上自衛隊が使用していたゆうしお型潜水艦あきしおであることは知っていたが、いまいち、船の形があまりにシンプルで好みではなかった。潜水艦は彼の好奇心を駆り立てる存在だったが、彼にとって、潜水艦とはソ連のタイフーン級のような異形の巨人であり、それこそまさにトムクランシーのレッドオクトーバーそのものだった。だが、もう一つの愛読書ー沈黙の艦隊に出てくる潜水艦を見ないということは彼にとってありえないことだ。班員9人は鉄のクジラに向かった。


時刻不明ー

鉄のクジラの中は思ったより、広く、9人にはちょうど良かった。指令室で元船員だというガイドから、操縦方法やサービスで警報まで鳴らしてくれた。

「ほう、かっこいいや。これに何人乗るんです?」トミオカがなんとなくガイドに聞いた。

「80人」ガイドの言葉に全員ぎょっとした。

そして自分には無理だなと、トミオカ含め全員が思った。

「潜水艦は音だけを頼りに密閉された環境で一か月以上動くです。並の海上自衛隊員では無理だよ」

笑いながら語るガイドになんとなく、ナガトはなんで他国は少人数化できるのに日本はしないんだと考えた。聞いてもよかったが、現役でないまして、30年近く前の船員にそんなこと聞いても意味がないと思い、踏みとどまった。


一通り見て満足したのかホダカがゆっくり出口に向かった。他の班員も彼に従うように後に続いた。

ナガトも最後まで名残り惜しそうに見た後、出口に向かったが、なぜか列が止まっている。

前が何か言ってるが聞き取れなかった。やがてホダカが前に出て「すみませーん」と大きい声でガイドに尋ねた。だが、ついさっきまでいたはずのガイドはそこにはいなかった。

一瞬、ナガトは何が起きたのか分からなかった。

「どうしたんだ?」ナガトはホダカに聞いたが、無視された。

少し慌て気味のヤエに「どうしたんだ?」と再度質問した。

「出口がない」ヤエは少しパニックになって言った。

頭の中の整理がつかないまま、ナガトは出口に向かった。

が、あるはずの扉がそこにはなかった。

というより元からなかった。扉が閉められたとかではない。なくなっているのだ。

ホダカの「すみませーん」という声が響き、ナガトはその方向に目をやり、凝視した。入ったとき、完全に溶接し密閉されたはずの扉が開いてた。ホダカの声はそこから聞こえていた。だが、その声もいつの間にかやんだ。

妙に思ったナガトはホダカのいる扉の先に行くと唖然とした。

長い筒。長い筒。長い筒。長い筒。筒。筒。筒ー

何本あるんだろうかー

「なんじゃあ こりゃ?」ホダカの彼らしくない恐ろしく間抜けな声に笑う余裕などナガトにはなかった。

彼には分かった。これがVLSであることがー

「ねえ!来て!」コスモの声がした。

ホダカと二人で急いで指令室に戻った。

戻った二人はもう声が出なかった。明らかに目の前で起こったことについていけていなかった。

さっきまでの指令室はそこにはなかった。代わりにデジタル機器が随所に並べられ、急に作動し始めていた。

次の瞬間、床が傾いた。ヤナギダが思わず滑りこけたが、すぐ立て直した。ナガトはふと目をやると何かの数字がどんどん上がっていくのが、見えた。100、110、120ー沈んでいる。

そう直感した。必死で停止ボタンを探した。

「おい、何してんだ!」アズマは大声を出したが、無視した。ボタンが見つからない。ボタンが見つからない!

「何してんだよ!」アズマがグイっと引っ張った。

「停止ー!停止だ!停止させるだ!」そう叫んだ瞬間、突然床が水平になり、またヤナギダがすっ飛んだ。ゴンという鈍い音がして頭を打った。すぐに立ち上がりはしたが、少しふらついている。

ふらついたヤナギダをヤエが気にかけ、支えたが、他は無視した。

「いったいどうなってんだ?」皆がみな口にした。

もめにもめている中、一通の電報が入っていることをオカダユミは確認した。


そしてオカダユミは荒れる班の中でただ一人理解した。

ここは潜水艦の中ーミサイルを撃てという指令が入っていることーそして電報に書かれた日付が10年後の10月2日でいることー













続きを書くつもりではいます。

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