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6−33 顛末

 王都にマールバラ領から連絡があった。ヴィンセントが自害したので、検分の為に王都に移送するとの事だった。


 オールバンズ家の領地からオールバンズ公爵の次男が手勢を連れてマールバラ領を訪れ、ヴィンセントの遺体とチャールズ・マールバラの護送を行った。第二騎士団からも一団が派遣されたが、オールバンズ家はヴィンセントとチャールズを犯罪人扱いする事を拒否した。


 オールバンズ家の軍旗が前後になびく中、マールバラ家の紋章を付けた馬車が昼下がりに王城に入った。アルフレッド王は日の暮れる頃にチャールズと会った。チャールズに一息つかせる為に時間をとったのか、待たせる事で苦しめる意図なのかは誰にも分らなかった。


 ヴィンセントだった物体は既に腐臭を発していたが、王は顔色一つ変えずに遺体の顔を検分した。暫くして王はチャールズに向かい、最初で最後の伯父と甥の会話を交わした。ヴィンセントは子供を王都に連れて来た事が無かったんだ。

「ヴィンセントから伝言はあるか?」

「ありません」

「何か望みはあるか?」

「出来ますれば、父と黄泉の国への道を同道したいと思います」

「分かった」


 王の弟とは言え、反乱者である。その遺体は死刑囚の死体を埋める場所に埋められ、墓標は作られない。ここは何年前に死体を埋めた場所、と年ごとに場所を変えて埋められる為、埋める為に穴を掘れば、以前に埋めて骨になった遺体が破片となって散らばった。そんな扱いだから、せめて父の隣に埋めて欲しい、とチャールズは願ったのだ。チャールズは王と会ったその日の晩に毒杯を与えられた。


 翌朝、日が昇る前にヴィンセントとチャールズは一緒に埋められた。もちろん、墓穴堀りと刑吏以外に見守る者はいなかった。


 マールバラ公爵家は早々に恭順を示したジャージ家当主、ヴィンセントの妻の兄が公爵を継ぐ事になった。領政としては商人や職人が逃げ出していた為に農業以外の税収が激減したが、却って身元の確かな商人を呼び寄せる事が出来た。ヴィンセントの妻と成人していない子供は王都近くの修道院に呼び寄せられた。


 見かけ上の主犯の死亡により、残りの反乱貴族の処分も進められた。ブラッディ・ブラッドフォードとリッチモンド候に討たれた貴族はお家断絶。それぞれの近隣貴族が当面の管理を任された。残りの家は当主の領地外への放逐、後継者も奴隷女で遊んでいた場合は同様に放逐、その場合は当主の弟の息子が後継者になった。どちらにしろ、しばらくは前領主の夫人が後見人として領政と後継者の教育を担った。


 夫人達はどちらかと言えば夫の背徳行為の被害者であったが、『平民に夫を取られた器量なし』と噂された為、後継者教育は厳しく行われた。後継者達は後見人が亡くなるまで妾を持つ事を許されなかった。


 反乱貴族がそれぞれの処分を受け入れた為、もうハロルド王子の証言は必用なかった。元々大して反乱の内情を知らされていなかったが。毒杯を渡される前に、刑吏が尋ねた。

「末期の言葉はございますか?」

「無い。さっさと処理しろ」

ハロルドは家族に醜態を晒したくないから何もしないでいたが、ここでも醜態を晒したくない為に何も言葉を残さなかった。意地が未練を上回ったのだ。ハロルドもヴィンセントやチャールズの近くに埋められた。


 トマス・マナーズ侯爵は見かけ上は捜査に協力していたが、ジンジャー商会のサミュエルと反乱に関して話したかどうかは完全に否認した。一方、ブラッドフォードの手の者、つまりクラレンス家の監視結果は反乱前の情報共有があった事を示していた。


 そういう訳でマナーズ侯爵の聴取は長引き、いつまでも領地の指揮が出来なかった。責任者も指導力のある者も、物流に影響を及ぼせる者もマナーズ領にはいなかった為、食料危機は長引いた。マナーズ侯爵家ともジンジャー商会とも仲の良かった貴族・商会は、反乱捜査を受けている両者に協力的な姿勢を見せる事を嫌がった為、そちらからの支援は受けられなかった。もちろん、マナーズ侯爵ともジンジャー商会とも仲が良くなかった貴族・商会はむしろ教会の炊き出しを手伝った為、食料状況が好転しないマナーズ侯爵領からの市民の流出は続いた。


 市民に襲われた農家すら農地を放りだして領外の難民支援に縋る有様だった。

大司教デイビー・クラレンスもそれに資金提供した王家も、飢餓で人心を弄び、市民の流出を促した。食料テロだった。


 それでもマナーズ領の行政担当者も王都のマナーズ侯爵家関係者も食料購入元を探したが、もはや蔑まれる対象のマナーズ侯爵関係者は、港湾都市で女達が足元を見られて金をむしり取られた様に、市場より高く食料を売りつけられた。そして、領地収入が不安視されていた為に現金での支払いを求められ、金庫が空になった後は融資を申し出る商会は存在しなかった。かくして各方面からマナーズ侯爵は差し押さえの訴訟を起こされ、結局破産した。


 マナーズ侯爵の家族は夫人の実家からも受け入れを拒否され、行く先が無かった。こうしてマナーズ家の女性は修道院に入り、男達は平民として汗水たらして働くしか無かった。


 もちろん、ジンジャー商会もニューサム商会もサミュエルとゲイリーという顔の利くリーダーがいなくなり、信用も無くなり、取引をする者が無くなり、解散した。教会も王家も看板だけ変わって同じ中身で同じ反王家活動をする事を恐れていた為、マナーズ領に巣食っていたこれらの商人達の離散を喜んだ。


 こうして、一部の農民まで流出してしまった元マナーズ侯爵領はそのままでの再興が難しく、農民が多数流出した地域を王家の直轄領とし、残りの部分を伯爵領と格下げをして元マナーズ侯爵とは血の繋がらない伯爵家の前伯爵を領主とした。その経験を生かして貰おうと考えたのだ。


 王家の直轄領には修道院が立てられ、混乱の中で親に捨てられた孤児達と修道士達が力を合わせて農業を行った。つまり、王家も教会も最低限のフォローは行った事になる。無神論者の権力主義者なら勝った以上は好き放題をやるだろうが、残念ながらアルフレッド王もデイビー大司教も天使と神鳴りで神の目がこの国に届いている事を知らされていた。だから貧民達の末路にも一定の責任を取ったのだ。

 明日も更新します。

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